【広島・中3自殺】尾木ママ、学校に怒り爆発 「自分が評価をどう上げるか考えるようになってしまった」

二重に不信感を持ちました。

広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校で、3年生の男子生徒が自殺した問題は、事実と異なる万引きの記録をもとに、学校側が私立高校の専願を拒否したことが、大きな問題となっている。

元中学教師の教育評論家「尾木ママ」こと尾木直樹氏は3月11日、「『彼は自分はやっていない』と正直に言わなかったのか あるいは言えなかったのか!?」が最大の疑問だと、3月11日のブログにつづった。

10日深夜のNHK総合テレビ「NEWS WEB」に出演した尾木ママは、

「中学校3年生の担任も何回もやりましたし、進路指導主任もずっとやってきましたけど、こんな話は聞いたこともないし、見たこともないし、想像だにしなかったですね。本当にひどい」

と、怒りをあらわにした上で、「明らかに自分ではない非行歴のことを、本当に生徒は何ら抗議も反論もせず自殺したんですか」というTwitterでの質問に、以下のように答えた。

尾木ママ:僕も腑に落ちないです。だから、いじめ関係の調査委員をやってきたりとか、いろんなところの話を詳しく知っていますけれど、多くの場合は学校が有利なように作ってしまうことが多いんです。生徒が亡くなっているから分からないんですよ。今回は、先生とのトラブルでしょ。目撃者は誰もいないんです。そうすると、(自殺から発表まで)3カ月ありましたから、普通なら文科省の指導では、事件が起きたら1週間以内に第三者の委員会を立ち上げなければいけないんです。そうして第三者が調査すべきなんです。ところが自分たちでこっそり調査をやっていて、生徒には「急性心不全で亡くなった」と、ご遺族の意向があったといいますけど、済ませちゃってて、その間に自分たちで、ある意味で、「その生徒にも悪いところがあるんじゃないか」と思うような言い回しの、意図されなかったにしても、そういう気持ちが出来てしまったんじゃないかという気が、すごくしますね。

これからじゃ遅すぎるんです。もちろんこれからでもやってもらわなきゃ困るんですし、文科相にも入ってほしいと思います。そもそもすぐにやらなきゃいけないんです。それを分かっててやってないんですよ。そこに不信感を持ちますね。

生徒の自殺に関する全校集会後、取材に応じる広島県府中町立府中緑ケ丘中学校の坂元弘校長(右)=9日午前、同町 撮影日:2016年03月09日

校長が作成した報告書では、生徒と担任教諭との面談は計5回、いずれも廊下で行われたとされているという。

11月16日ごろ

(担任)「万引きがありますね」

(生徒)「えっ」

(担任)「3年ではなく、1年の時だよ」

(生徒、間を置いて)「あっ、はい」

26日ごろ

(担任)「進路のことだけど、万引きがあるので専願が難しいことが色濃くなった」

(生徒)「万引きのことは家の人に言わないで。雰囲気が悪くなる」

(担任)「わかったよ。過去をほじくるつもりはない」

面談「万引きがありますね」 中3生徒と担任のやりとり:朝日新聞デジタルより 2016/03/10 14:03)

番組の司会を務める鎌倉千秋アナウンサーは、「肯定の『はい』ではなく、ただの返事のつもりだった。自分では認めたつもりはないけれど、万引きした方向で話が進み、2回にわたって『専願が難しいことが色濃くなった』と言われた」と、男子生徒の親の反論を紹介した。

尾木ママ:これもね、学校側が作成した文章なわけですよ。その冒頭に担任は「万引きはありますね」と言ったと。一般の人が見れば、非常に上から目線で決めつけている言い方じゃないですか。この先生は中学2年から赴任してきている先生で、1年のことは知らないわけですよ。しかも彼は評判がすごくいい子でしょ。成績も10番以内と言われているし。という子だったら、「えっ、記録にあるけど、本当なの?」と聞くのが普通だと思うんですよ。「ありますね」という言い方はないだろう。自分たちが書いた記録の文章にしては、そんなこと書いたら、僕なんかムッとするのに、「変だなあ、この学校」と思うということが分かっていなくて書いておられるのかなあと、二重に不信感を持ちました。

