イーロン・マスク氏は、自動車の先を見つめている。
電気自動車メーカーのテスラ・モーターズは6月21日、太陽光発電ベンチャーのソーラーシティに対し買収提案を行った。同社CEOのイーロン・マスク氏は、成長しつつあるクリーンエネルギー帝国を集約する過程にある。
今回の提案は、急成長しているエネルギー蓄電業界でテスラが巨大な存在になろうとしている流れの中で浮上した。この業界は、グリーンエネルギーの価格を下げ、世界経済が化石燃料への依存から脱却していくのには欠かせない存在だ。
「世界には、十分すぎるほど自動車メーカーがある。一方、持続可能エネルギーの会社の数は足りない」と、マスク氏は21日午後に行われた32分間に及んだ記者会見で語った。
最高で総額30億ドルにのぼる今回の買収提案は、ソーラーシティの時価総額21.4億ドルを上回る規模で、現在は株主による承認待ちとなっている。テスラ、ソーラーシティ両社の最大株主で、ソーラーシティ会長も務めているマスク氏本人は、今回の取引に参加しないという。
株主による承認が得られれば、両社はともにテスラブランドの下で存続していくことになる。カリフォルニア州パロ・アルトを拠点とするテスラ・モーターズが社名から「motors(モーターズ)」を外すかどうかは不明だ。この社名は、同社が自動車メーカーにすぎなかった13年前の古い歴史を思い起こさせるものだ。
一見したところ、両社の組み合わせはごく自然のようだ。テスラは2015年、自動車を動かすテクノロジーと同じ構造のバッテリーを発表したが、それは太陽光パネルや風力タービンで作られた余剰エネルギーを蓄電するためのものだった。「パワーウォール」と名付けられたこのユニットは、太陽が出ているときや風が吹いているときに作られたエネルギーを後で使用できるよう蓄電しておく装置として、家庭や電力会社向けに2016年から販売されている。
アメリカでは、インセンティブ規制や技術進歩のおかげで再生可能エネルギーのコストは劇的に低下している。しかし業界は、風力発電機や太陽光発電装置を移動できないという大きな問題に直面していた。それに関してテスラは、自動車を動かすリチウムイオン電池をエネルギー住宅、エネルギー都市へとスケールできるという大きな賭けができる。
同社は2年前、ギガファクトリ―という世界最大のリチウムイオン電池製造工場をネバダ州で立ち上げ、新たな境地を切り開いた。数年後にこの工場の生産能力が限界に達すると(テスラ新車モデルの納期が定まらないことは悪名高い)、2015年の1年間に世界全体で製造された電池パック数よりも多く電池を製造すると予想されている。雑誌「Wired」が4月にこう予測していた。「テスラは自動車メーカーではない。この会社は電池メーカーだ」
パワーウォールでテスラと提携したソーラーシティは蓄電を必要としている。 6月初めに行われたハフポストUS版とのインタビューで、同社CEOのリンドン・ライブ氏(マスクより年下のいとこでもある)は、屋根上への太陽光パネル設置の先を見据えた、会社のビジョンについて語っていた。
買収提案に関するニュースが流れた後、テスラの株価は時間外取引で下落した。
ソーラーシティは基本的に太陽光パネルのネットワークと電池を接続することによって、送電設備として、石炭や天然ガスによる発電に頼らない電力会社の送電網管理に役立てたいと考えている。クリーンエネルギーを使用する電力会社にとっての大きな問題の1つは、太陽発電や風力発電のパワーが十分でないとき、送電線に電気を送り込むのに化石燃料を燃やさなくてはいけないことだ。
「太陽光発電を蓄電と組み合わせて提供できれば、簡単に問題を解決できます。予備発電機よりも優れています。蓄電エネルギーの放出はずっと速く、基本的に、即座に得られる電力も多いからです」と、ライブ氏は6月初めにコメントした。
「それこそ、当社が力を入れようとしている分野です。いまは全て送電に関連したサービスに巨額の投資を行っています。住居用に自社で展開しているインフラを当社の送電サービス部門が活用し、そのインフラを電力会社に送電サービスを提供するために利用しているのを見るとうれしくなります」
テスラで急成長しているバッテリー事業もそのニーズを満たすことだろう。
テスラの株主はこの動きに賛同しないかもしれない。テスラの株価は21日、時間外取引で12%ほど下落した。同社株価はここ数年変動が激しいが、それは現金を湯水のように使っているからだ(これに対しソーラーシティの株価は、先月に他の太陽光発電関連株と同じように投資家から売られていたこともあり、今回は15%超値上がりした)。
テスラに強気の見方をしている人であれば、「イーロンは(Amazonの)ジェフ・ベゾスだ、彼はお金を失うのを恐れていない、ウォール街は最後には彼に味方してくれる、成り行きを見守ろう!」と言うだろう。――ポール・ルビーロ(投資家)
利益を犠牲にして成長を追い求めるマスクは、AmazonのCEOジェフ・ベゾスになぞらえられるようになった。ベゾスはほんの2年前まで、「リアルなビジネスではない」ひどい金儲けで、企業からクリスマスを奪いとった誇大妄想の「グリンチ(クリスマスが嫌いな映画のキャラクター)」として激しく非難されていた。
その企業哲学によりAmazonは、つつましいネット本通販事業者から長い道のりを経て進化してきた。そして今、自動車メーカーとして知られているテスラの時代も終わりに向かっているのかもしれない。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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