オバマ大統領「広島訪問は、和解の可能性を世界に示す」 朝日書面インタビュー全文

G7首脳会議(伊勢志摩サミット)で来日したアメリカのオバマ大統領は5月26日、広島訪問を前に、朝日新聞の書面インタビューに回答を寄せた。
U.S. President Barack Obama speaks during a news conference at the Shima Kanko Hotel in Shima, central Japan, Thursday, May 26, 2016, after completion the third working session of the G-7 Summit. (AP Photo/Carolyn Kaster)
U.S. President Barack Obama speaks during a news conference at the Shima Kanko Hotel in Shima, central Japan, Thursday, May 26, 2016, after completion the third working session of the G-7 Summit. (AP Photo/Carolyn Kaster)
ASSOCIATED PRESS

G7首脳会議(伊勢志摩サミット)で来日したアメリカのオバマ大統領は5月26日、広島訪問を前に、朝日新聞の書面インタビューに回答を寄せた。

以下は朝日新聞に寄せられた回答の全文。世界経済や対テロ、難民問題などについても質問したが、回答はなかったという。

■「最も困難な課題の一つは北朝鮮。決して核武装を容認しない」

2016年5月26日、G7首脳会議に集った各国の首脳たち

――主要7カ国(G7)首脳会議で日本に行く際に広島を訪問すると、ホワイトハウスが発表しました。広島訪問を決めた理由を聞かせてください。演説では、どのようなメッセージを込めるつもりですか。日米双方で、原爆投下についてアメリカは謝罪をするべきなのか、戦争を終結させるために原爆投下は正しい判断だったのか、について議論があります。このような論争についてどのように考えますか。

大統領は2009年のプラハ演説で「核兵器のない世界」を提唱しました。しかし、ロシアとの交渉は進んでおらず、北朝鮮は今、核兵器を持ち、核拡散の問題は深刻な脅威のままです。「核兵器のない世界」の理想を実現するためには何が必要なのでしょうか。

オバマ大統領:私は、広島平和記念公園を訪れることを楽しみにしている。安倍晋三首相とともに訪問する機会を得たことに感謝している。私が広島を訪問するのは何にもまして、第2次世界大戦で失われた何千万もの命に思いをはせ、敬意を表するためである。広島が思い起こさせるのは、戦争は、理由や関与した国を問わず、とりわけ罪なき市民に対して途方もない苦しみと喪失をもたらすものということだ。

私は、広島と長崎への原爆投下の決定について再び議論はしない。だが私は、安倍首相と私が共に広島を訪問することが、かつての敵国同士でさえ、最も強力な同盟国になれるという和解の可能性を世界に示すということを指摘したい。私は長い演説をするつもりはないが、核兵器なき世界の平和と安全を追求するという、プラハで示したビジョンを思い起こすことになるだろう。

私が生きているうちにこのビジョンを達成することはできないかもしれないと私は常々言ってきたが、私たちは重要な進歩を遂げた。アメリカとロシアの核保有量は、この60年間で最も低いレベルに到達する予定だ。私は、アメリカの安全保障戦略における核兵器の数と役割を削減した。歴史的な合意によって、私たちはイランへの核兵器拡散を防止した。核保安サミットを通して、日本や他の多くの国々の手厚い協力を得ながら、核兵器テロを防ぐための重要な対策を講じた。

無論、今後なすべき多くの仕事が残っており、最も困難な課題の一つは北朝鮮だ。北朝鮮の核と弾道ミサイルの計画はこの地域、アメリカ、そして世界に対する脅威だ。だからこそ、私たちは史上最も厳しい制裁を北朝鮮に科すために国際社会と協力してきた。だからこそ、安倍首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領とともに日米韓3カ国の協力を増強し、抑止力と防衛力を強化し続けるために協力してきた。私たちの国々は団結している。私たちは決して核武装した北朝鮮を容認しない。私たちは朝鮮半島の非核化を追求し続ける。そして私たちは北朝鮮政府に対し、信頼できる交渉が北朝鮮の非核化と北朝鮮市民のさらなる繁栄、好機につながるという道を示し続けていく。

核保有国がすべきこともたくさんある。私は、アメリカには、核なき世界の平和と安全に向けて指導力を発揮し続ける特別な責任があると繰り返し述べてきた。

■対中関係「国際秩序を保つために団結」

5月26日、伊勢神宮を訪れた各国首脳

――中国が南シナ海で滑走路を建設するなどして現状変更を試み、東シナ海では尖閣諸島などで独断的な行動をとるなど、アジア太平洋地域で不安定さが増しています。アメリカはアジアへの「リバランス政策」を加速させる必要があると考えますか。その場合、アメリカがこの地域での信頼を高めるため、今後さらにどのような対策をとる必要があると考えますか。この地域での安全保障環境が悪化したのは、アメリカが中国との経済的な利益を重視したためだとの意見がありますが、同意しますか。

オバマ大統領:アジア太平洋地域でのアメリカのリーダーシップを刷新することは、大統領としての私の最優先政策の一つであり、これまでに私たちが成し遂げた進展に大変誇りを持っている。私たちのリバランス戦略の要は日本、韓国、フィリピン、オーストラリアを含む国々と私たちとの同盟を強化してきたことであり、そして、それらの同盟はいま、私が就任した当時より強固になっている。

