太陽系外の恒星まで20年 クレジットカードより小さい宇宙船の構想とは

クレジットカードよりも小さなサイズの宇宙船を、4.37光年(約41兆キロ)離れたケンタウルス座アルファ星に打ち上げる計画がある。

数千のマイクロ宇宙船を、巨大レーザーを使って4.37光年(約41兆キロ)離れたケンタウルス座アルファ星に打ち上げるという話は、SFだと思えるかもしれない。しかし、起業家で慈善家でもあるロシア人のユーリ・ミルナー氏は、自分の世代でこれを実現するべく、宇宙科学者のスティーヴン・ホーキング博士やFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOと協力し、1億ドル(約110億円)を投じている。

ミルナー氏は4月12日、『ブレークスルー・スターショット』という研究プロジェクトを創始した。「ナノクラフト」と呼ばれるマイクロ宇宙船が、光速の5分の1の速さで進めることを立証するのを目指すプロジェクトだ。

光速の5分の1の速さというのは、秒速6万メートル、もしくは時速2億1600万キロメートルに相当する。これは、現在最も速い宇宙船の1000倍以上の速さにあたり、地球に最も近いケンタウルス座アルファ星に20年で到達することができるという。

マイクロ宇宙船の重さは、総量で20グラムにも満たない。20グラムといえば、歯ブラシ1本程度の重さだ。

「宇宙船本体の大きさは、クレジットカードよりも小さなサイズになる予定だが、その中にはカメラ、光子小型エンジンと燃料、ナビシステム、通信装置などが搭載される。本体に取り付けられた『ライトセイル』と呼ばれる軽い帆が、地球からレーザーを受けて推進する。帆の長さは数メートルだが、厚さは原子数百個ほどにしかならない」とミルナー氏はハフポストUS版に語った。

ミルナー氏によると、マイクロ宇宙船を作るための知識は、もう既に存在するか、または近い将来に得ることができるという。ミルナー氏は、太陽系外に出ることを現実的なものとする、直近15年間で発展した3つの重要な開発を評価している。複雑な電子機器を小さく安価に作れるようになったこと、薄くて軽い材料、複数のレーザーを1つにまとめる技術の3つだ。

「もし3つの開発のうちのどれか一つでも欠けていたら、このプロジェクトの話はなかっただろう」とミルナーは話した。「難題がこれから出てくるだろうが、原理的には実現可能だということは、分かっている」。

マイクロ宇宙船を作るための知識は、もう既に存在するか、または近い将来に得ることができる。

宇宙探索の新しい時代を切り拓く、宇宙で生命体を探すというミルナー氏の野心的な「ブレークスルー」プロジェクトは、最終段階にある。FacebookとTwitterに初期に投資したミルナー氏は2015年、地球外知的生命体の痕跡を探す「ブレークスルー・リッスン」に1億ドルを投資。また、宇宙人の文明に向けていつの日か送るためのメッセージを作るという国際的なコンテスト「ブレークスルー・メッセージ」も発足させたことを明かした。

マイクロ宇宙船を太陽系の外に送り出すことが、地球外の好戦的な生命の警戒を誘う可能性があるのではないかという懸念は「無用だ」とミルナー氏は言った。

天文学者は、ケンタウロス座アルファ星の3つの星の「生息可能ゾーン」の中に、地球のような惑星が存在する可能性がかなり高いと見ている。しかしミルナー氏は、単純な生命体が存在する可能性はあるものの、知的生命体が生息する可能性はほぼないことを、初期の研究が示していると述べた。また、マイクロ宇宙船の打ち上げ準備が整う頃には、宇宙のその該当地域について、さらに多くのことがわかっているだろうと予測した。

ブレークスルー・スターショットは初の地球外生命体の痕跡を探すとともに、私たちの銀河についての価値ある情報を提供し、また地球に衝突する可能性のある隕石を早期に捉え、警告を送ることができるとされる。

ミルナー氏は、何千ものマイクロ宇宙船が、高速飛行する母船から放たれることを思い描いている。母船は1キロほどの幅をもつ「レーザービーム」システムを使って、マイクロ宇宙船を加速させる。そのためには、レーザービームが100ギガワットのエネルギーを生み出す必要がある。

レーザービームは宇宙に建設されるのが理想的だが、それには法外な金額の建設費用がかかる。さらに、「大きなエネルギー発生装置を宇宙に置くのは容認できない」とミルナー氏は説明する。「なぜなら、不正使用されないことを確実にする必要があるからだ。間違った方向に向けて発射されるようなことが、絶対にあってはならない」。

プロジェクトに参加しているハーバード大学のアヴィ・ローブ科学教授はこのレーザーの破壊力については、たいした威力がないとしており、「このレーザービームは小さな物体を焼くことはできるが、広範囲のダメージを与えるほどではない」と、ハフポストUS版に説明した。

ミルナー氏はレーザーシステムを、チリのアタカマ砂漠のような乾燥した高地に建設する予定だ。アタカマ地域は極地ではなく、すでに世界最大規模の望遠鏡が建設されている。

レーザー集合体は、数分間稼働させるだけでNASAのスペースシャトルを打ち上げるために必要な量のエネルギーを作り出すことができる。ブレークスルー・スターショットの実行可能性を証明できれば、プロジェクトの実行にはCERN(欧州原子核研究機構)ほどのスケールを持つ世界的な組織が必要となるだろうとミルナー氏は考える。世界最大の物理学研究所であるCERNは、ヒッグス粒子を発見するのに約135億ドルを使っており、ブレークスルー・スターショットの実現には同程度の金額の費用が必要になるだろうとミルナーはみている。

新しい事業が動き出せば、打ち上げにかかる費用は大幅に安くなるとミルナー氏は言う。宇宙船の本体はiPhoneほどのコストで大量生産することができ、事業が進むにつれて必要となるライトビーマーの改造も簡単に行うことができる。一旦組み立てが完了し、技術の完成度が高まれば、一回の打ち上げにかかる費用は数十万ドルになるだろうとミルナー氏は予測している。

マイクロ宇宙船を太陽系の外に送り出すことが、地球外の好戦的な生命の警戒を誘う可能性があるのではないかという懸念は「無用だ」とミルナー氏は言った。

1961年に人類で最初に宇宙空間を旅した旧ソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンにちなんで名付けられたミルナーは、このブレークスルー・スターショット・プロジェクトは彼の人生において長年の夢だったという。

「誰かが『ユーリ』と私を呼ぶ度に、私は宇宙を初めて旅した人物にちなんで自分が名付けられたことを思い出した」と彼はハフポストに語った。「わくわくすることがたくさんあったが、私はその気持ちの一部を自分の名前に感じていた」。

ミルナー氏は、星に手が届くことが現実的に可能な時代に到達したのだと述べた。「それを夢見て、多くの人が映画を創ってきた。今初めて、一世代のうちに、それを実際に実行することができるのだ…。スター・ウォーズで描かれているような、巨大な宇宙船がワームホールを行き来するというようなものではなく、我々を代表する小さなロボットを送る――これが可能なのだと考えると、とてもわくわくする」。

また、ミルナー氏は1961年のジョン・F・ケネディ大統領による月面着陸に関するスピーチと比べられることには気を留めていない。ケネディ大統領はスピーチの中で、アメリカは10年以内に月に人を送るだろうと述べていた。

「私はそのようなタイプの比較はしない」。ミルナー氏は言った。「それぞれの世代には、それぞれの挑戦がある。達成されることもあれば、達成されないこともある。しかし、原理上は達成できるものであるものならば、我々は全力を尽くすべきだろう」。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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CHINA SPACE MISSION(Wang Yaping)

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