「フラッシュモブ離婚」問題から考える、結婚式サプライズで注意すべき法律とは

一般的にフラッシュモブをする際に注意することは何だろうか?ハフポスト日本版では、篠田恵里香弁護士(アディーレ法律事務所)に聞いてみた。
MOSCOW, RUSSIA. FEBRUARY 25, 2016. People participate in a dance flash mob at Moscow's Vnukovo International Airport. Sergei Bobylev/TASS (Photo by Sergei Bobylev\TASS via Getty Images)
MOSCOW, RUSSIA. FEBRUARY 25, 2016. People participate in a dance flash mob at Moscow's Vnukovo International Airport. Sergei Bobylev/TASS (Photo by Sergei Bobylev\TASS via Getty Images)
Sergei Bobylev via Getty Images

「昨日の結婚式、フラッシュモブのせいで最悪でした」——。Q&Aサイト「Yahoo!知恵袋」に投稿されたこんな書き出しの投稿が話題になっている。投稿によると、女性は披露宴で新郎が実施したこの演出のために「離婚することになりました」と追加の記載も行っている。「フラッシュモブ」とは、街中などで群衆が前触れ無しに踊り出すといったパフォーマンスで、近年では結婚披露宴でも人気の演出となっているという。

「不愉快な演出」を理由に、離婚をすることは可能なのだろうか?また、一般的にフラッシュモブをする際に注意することは何だろうか?ハフポスト日本版では、篠田恵里香弁護士(アディーレ法律事務所)に聞いてみた。

▼問題の投稿

投稿されたのは約1年前の2015年5月。相談者の女性は、新郎やプランナーとの披露宴の打ち合わせで「フラッシュモブは流行っているけど、本当に苦手だからやめてね」と伝えていた。にも関わらず、披露宴の最後の記念撮影時に、流れ出した大音量の音楽に合わせてカメラマンやシェフ、友人たちが踊り出したという。女性は泣き崩れて最後に渡された花束も受け取らず、二次会にも参加しなかったという。後日談として「離婚することになった」との記載もある。

▼離婚は可能?

このような披露宴の演出を理由に、離婚をすることは可能なのだろうか?

——今回のような例で離婚が成立する理由に成り得ますか?

新郎が、新婦の嫌がるフラッシュモブを結婚式で行ったことだけでは、離婚が成立する理由とはならず、慰謝料の請求も難しいでしょう。裁判上の離婚が認められるためには民法770条1項各号のいずれかに該当することが必要であり、今回のケースでは、同項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかが問題になります。裁判官が個々の事案毎に総合的に判断するため一概には言えませんが、該当のハードルは相当高いとされています。基本的には、誰が見ても「婚姻関係を破たんさせる行為であり、夫婦関係は修復不可能」と感じるような事情がない限り、同要件を満たすとはいえないでしょう。

新郎が新婦のフラッシュモブ嫌いを分かっていながら、しかも一生に一度のイベントである結婚式でこれを仕掛けるというのは、確かにショッキングな出来事で今後の夫婦生活に不安を感じるかもしれません。しかし、フラッシュモブという行為それ自体はサプライズでダンスをしてパートナーや出席者を楽しませるという目的を持った余興であり、そのことによって夫婦関係がおよそ修復不可能なまでに破綻してしまうとは,通常考え難いと思われます。

ただし、夫が、妻がフラッシュモブ嫌いであることを分かっていながら日常生活において繰り返しフラッシュモブを行い、これにより妻から夫への愛情・信頼が喪失し、夫婦関係が破綻したとなれば、離婚原因に該当する可能性はあるでしょう。

——「嫌がる相手にフラッシュモブを仕掛けること」自体が、何か法律違反などに問われる可能性がありますか?

パフォーマンス中にうっかり相手に接触して怪我をさせるなどすれば過失傷害罪の成立が考えられますし,不必要に身体に向かって迫るような行為であれば暴行罪の成立も考えられます。ただ、嫌がる相手にフラッシュモブを仕掛けることそれ自体で犯罪が成立するということはないでしょう。

民事上、損害賠償責任を負うかどうかについてですが、考えられる法的構成は「仕掛けられた側が,意に反するフラッシュモブにより精神的苦痛を被った」ことを理由に不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。ただし、不法行為が成立するためには(1)故意又は過失によって(2)他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し(3)これにより損害が発生したという関係が必要です。

そして、権利や利益の侵害については単純に「嫌だ」というだけでは足りず、法的に保護すべきレベルの権利・利益の侵害がなければならないとされています。今回のケースでは,フラッシュモブを仕掛けられて嫌だと思っただけでは、法的保護に値する権利利益の侵害があったとは認められないでしょう。

名誉を棄損されたとか、侮辱を受けたとか、秘密を公開されたといった事情があれば人格権の侵害になりえますが、フラッシュモブによってそのような事態が生じることは考え難いと思われます。

また上述したように、フラッシュモブを行う側の心理としては通常、「喜んでもらいたい」という気持ちはあっても、「嫌がらせをしてやろう」という気持ちはないでしょうし、フラッシュモブを仕掛けた相手の権利利益を侵害することになるなどとは通常想定できないでしょうから、故意又は過失もないという判断になるでしょう。したがって、フラッシュモブを仕掛けられたことを理由に損害賠償を請求するのは困難と言わざるを得ません。

——仮に野外でフラッシュモブを行うときに参照したほうがいい法律は何かありますか?

公道で大規模にフラッシュモブを行う場合は,道路交通法77条1項4号に該当する可能性があるため、管轄の警察署長から道路の使用許可を受けなければいけません。許可なくフラッシュモブを行った場合、3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられる可能性があります(道路交通法119条)。

また、駅構内などの私有地で行う場合には、施設の所有者又は管理権者の許可を受けなければいけませんし、公園で大規模な形で行う場合には条例などに基づき、公園の管理者の事前の許可が必要な場合が多いでしょう。許可なく行った場合、建造物侵入罪、不退去罪、威力業務妨害罪等の犯罪が成立する可能性がありますし、迷惑をかけたことについて損害賠償請求をされる可能性もあります。

——その他気をつけるべきことはありますか

フラッシュモブ自体は通常は「人を楽しませる」ものですが、相手や場所・状況によっては、他人に迷惑をかける・不快にさせる可能性もある行為です。大規模に行う場合は関係する法律を知っておく必要がありますし、相手や場所を考えて慎重に判断すべきであるともいえます。本来、フラッシュモブはみんなを楽しませるための素敵なパフォーマンスのはずですので、他者への配慮に欠けたフラッシュモブの増加によってネガティブなイメージが付いてしまわないよう、一人一人がその実行には留意すべきかもしれませんね。

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