私たちは、私が先日訪れたベトナムなどの国々や、ASEAN(東南アジア諸国連合)や東アジアサミットといった地域組織と新たなパートナーシップを築いてきた。歴史上最高水準の貿易協定であるTPP(環太平洋経済連携協定)によって、私たちは地域や世界貿易の今後数十年にわたるルールをつくる機会を得た。私は、この地域でのアメリカの立場はかつてないほど強いと信じており、次のアメリカ大統領も引き続き、私たちの進展を基礎とするものと確信している。

これら全ての理由から私は、アメリカがアジア太平洋地域において、同盟国の安全を揺るぎなく保障していることに根ざした威信を大いに高めてきたと信じている。私たちはこの地域での防衛を近代化し続け、日本にも私たちの最新の軍事力を配置していく。

これまで述べてきた通り、日本の安全保障に対して私たちが日米安保条約上の責務を果たすことは疑う余地がない。新しいガイドライン(日米防衛協力のための指針)により、アメリカ軍と自衛隊は、海洋の安全から災害対応に至る様々な課題について協力するうえで、より柔軟で備えができた状態になり、より緊密に立案、訓練、行動できるようになる。私は、私たちの同盟に対する安倍首相の強い支持に大変感謝している。

中国については、アメリカは中国が安定的に、繁栄しつつ平和的に台頭することを歓迎すると、中国の指導者に対しても含めて何度も述べてきた。建設的な関係を中国と築くために、私は働いてきた。イランの核合意や気候変動問題といった共通の利益を高め、違いには対話を通じて率直に向き合うために協力するような関係だ。

南シナ海での埋め立てや建設を含めた中国の行動は引き続き懸案だ。アメリカはこの地域での紛争で権利を主張する当事者ではないが、航行や上空飛行の自由、紛争の平和的解決といった国際ルールや規範が守られることを確かにするために、同盟国を支持し続ける。アメリカは国際法が許す範囲で飛行、航行、行動を続け、すべての国が同様のことをする権利を支持する。南シナ海などでの中国の行動が一夜にして変わるという幻想は私たちは抱いていない。しかし私たちが、懸命に築き上げてきた国際秩序を保つために団結すれば、中国が秩序を守るパートナーになる可能性を高められると私は考える。

■沖縄・女性遺棄事件「一個人による許しがたい行動」

2016年5月25日、日米首脳会談後の記者会見で、沖縄の女性遺棄事件に「哀悼と遺憾の意」を述べるオバマ氏

――アメリカと日本が沖縄の米海兵隊普天間飛行場の返還に合意してから今年で20年になります。専門家の中には、安倍政権が和解案を受け入れたことで移設先である辺野古のキャンプ・シュワブ沖での移設工事が当面中断し、合意が危機にあると指摘する声もあります。

アメリカ政府と日本政府はこれまで、この計画が普天間基地による危険を取り除く唯一の解決方法だとの立場でした。日本政府と沖縄県との深刻な対立や、沖縄で先日、若い女性の遺体が見つかってアメリカ軍属の男が逮捕されるなど繰り返し起こる犯罪の問題を考慮すれば、代替案を再検討する余地はありませんか。

オバマ大統領:私が25日に公式の場で述べた通り、沖縄で起きた悲劇について、深い遺憾の意と心の底からの哀悼の気持ちを表明する。これは言葉には言い表せないほどの犯罪であり、被害者の若い女性の家族や愛する人たちに私は心から同情している。日本の司法制度のもとで、きちんと裁きが下されることを確保するため、アメリカは全面的に捜査への協力を続ける。そして、この事件に対応するとともに、このような悲劇を二度と起こさないことを確実にするために、アメリカはできる限りのことをし続けるつもりだ。

この一個人による許しがたい行動が、日本で任務に就いて日本の人々との友情を大切にしている多くのアメリカ軍関係者と家族らを代表しているわけではない。アメリカ軍人や家族たちは、日米共通の安全保障のために、本国から遠く離れて勤務している。彼らは受け入れ先の日本人の寛大さに深く感謝し、よき隣人になれるよう一生懸命に努力している。アメリカ軍の最高司令官として、私は日本の自衛隊と協力し合っている私たちの軍をとても誇りに思っている。

もっと広く言えば、日米両政府はこれまで、沖縄における現在のアメリカ軍駐留の状況が、地域社会に必要以上の負担を与えていることを認識してきた。私たちがすでに約束したとおり、現行の(再編)計画が完了すれば、沖縄における海兵隊の駐留はほぼ半減し、かなりの沖縄の土地が返還される。そして、残る駐留アメリカ軍は、より人口の少ない地域に集約されることになる。私と同様に、安倍首相もこの計画を支持している。

このような大幅な再編は簡単ではない。時間がかかる。しかし、私たちはともに前へ進むために尽力している。そして、こうした変化にかかわらず、この地域でアメリカ軍はとても効果的であり続け、私たちが日米安保条約が定めた義務を果たし続けることを可能にすると確信している。

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