天皇陛下「日本人が決して忘れてはならない」 フィリピン人戦没者に祈り

フィリピンを訪問中の天皇、皇后両陛下は27日、先の大戦で亡くなった現地の人たちをまつる「無名戦士の墓」を訪れた。
時事通信社

両陛下、無名戦士の墓で2分間拝礼 フィリピン側の慰霊

フィリピンを訪問中の天皇、皇后両陛下は27日、先の大戦で亡くなった現地の人たちをまつる「無名戦士の墓」を訪れた。かねて現地での慰霊を望んでいた両陛下にとって、念願かなった訪問。碑に向かい、2分近くにわたり頭を下げた。

フィリピンは太平洋戦争で日米の戦場となり、111万人とも言われるフィリピン人が犠牲になった。天皇陛下は皇太子時代の1962年に初めて訪れた際、訪問前に夜を徹してフィリピンの歴史を学び、現地で犠牲者の遺族と交流した経験がある。

「先の大戦においては、日米間の熾烈(しれつ)な戦闘が貴国の国内で行われ、この戦いにより、多くの貴国民の命が失われました」。昨年6月、来日したアキノ大統領を迎えた晩餐(ばんさん)会で、天皇陛下はそう言及し、「私ども日本人が深い痛恨の心と共に、長く忘れてはならないこと」と語った。54年前の訪問から心を寄せ続けた思いを口にした場面だった。

宮内庁幹部によると、今回の訪問が決まった際、フィリピン側戦没者の慰霊を日程に加えるよう希望したのは両陛下だったという。こうした意向を踏まえ、日本側の慰霊碑を訪れる前に、無名戦士の墓での拝礼が設定された。

(2016年1月27日22時25分)

(朝日新聞社提供)

アキノ大統領主催の晩さん会でお言葉を述べられる天皇陛下=27日午後、フィリピン・マニラ[代表撮影]

両陛下、フィリピンで晩餐会に出席 「深い喜びと感慨」

フィリピン訪問2日目を迎えた天皇、皇后両陛下は27日夜、首都マニラの大統領府があるマラカニアン宮殿で、アキノ大統領主催の晩餐(ばんさん)会に出席した。

天皇陛下は1962年の前回訪問に触れ、「多くの貴国民から温かく迎えられたことは、私どもの心に今も深く残っております」と述べた。

天皇陛下は54年ぶりの再訪について「ここフィリピンの地を再び踏みますことは、皇后と私にとり、深い喜びと感慨を覚えるものであります」と語った。また、スペインの支配下から独立を目指して活動したホセ・リサールに言及し、「日比両国の友好関係の先駆けとなった人物」と語った。両陛下はこの日、リサールの記念碑を訪れた。

先の大戦でフィリピンが日米の戦場となり、多くの市民が犠牲になったことにも触れ、「私ども日本人が決して忘れてはならないこと」と述べた。今回の訪問については「両国国民の相互理解と友好の絆を一層強めることに資すること」を深く願う、などと語った。

(2016年1月27日22時46分)

(朝日新聞社提供)

天皇陛下のお言葉全文 フィリピンでの晩餐会

天皇陛下は27日、フィリピンでの晩餐(ばんさん)会にあたり、お言葉を述べた。全文は次のとおり。

貴国と我が国との国交正常化60周年に当たり、大統領閣下の御招待によりここフィリピンの地を再び踏みますことは、皇后と私にとり、深い喜びと感慨を覚えるものであります。今夕は私どものために晩餐会を催され、大統領閣下から丁重な歓迎の言葉をいただき、心より感謝いたします。

私どもが初めて貴国を訪問いたしましたのは、1958年12月、ガルシア大統領御夫妻が国賓として我が国を御訪問になったことに対する、昭和天皇の名代としての答訪であり、今から54年前のことであります。1962年11月、マニラ空港に着陸した飛行機の機側に立ち、温顔で迎えて下さったマカパガル大統領御夫妻を始め、多くの貴国民から温かく迎えられたことは、私どもの心に今も深く残っております。この時、カヴィテにアギナルド将軍御夫妻をお訪ねし、将軍が1898年、フィリピンの独立を宣言されたバルコニーに将軍御夫妻と共に立ったことも、私どもの忘れ得ぬ思い出であります。

貴国と我が国の人々の間には、16世紀中頃から交易を通じて交流が行われ、マニラには日本町もつくられました。しかし17世紀に入り、時の日本の政治を行っていた徳川幕府が鎖国令を出し、日本人の外国への渡航と、外国人の日本への入国を禁じたことから、両国の人々の交流はなくなりました。その後再び交流が行われるようになったのは、19世紀半ば、我が国が鎖国政策を改め、諸外国との間に国交を開くことになってからのことです。

当時貴国はスペインの支配下に置かれていましたが、その支配から脱するため、人々は身にかかる危険をも顧みず、独立を目指して活動していました。ホセ・リサールがその一人であり、武力でなく、文筆により独立への機運を盛り上げた人でありました。若き日に彼は日本に1カ月半滞在し、日本への理解を培い、来たる将来、両国が様々な交流や関係を持つであろうと書き残しています。リサールは、フィリピンの国民的英雄であるとともに、日比両国の友好関係の先駆けとなった人物でもありました。

