「長時間働くな、良く眠れ、そして旅に出よ」お金を出して社員に旅行させる理由、CEOが明かす

夏の間は週4日30時間労働。

ベースキャンプのCEO、ジェーソン・フライド氏の勤務時間は9-17時。従業員にも同じように働いてほしいと思っている。

無料の食事やクリーニングなど、IT企業の多くには充実した福利厚生がある。しかし、一見羨ましく思えるこうした特権は、時に社員を長時間オフィスに縛り付ける「手錠」となる。

社員約50人のソフトウェア開発企業「ベースキャンプ」は、これとは正反対の働き方を従業員に求めている。

15年前に立ち上げに関わり、現在CEOを務めるジェーソン・フライド氏(41)が社員に求めているのは、週40時間の勤務時間、十分な睡眠時間、健康的な生活、そして視野を広げることだ。

「無料のクリーニングや、食事が素晴らしいことであるように言われています。だけどそこには『オフィスを出るな。必要なものはすべてここにある』というメッセージが込められています。私には、ちっとも素晴らしいとは思えません」とフライド氏は語る。

週40時間以上の勤務が、一所懸命働いていることを意味するわけではない。それはただ、週40時間以上働いているということだ。


ベースキャンプの福利厚生は、旅行のための有給休暇だ。しかも旅行の費用は会社持ち。勤続1年以上の社員が対象だが、新入社員には、一晩街で好きなことをするという特権が与えられる。この費用も会社持ちだ。

フライド氏が1月9日に投稿したブログの中には、羨ましくなるような福利厚生の詳細が書かれている。

  • 夏の間は、週4日30時間労働。
  • 健康のために月100ドル(約1万2000円)を支給。ジムや、ヨガクラス、レースの参加などに使える。
  • マッサージのために月100ドルを支給。
  • 地域密着型農業の会員権が与えられる。地産の果物や野菜がもらえる。
  • どこでも好きな場所で働ける。
  • 3年ごとに1カ月の長期休暇。

それだけではない。最近フライド氏は(アメリカに制度のない)育児休暇制度を正式に導入した。育児に携わる父親・母親は、16週間有給休暇を取得できる。ちなみに、フライド氏自身も1歳3カ月の息子の父親だ。

従業員にオフィス以外の場所で様々な経験を積んでもらいたい、とフライド氏は話す。ベースキャンプの給与はシカゴではトップ5に入る水準だという。給与をさらに100ドル増やすよりも、100ドルの福利厚生によって、もっと健康で幸せになるための行動を後押しする。

ピーター・ステインバーガー「月100ドルの支給はそんなにいい? 給料を上げた方がいいんじゃない? 大人なんだし」

ジェーソン・フライド「100ドルを覚えている人はいないけれど、家族のための新鮮な野菜と毎月のマッサージは記憶に残る。大切なのは経験だ」

ベースキャンプの従業員は、毎年3週間の休暇を取得できる。会社は旅行先が書かれた「本」を毎年準備し、従業員たちはそこから好きな場所を選ぶ。旅行期間は5-7日間、1人でも誰かと一緒に行ってもいい。2016年の旅行先はマルタ島のワイナリー、グランドキャニオン、エチオピア、イタリアのヴェローナ。旅行の手配も会社がやってくれる。旅行の計画にエネルギーを割いてストレスを感じないようにするため、とフライド氏は話す。

制度が伝えるメッセージは「休暇をとって、オフィスから出て行って!」だ。

エチオピアを選ぶのは誰だろう。


現金で支払われていたボーナスが、会社持ちの休暇に変わったのは数年前だ。「自分では選ばないような経験をしてもらいたいんです。経験は、人を成長させます」とフライド氏は述べる。

IT業界では、オフィスを離れることは歓迎されない。特にAmazonのような企業では、長時間のハードワークが良しとされている。

「この業界はおかしくなっています。従業員をへとへとになるまで働かせ、仕事以外の時間を大切に考えていません。ぶっ飛んだ会社を作る必要はないんです。従業員を適切に扱いながら、収益を上げられます」とフライド氏は話す。

ジェーソン・フライド「現在の福利厚生のままで、株式を公開します」

ヘクター・パラ「長期休暇、いいですね。社員が長く働くし、会社に忠誠心を持つようになる」

ベースキャンプは、株式公開していないが、「数千万ドル」の利益を出していると言う。

ひとつだけ、ベースキャンプが他のIT企業と共通している点がある。多様性の取り組みが遅れているのだ。従業員の3分の2が男性で、アフリカ系アメリカ人はいない。「社会構造を反映していない」とフライド氏は話す。ただ多様化を取り入れようとしており、女性の割合を上昇させている。毎日学んでいる、とも同氏は述べている。

多様性が進まない理由の一つに、ベースキャンプがあまり新規採用をしないことがある。従業員を大切にするため、離職率がとても低い。過去15年間で会社を辞めた従業員はほんの一握りだそうだ。

低い離職率は、福利厚生にかかる費用を埋め合わせる。新規採用や従業員のトレーニングにかかるコストを福利厚生のために使えるのだ。

無料の旅行を提供するだけの金銭的余裕がない企業でも、週40時間労働にするだけで大きな利益を得られる、とフライド氏は主張する。

「福利厚生だと考えられていないものが、価値ある福利厚生になります。週40時間労働にし、従業員に十分な睡眠時間を取ってもらうだけで、会社は大きな利益を生むでしょう」

ハフポストUS版に掲載された記事を翻訳しました。

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79年に米ブラウン大を卒業。外資系生活用品メーカーに就職するが1年足らずで退社。81年からNHKで英語放送のアナウンサーなどを務める。その後、NHKのBS でニューヨーク駐在キャスターとなり88年に帰国。BS「ワールドニュース」のキャスターを経て、93年より『クローズアップ現代』のスタートからキャスターとなり、2016年3月まで23年間、複雑化する現代の出来事に迫る様々なテーマを取り上げた。長く報道の一線で活躍し、放送ウーマン賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞など受賞。

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