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初めての出産、育休、そして職場復帰...仕事と子育てを両立する上での不安を解消するために必要なことは?

日本全体で女性たちの職場復帰を後押しできる環境を整えるために必要なことは何なのか。
An asian gorgeous mother is standing and carrying her baby. She is working on laptop at home.
An asian gorgeous mother is standing and carrying her baby. She is working on laptop at home.
Kohei Hara via Getty Images

初めての出産。女性のライフプランの中でも最も大きな転換点といえる場面に出くわした時、育児休業を取って職場復帰するのか、それとも退職して子育てに専念するのか――大きな不安の中で女性は大きな決断を迫られます。

世の中に山のように情報がある便利な時代とはいえ、タイムリーに必要な情報を一人で収集することは難しい現状です。「第一子出産後に仕事を辞めた女性の約4割が後悔している」というデータもあり、不安を抱えながら人生の決断をせざるを得ない女性は多いのではないでしょうか。

そうした不安を抱える女性のためにリクルートが社外のパートナー企業や団体と開発したのが、妊娠/出産から職場復帰まで応援するアプリ「カムバ!」。「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る。」をキーワードに、「はたらく育児」を応援するリクルートのiction!(イクション)プロジェクトから誕生したものです。

このアプリには、妊娠から出産、育休から職場復帰までの過程で必要な「やることリスト」、そしてワーキングマザーのリアルな体験談など、子育てに臨む女性に限らず、ママを支えるパートナー、そして職場の上司にまで役立つ情報が掲載されています。

日本全体で女性たちの職場復帰を後押しできる環境を整えるために必要なことは何なのか、「カムバ!」の開発を担当したリクルートホールディングスの二葉美智子グループマネジャー、そして企画メンバーでもある中小企業向け育休・産休取得のコンサルティングを行っているNPO法人Arrow Arrow代表理事の堀江由香里さんに日本社会の課題やその解決のためにアプリにかけた想いを伺いました。

■ 64.5%が自分の意思以外の理由で辞めていく

――日本では、女性が働き続ける環境、より具体的に言えば出産、育休を経て職場復帰を企業が受け入れる環境はどのようになっているのでしょうか?

堀江 私がArrow Arrowの活動を通して感じるのは、日本では、働く前提として「分断されないキャリア」が求められるということです。自分にどんなことが起きても当たり前のように組織に所属し続け、会社の一員として活動し続けられる人が評価されるんですね。つまり、一度会社から離脱してしまった人はなかなかセカンドチャンスが得られないんです。

また、戦前から高度経済時代以降も続いた「男性は働き、女性は家にいるべき」という文化が日本全体に色濃く残っているからだと思うのですが、子どもを産んだ女性は「働きたいけど働いてもいいのか」という疑問が頭から消えず、上司から「君は家にいるべきじゃないか」と言われることにも悩んでしまう。そうした女性たちの精神的な葛藤が解消されている環境とはまだまだ言えないですね。

二葉 弊社のリクルートワークス研究所が2015年に実施した調査の結果でも、第一子出産後に仕事を辞めた人のうち、本人事由で辞めたのは35.5%で、他は職場環境や保育環境などによる離職でした。仕事を続けるかどうかはご本人の選択ですが、こういう外部要因によって辞めざるを得ないということは何かしら解決していくべきではないかと感じています。

――そういった課題意識が今回のアプリ開発に関連しているのでしょうか?

二葉 そうですね。今回のアプリ開発にあたって社内のワーキングマザー数十人にヒアリングをしましたが、出産後の働き方をどうするかという大事な意思決定を、限られた情報の中でしていることや、保活スタートの時期が意外に遅いということがわかりました。出産準備だけでなく、両立を考えている方にとって、出産準備だけでも大変なのに、会社への書類提出や手続き、保活など両立準備はやることがたくさん。それも妊娠時期に応じてやらなければいけないことも多く、忙しい身にとってタイミングに応じて欲しい情報を教えてくれるサービスがあるといいな、という自分自身の経験も活かしました。

■仕事と子育てへの不安を抱える女性たちに、「カムバ!」ができること

――二葉さんにはそういう課題意識があったのですね。では、お二人はどのような接点から「カムバ!」の共同開発に乗り出したのでしょうか?

二葉 私は2015年3月までリクルートグループのダイバーシティ、特に女性活躍を推進してきました。両立支援から活躍支援へと活動をシフトしてく中で、出産というライフイベントを超えてもその方らしく活躍していただくためにはどんな支援をするべきか、実際に担当として悩ましく思っていたこともあって。iction!プロジェクトの中で、働きながら子育てをする女性、またはパートナーがその方たちらしい両立の仕方をどうしたら見つけられるのか、と考えていた矢先、あるイベントでArrow Arrowの共同代表をされている海野さんに出会いました。彼女は出産してから3カ月でロールモデルとしてイベントに登壇をされていたのですが、そこで語られる仕事や両立に対する考え方を伺って一目ぼれしまして。「仕事と子育ての両立にはいろんな価値観があるけど、産もうが産まなかろうが自分らしくありたいという想いが働く上での大事な要素です」という想いが私と同じだ! と思って、一緒にサービスを開発していただけないか、お声掛けしました。

――そこからアプリ開発までどのように進んだのでしょうか?

