トランプ氏の人気を支えるアメリカ社会の「格差と貧困」 ノーム・チョムスキー氏に聞く

低学歴の白人のある世代で、死亡率が急上昇していることと関連があるという。
FILE - In this Feb. 26, 2016, file photo, Republican presidential candidate Donald Trump gestures during a speech at a rally in Oklahoma City. Democrats increasingly view Trump as the likely Republican nominee and are seeking consensus on the best way to challenge the billionaire's unpredictable appeal in a general election. (AP Photo/Sue Ogrocki, File)
FILE - In this Feb. 26, 2016, file photo, Republican presidential candidate Donald Trump gestures during a speech at a rally in Oklahoma City. Democrats increasingly view Trump as the likely Republican nominee and are seeking consensus on the best way to challenge the billionaire's unpredictable appeal in a general election. (AP Photo/Sue Ogrocki, File)
ASSOCIATED PRESS

2016年アメリカ大統領選挙の指名争いで、共和党のドナルド・トランプ氏が旋風を巻き起こしている。この現象の背景に、一体何があるのか。

マサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー名誉教授は2月25日、ハフポストUS版とのインタビューで、アメリカ社会に深く根ざした「恐れ」と「失望」が火をつけている側面があると語った。低学歴の白人のある世代で、死亡率が急上昇していることと関連があるという。

「トランプ氏は明らかに、怒り、恐れ、不満、失望といった感情の深い部分に訴えています。そのターゲットはおそらく、戦争や大災害ではない理由で死者が増えている集団です」

共和党の指名争いでトップを走るトランプ氏は、保守や中道や革新といった政治的な立ち位置を超え、アメリカ人にとって悩みの種になっている。大げさな噓つき億万長者のトランプ氏は、序盤戦の予備選・党員集会で3勝し、情勢調査でも、全国的にも、次に予備選・党員集会のある州でも首位に立っている。女性ラテン系イスラム教徒その他マイノリティーを標的にした憎悪と暴言をよりどころに、今後数週間で、共和党の指名獲得をほぼ確実にするかもしれない。

その原動力は低学歴の白人労働者層だ。そして多くの人が、トランプ氏はアメリカで「白人の優位が揺らいでいる」ことへの恐怖に火をつけているとみる。チョムスキー氏は、もっと現実的な力学が働いている可能性もあると指摘する。

一般的に、平均余命は、安定して伸びてきた。そして健康保険の普及で、世界中の多くの人々がより長く生きられるようになった。もちろん、例外はある。たとえば戦争や大災害などだ。しかし今のアメリカで起きていることは、チョムスキー氏によると「かなり異なる」という。

人々は豊かになり、医療も進歩したのに、アメリカは他の国より平均余命が短い。そして「平均」余命は最近になって上昇しているが、その恩恵は平等に行き渡っていない。アメリカ人は金持ちが長生きし、貧しい者は長生きできないのだ。

低学歴の白人のうち、中年男性は特にこの傾向が強いと、最近の複数の調査結果が示している。他の年代や、人種、民族の集団は以前よりも長生きできるようになったが、白人で低学歴で中年男性という特定の層は寿命が短い。

ある調査結果によると、この層で死亡率が上昇しているのは、糖尿病や心臓疾患といった、多くのアメリカ人を死に至らしめている疾患が理由ではない。むしろ、自殺の急増、アルコール依存症による肝疾患、そしてヘロインの過剰摂取や麻薬の処方が原因だ。

「戦争も大災害もなくなったことが、この層の死亡率を高めたのです。特定の世代に怒り、絶望、不満を残した政策の影響で、彼らは自らを傷つける行動に走っているのです」

これがトランプ氏の人気の背景だと、チョムスキー氏は主張する。

チョムスキー氏はAlternetとのインタビューで、多くのアメリカ人が現在直面している貧困を、かつてアメリカ人が1930年代の大恐慌で味わった状況と比較した。

「1930年代と比較すると興味深いことが分かります。私もいい年なもので、当時のことを覚えているんですけどね」とチョムスキー氏は話す。「客観的に見て、貧困と困窮は今より遥かにひどいものでした。だけど貧しい労働者や失業者には、今はない希望がありました」

チョムスキー氏は大恐慌時代にみられた希望の背景として、闘争的な労働組合の成長や、主流から外れた政治組織の存在をあげる。

しかし今日、貧困にあえいでいるアメリカ人にとって、雰囲気はまったく違う。

「彼らは絶望とあきらめ、怒りの縁に沈んでいます。その絶望や怒りは、彼らの命と世界を脅かす制度を解体しようとするのではなく、もっと多くの犠牲を払うような方向へと向いています。ヨーロッパでファシズムが興った時と状況は似ています」

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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