鎌倉アナ:男子生徒側が他の人に「違うんだ」と言えなかったのか。

尾木ママ:この通りだとしたら、彼の人柄、聞こえてくるのによりますと、自分がここで否定してしまったら、じゃあこれは誰のことなの?ということになり、推薦、専願が欲しい子がダメになったら、とか、かばうような意味で、ここはごまかして、あえて否定も肯定もしないという判断も働いたかもしれない。僕の経験だと、そんな気がしますね。

尾木ママは背景として、教師の評価システムのため、教師が自らの評価のことばかり気にかけるようになり、生徒と教師が信頼関係を結ぶのが難しくなったと指摘した。

尾木ママ:2003年あたりから急速にその状況は広がりましたね。2000年入ってからですね。人事考課制度で教員の評価システムが入ってくるようになり、給料も変わりますし転勤も影響してくるということが起こっているわけですよね。皆さんの時代は、校長、教頭がいて、あとはみんなヒラの先生という感じだった。それが、たとえば、ある県では、校長の上に統括校長がいたり、副校長がいて主幹がいて主任がいて指導教諭がいて平の教師と、序列がものすごいついてる。みんなで仲良く出来る雰囲気が全然ない。みんな自分が評価をどう上げるかを考えるようになってしまった。

鎌倉アナは、体罰など教師の指導がもとで生徒が自殺した「指導死」という言葉や、「指導死」親の会の大貫隆志さんの「平成に入って約60件、事実でない指導を受けて自殺したとみられるケースも約10件。学校の中では子供の言い分はなかなか取り上げられない」という言葉を紹介した。

尾木ママ:地域、県によっても温度差がだいぶあるんですよ。僕も全国歩いてますと、そうでない地域の方は、そうでないよと反論されると思いますし、30代以上の親御さんは「尾木先生の偏見でしょ」と思うかも知れないけど、今、急速に変わってますから、わかりにくくなってるんですね。今の親御さんたちにも。学校が、先生たちが置かれている状況が。

民間の企業だったら、とっくに日本の学校はつぶれていると思います。つぶれないのは公立だからですよ。それぐらい人事管理体制も下手だと思います。今回、文科省が特別なチームを作って9月に報告書を出すと言っていますけど、そこまでメスを入れて、ひょっとしたら文科省が今までやってきたことも違っていたかも分からないぐらいのところで自己点検して見直さないと。普通に子供たちがのびのびと学校に行くのが楽しくて、進路指導は学年の先生や担任の先生が応援してくれて、勉強や将来の職業の面から応援してくれる。応援団であるべきなんです。今回は基準も基準ですけど、高校が本来やる選抜を、なんで中学がやるのか。この学校が悪いというだけじゃなくて、高校側にも問題あると思いますよ。受け入れる側が選ぶべきで、なんで中学校がそれに加担していくのか。中学校の生徒と先生の関係ができないんですよ。僕も現場の時、困りました。

鎌倉アナ:本来は生徒を応援すべき立場の先生側が、推薦を与えるかの基準に非行歴を採用していた。採用基準に中学校側が入れてたというところも。

尾木ママ:中学校が選別機関になっちゃってるんですよ。違いますよ。選ぶのは高校であって、中学校は最大、子供たちがどの子も成長できるようにするわけですよね。非行があったらその子はアウトになるなんて、違うでしょ。非行があったら直していって、すてきな高校生活を送れるように送り出すのが中学の仕事だと思いますよ。

鎌倉アナ:こういうことが起きないようにするために何が必要だと思いますか。

尾木ママ:基本的な原点。中学の進路指導の役割は何か。今回の報告書の最後の方に、子供に寄り添って子供を育てることだ。当たり前なんですよ。そんなこと今頃言わないでくれと思います。やれてないのは何なのかを、総合的、科学的、客観的にとらえてすぐ修正の手を打つ。全国的にこの学校だけでないとしたら、大問題だから、ぜひ文科省も頑張ってほしいと思います。

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