二葉 まずは、ワーキングマザーに実際にインタビューした上での課題感のすりあわせを進めました。特にはじめての妊娠の方にとっては、出産準備の情報はあっても、両立準備に関する情報が十分にないこと。うまくご家族で両立されている方は、妊娠前や妊娠中からパートナーとの話し合いも含めて準備を進めているのに、そういった成功事例を欲しいと思っても、そのヒントがどこにもないこと。多くの人が周囲のワーキングマザーに話を聞くものの、2〜3人に話を聞いて、その方の働き方や両立のスタイルをそのまま取り入れていたことなどが分かりました。働き方や両立の仕方は、その方の価値観や働く環境、家庭環境によって十人十色です。その方たちなりの両立のあり方をもっとダンドリよく、そして様々なヒントをもとに考えるきっかけになるツールがあれば、と思いました。

■ 復帰のカギは、上司やパートナーをどう巻き込むか

――大手企業と中小企業では抱えている課題も異なります。社会全体で仕事と子育ての両立支援を促す環境作りは可能でしょうか?また、その上で大切なことは何でしょうか?

堀江 中小企業は制度が整っていない一方で、融通が利くメリットがあります。大企業ほどの制度はないけど、裁量をもらって働く時間を調整しやすいのは中小企業のメリットではないでしょうか。そういった社内調整を上手くするには、自分を「限りのある資源」ととらえ会社とうまく交渉することが必要です。どういう働き方をすれば組織に貢献し、迷惑をかけずにチームとして機能するかを考えておくことです。そのためには自分がなぜ働くか目的を自分の中で確認し、上司やパートナーと共有することが大切です。実はこれは大手企業でも同じことではないかと思っています。

二葉 共有は大切ですよね。弊社でも部下から妊娠報告を受けた上司がしていていることの多くは「配慮」と「業務調整」だったんです。上司の4分の1くらいは、未婚者だったり、初めて出産する部下を持つ人だったりして、妊娠や出産、育児に関することが実感として伴わないというのです。だから、どう声をかけていいのかわからない。しかも復帰時に自分が上司であるかどうかも分からないので、下手な約束はできないと思っているんです。

また、つわりで苦しんでいる様子とか、「切迫早産のようです」と言っている部下にどこまで期待をかけていいのか……という戸惑いもあり、かえって本人を傷つけることになるのではないかという心理が働くそうなんです。

妊娠・出産する女性が働きづらい環境は、昔の価値観を押し付けているという側面もありますが、上司には上司なりの悩みもあるのだと感じました。

堀江 「カムバ!」では、妊娠当事者ではない上司やパートナーに当事者意識を高めてもらうには、どうしたらいいかという視点を大事に、コンテンツ開発を進めました。例えば、女性はお腹が大きくなるので自然と当事者意識を持つ機会が多くなりますが、男性の体調は変わらないから、「パートナーとして何ができるのか」を具体的に情報提供するということですね。

個人的には、夫が私に向かって「〜しようか?」と聞いてくるのがすごく嫌でした。「〜しようか?」って私に決めさせるわけだから、そうではなく「〜するね」と言ってほしい。本人にとっては気遣いや優しさであり、悪気も全くない。でもそれが女性にとって負担になったりするケースもあるということを、相手にその気持を冷静に伝えられるかが大切です。

――上司やパートナーを巻き込む工夫がアプリにはあるのですか?

二葉 このギャップは絶対に解決したいという想いがありましたので、「カムバ!」の「やることリスト」では、早い段階で報告しようとか、体調を正直に話そうとか、2カ月に1回は上司と話し合うことを勧めています。自分が前向きに仕事復帰し、あきらめずに続けていくマインドセットを持てるかどうかは、まずは彼らをターゲットにして巻き込むことです。

堀江 パートナーや上司にもやってほしいことをたくさん挙げていますので、お互いがいかに役割を分担できるか、自然に会話して解決させる仕組みになるよう、意識しています。

■ 「今、自分が何を思っているか」と多種多様な意見からのいいとこ取り

――初めての出産だと自分にとって何が大切なことなのかがわからなくなると思うんです。そんな中でこれだけは抑えておいてほしいというポイントは?

堀江 まずは、「自分は出産しても働きたい」「今は育児に専念したい」といった意思を示すとか、あるいは正直に「どうしていいかわからない」「不安を抱えている」とか、自分の気持ちを明確にしておくことでしょうか。周囲に理解してもらうために。

「自分はこれだけ頑張っているのだからわかってほしい」と思っていても、伝わらなかったらそのまま。だから「今、自分が何を思っているか」を伝える手助けとして「やることリスト」を役立ててほしいですね。

二葉 自分の価値観をしっかりと持って周囲と共有することですね。価値観というと難しく聞こえるかもしれませんが、そんな壮大なことではなく「仕事をしている自分も好きだな」とか「パートナーとお互いのキャリアを応援しあえる関係性を築きたいな」とかそういう自分の大事にしている思いを大切にして欲しいです。そして、その価値観を持つため必要な情報を「カムバ!」から得てほしいですし、これから子どもを産む女性たちにシェアしてもらいたいんです。

子育ての仕方も、パートナーとの関係も、キャリアに対する考え方も人それぞれ。「カムバ!」の体験談を見ても、多種多様です。完璧な子育てと仕事の両立を果たした人なんていないわけですから、自分に合った情報をいいとこ取りで拾ってもらえれば、と思います。

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