寺島しのぶ、歌舞伎界へのコンプレックス明かす「だからこそ、男目線」

昔は男社会にいることが嫌だったけど、今は女に生まれてきた以上、そこを使ってやろうじゃないと。そういう部分はあるかもしれない。

寺島しのぶ、梨園に“女”として生まれて……歌舞伎界へのコンプレックスも

NHK連続テレビ小説『あさが来た』では、主人公・あさの母親役を演じている女優の寺島しのぶ。また、古風な母親役から一転、dTVドラマの『裏切りの街』は、年下男性と不倫する専業主婦役を“リアルすぎるほどリアル”に熱演。徹底してリアリティを追求したその演技と、男社会の歌舞伎界に“女性”として生まれた寺島ならではの芝居観について真摯に語ってくれた。

◆池松(壮亮)くんのような人が、映画界を盛り上げていくと思う

――dTVで配信中の『裏切りの街』では、寺島さんの“演技じゃないように見える演技”も、観る者を引きこんでいく理由のひとつだと思いました。

【寺島】 『裏切りの街』での演技に関しては池松くんや夫役の平田(満)さん、相手役の方と会話することで自分も変わってくるから、私だけの問題ではないんですよ。

いかにも“芝居やっています”って人と絡んでいないから、必然的に私もそちらに引っ張られていく。そこについていけばいいっていう感覚でした。それに元々、(寺島演じる)智子は攻撃的な女性ではないし、最後の最後まで自分から仕掛けていくことはないので、そこらへんは相手の出方を見て、私は合わせるだけっていう感じでした。

――いわゆる受け身の芝居ということだと思いますが、寺島さんの“ためらい”の芝居は絶妙でした。数秒の“ため”の表情の中に、あらゆる複雑な感情が詰まっているなと。

【寺島】 でも、決して“ため”の芝居は得意ではないですよ。すぐにリアクションするほうが簡単だし、私も自分の性格上、ためずにパッと言っちゃうほうですからね。

――相手役の池松壮亮さんは共演されてみていかかでしたか?

【寺島】 池松くんは本当に信じさせてくれる人ですね。「朝、おはようございます」って入ってくるときも、バイバイするときも、ずっと雰囲気を壊さずにいてくれる。それは素晴らしいと思うし、こういう人が映画界を盛り上げていくんだろうなって感じました。

◆男社会で生きてきたからこそ、演技に関しては意外と男目線

――以前、「歌舞伎界に生まれてコンプレックスがある」とおっしゃっていましたが、それは今でもありますか?

【寺島】 ありますよ。でも男社会で生きてきたからこそ、演技に関しては意外と男目線なんですよ。体は女だけど気持ちは男だから、例えば裸になることにもあまりこだわりがないのかもしれないです(笑)。

――それこそ“職人”気質なんでしょうね。

【寺島】 そうですね。そうならざる得ない環境だったんでしょうね。昔は男社会にいることが嫌だったけど、今は女に生まれてきた以上、そこを使ってやろうじゃないと。そういう部分はあるかもしれない。

――そんな寺島さんが演じるNHK連続テレビ小説『あさが来た』の主人公・あさの母親役・梨江は古風な日本女性という役柄ですが、その裏には複雑な感情も持っている。そこはご自身にも通じるものがありますか?

【寺島】 『あさが来た』は、今よりもっと男性の世界に踏み込んじゃいけないっていう時代ですからね。そのなかで梨江は保守的な女性で、自分のお腹から産まれた子供がどうしてこんな風になっちゃんだろう? って、あさに対して常に葛藤がある。

でも、だんだんとあさがやることを認めざるを得なくなって、最後には自分は間違っていたかもしれないと思い始めるわけですよ。そこは私も男社会にいながらも「なんで男がそんなに偉いわけ?」っていうところがあったから、わかります。でも逆に女性がこうすると男性はこう反応をするんだってこともわかるので、男性じゃなくてよかったとか、男性を知ることができてよかったなって感じる部分も多い。そういう意味では男性に対しても女性に対しても、けっこう醒めているかもしれないです。

◆リアル過ぎるぐらいリアルに演じることが自分の使命

――では、お芝居でこれだけは譲れないというポリシーみたいなものはありますか?

【寺島】 「こういう人いるよね」って思ってもらいたいです。私はリアル過ぎるぐらいリアルにやることが自分の使命だと思っています。例えばdTV『裏切りの街』の智子を絶世の美女がやってしまったら、話が違ってくると思うんです。でも私がやれば「この人なら荻窪あたりにいるかもしれない」って思ってもらえる(笑)。そういうところが私に求められていることで、美しくあらねばならないっていうところは別の誰かがやればいいんです。

――しかも、寺島さんは役柄によって見事にオーラを消しますよね(笑)。

【寺島】 「こういう人、歩いてそうだよね」ってところをリアルに、でもそれを芝居でやることが自分の楽しみなんです(笑)。とにかくセリフを自分に落としこんで、どんなことを言われようと常にその人間=役でいられるようにしたい。そして、1つひとつの役ごとに変身していけたらいいなと思います。

(文:若松正子)

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