クリムトが描いた女性たち。この無名のミューズが世界を変えた(画像集)

彼女たちの名前をあまり聞くことはない。しかし、多分知っておいたほうがいいだろう。

GUSTAV KLIMT, EUGENIA (MADA) PRIMAVESI, 1913/14 © TOYOTA MUNICIPAL MUSEUM OF ART OIL ON CANVAS 140 X 85 CM

私たちは、彼女たちの名前をあまり聞くことはない。しかし、多分知っておいたほうがいいだろう。画家グスタフ・クリムトやエゴン・シーレ、オスカー・ココシュカという名前は、十分親しまれている。アート好きなら、クリムトのことなら、作品「接吻」は知っていて、イーゼルの前で独特の服をまとう金描画の画家というイメージを思い浮かべるだろう(彼は下着をつけないことがよくあった)。

シーレやココシュカは、知名度が低いかもしれないが、百科事典を開くと、歴史上に3人のオーストリアの画家が記されている。しかし、オットー・プリマヴェージという名前は聞いたことがあるだろうか? エディス・シーレはどうだろう……? マーサ・ヒルシュは? 答えは、多分「聞いたことがない」だろう。

EGON SCHIELE, EDITH SCHIELE IN STRIPED DRESS, 1915 © COLLECTION OF THE GEMEENTEMUSEUM DEN HAAG OIL ON CANVAS 180.2 X 110.1 CM

これらは、今いった男性画家たちのキャンバスに、永久に刻まれた女性たちの名前だ。画家の妻や娘、愛人、友人などで、凝った服装や紛れもない裸で、3人の男性によって、それぞれの画風で描かれている。これらが描かれた、20世紀初期のウィーン――性的なことが物議を醸しやすい場所――この時代の墓標であり、女性たちは鑑賞者をじっとにらんでいるように見え、紋切型の静かなミューズに対抗している。

「19世紀末、ウイーンの知識人たちは、完全に女性の性的な行動に取りつかれていました」と、ニューヨークのギャラリー・オーナーで学芸員のジェーン・カリアさんは、オーストリア絵画に関する論文で強調している。

クリムトも、シーレも、ココシュカもそうだった。彼らは表現主義的なポーズをとった愛人やモデルを描き、それ以前は例のない方法で顔に焦点を当てた。この時代の社会は、女性が性を持った存在で、独立した市民だと見られ始めた時期で、これらの肖像は大きく変化した。

OSKAR KOKOSCHKA, MARTHA HIRSCH, 1909 PRIVATE COLLECTION, © FONDATION OSKAR KOKOSCHKA/ BILDRECHT, VIENNA, 2015 OIL ON CANVAS 88 X 70 CM

エロティックな女性を描くこと、特にあからさまにセックスを描くことは、保守的な人には不快であり、その他の人々には魅惑的だった。今日、絵に描かれた女性たちは、オーストリアのベルヴェデーレ絵画館を訪れる人たちを魅了している。

アメリカ・ニューヨークで「クリムト、シーレ、ココシュカの女性たち」と題して展示会が開催されている。ここでは美術史の授業ではあまり聞いたことのない名前の女性や、無名の女性にもスポットを当てている。クリムトは、母親と2人の姉妹と暮らし、シーレは、“みだらな作品”によって留置場で過ごしているとき、ウイーンの名も知れぬ女性たちは、男女共同参画や(女性が)隅に追いやられた世紀からの解放を求めて戦っていた。

GUSTAV KLIMT, FRITZA RIEDLER, 1906 © BELVEDERE, VIENNA OIL ON CANVAS 153 X 133 CM

ベルヴェデーレの展示会やその図録では、主に、3人の画家が女性の体に心を奪われていたことや、彼ら、つまり男性が、どのように一般的なメディアの「女性のイメージ」を変えたかに焦点を当てている。しかし、それでも、展示されている絵は「男性が、男性を見ている女性を見て造りだされた像だ」とカリアさんは指摘した。

専門家によるエッセイは、当時オーストリアで社会的、経済的同等のために戦った「ジェネラル・オーストリアン・ウーマンズ・アソシエーション」や、オーストリア女性協会連盟などの団体の努力に再び目を向けさせる。他の有識者も、展示された芸術作品に政治的、文化的なコンテクスト(背景)を与え、男性の支配的意見が途中で変わっていく様子を説明している。

EGON SCHIELE, PORTRAIT GERTI SCHIELE,1909 © 2015. DIGITAL IMAGE, THE MUSEUM OF MODERN ART, NEW YORK/SCALA, FLORENCE OIL, SILVER, GOLD-BRONZE PAINT, AND PENCIL ON CANVAS 139.5 X 140.5 CM

「中産階級の女性たちが、(社会に)抗議し、組織を作り女性運動に繋げていったのですが、それを先導したのは働く女性でした」と、専門家は当時を分析。「彼女らは、男性優位の教育システムや、単に象徴的な妻としての地位、意味のない慣習などの見直しに興味を持っていただけではなく、女性の権利を要求し、男女の役割の再評価し、再解釈を主張したのです」

クリムトの金箔を被せた女性や、シーレの刺激的な人物像は、新しい発想や急進的な考えを持つ人たちに魅了された。これらの作品は、新興芸術の象徴である一方、この時期において傑出すべき女性指導者たちの物語でもある。このあまり語られない歴史も重要だ。

「クリムト、シーレ、ココシュカの女性たち」の展示会は、2016年2月28日まで、オーストリアのウイーンで開催されている。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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