昨年私どもは、先の大戦が終わって70年の年を迎えました。この戦争においては、貴国の国内において日米両国間の熾烈(しれつ)な戦闘が行われ、このことにより貴国の多くの人が命を失い、傷つきました。このことは、私ども日本人が決して忘れてはならないことであり、この度の訪問においても、私どもはこのことを深く心に置き、旅の日々を過ごすつもりでいます。

貴国は今、閣下の英邁(えいまい)な御指導のもと、アジアの重要な核を成す一国として、堅実な発展を続けています。過ぐる年の初夏、閣下を国賓として我が国にお迎えできたことは、今も皇后と私の、うれしく楽しい思い出になっています。

この度の私どもの訪問が、両国国民の相互理解と友好の絆を一層強めることに資することを深く願い、ここに大統領閣下並びに御姉上の御健勝と、フィリピン国民の幸せを祈り、杯を挙げたいと思います。

(2016年1月27日21時13分)

(朝日新聞社提供)

アキノ大統領、両陛下を迎えスピーチ 晩餐会

27日夜、アキノ大統領が天皇、皇后両陛下を迎えた晩餐(ばんさん)会でスピーチした。内容は次の通り。

天皇皇后両陛下を再びフィリピン共和国にお迎えできたことは、我が国民にとってこの上ない光栄でございます。今回のご訪問は、両国の国交正常化60周年を迎える誠に喜ばしい年に実現されましたが、両陛下がこのたび我が国にお越しくださったという事実そのものが、両国間の友好関係の深さを明確に物語っております。

今をさかのぼること数十年、1962年に天皇皇后両陛下は初めて我が国にお越しくださいました。両陛下は、フィリピン国民が過去に経験した痛みを思うと自身をどのように迎えてくれるのか不安であった、と私にお話しくださいました。ところが、当時のディオスダド・マカパガル大統領や多くの国民が歓迎する姿を目の当たりにされ、こうしたご不安は杞憂(きゆう)に終わったのです。数十年前のこのご訪問の際に数多くの心温まる思い出を持ち帰られたように、今回ご帰国の途に就かれる際にも、フィリピン国民の抱く敬愛の念と歓迎の心に再度触れられ、前回にも勝るほどのよい思い出を携えていただきたい、これが我が国民一同の願いです。

私が天皇皇后両陛下にお目にかかるのはこれが4度目となります。最初は1986年に私の母の日本訪問に随行したとき、その後は私が大統領として貴国を訪れた際のことです。お目にかかるたびに感銘を受けるのは、両陛下が示される飾り気のなさ、ご誠実さ、そして優美さです。両陛下が今日までいかにして責務や義務を果たされ、多大な犠牲を払われてきたのかを思うと、誰もが驚嘆せずにはいられません。そしてそのすべては、さまざまな関係を立て直してさらによいものにしていきたいという、ご生涯をかけた献身の一環を成すものなのです。

貴国の象徴として、善意を体現する存在として、天皇皇后両陛下がいかなる困難を担われてきたのか、私には想像することしかできません。私が大統領の座に就く際には、任期中に限っては自身を犠牲にしなければならないということを十分承知して、国民から負託されたこの職務を引き受けました。その私が両陛下にお会いして実感し、畏敬(いけい)の念を抱いたのは、両陛下は生まれながらにしてこうした重荷を担い、両国の歴史に影を落とした時期に他者が下した決断の重みを背負ってこられねばならなかったということです。

しかし、こうした歴史の上に、両国は以前よりもはるかに揺るぎない関係を築いてきました。貴国は堅実で有能かつ信頼できるパートナーとして、今日まで我が国民の発展を後押ししてくださっています。ここでその一端をご紹介したいと存じます。2014年、貴国は我が国にとって最大の貿易相手国であり、この年に実施された我が国への政府開発援助の最大供与国でもあって、さらには我が国投資促進機関認可ベースの対内直接投資額においても1位の座を占めています。貴国はまた、ミンダナオの和平プロセスや開発に加え、我が国の海上能力や災害管理能力の強化をも支える重要なパートナーであり、アジアにおける法の支配を推進する力強い同盟国でもあります。ここに挙げたものだけでなく、貴国から受けたすべての恩恵に対し、フィリピン国民を代表して、貴国の言葉で「どうもありがとうございます」と申し上げます。

天皇皇后両陛下、今回のご訪問は、両陛下の人生のこの時点で我が国にお越しくださるご選択をなされたことを思うと、いっそう意義深いものとなります。1960年代にお越しいただいた際には、旅の所要時間は今回より長かったかもしれませんが、両陛下のお身体(からだ)へのご負担は今回よりも軽かったのではないかと存じます。今宵(こよい)、あまねく平和を実現する敬愛の象徴たる両陛下にご臨席たまわったことを心から名誉に思うとともに、これは全出席者の総意でもあると申し添えます。

ここで、皆様とともに乾杯をいたしたいと存じます。

天皇皇后両陛下のご多幸とご健勝をお祈りし、両国民の連帯が、将来世代にわたって両国に繁栄をもたらすことを願い、そして、両国の戦略的パートナーシップがアジア全域の平和、安定、発展に向けた確固たる礎となることを願って。

(2016年1月27日21時24分)

(朝日新聞社提供)

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