EU離脱で混迷を深めるイギリス与野党の党首選 候補者の顔ぶれは?

今のイギリス政治の状況では、何が起きてもおかしくはない。

イギリスのEU離脱(ブレグジット)を問う6月23日の国民投票で、離脱という結果が出て以来、イギリス政治は混乱状態にある。

イギリスのEU離脱(ブレグジット)が決定して1週間以上が経過しても政治ドラマがイギリスを揺るがし続けている。ブレグジットの旗振り役となったボリス・ジョンソン前ロンドン市長は次期首相の最有力候補と見られていたが、30日朝に与党・保守党の党首選に立候補しないことを表明した。

この衝撃的な表明により、先の国民投票の結果を受けて辞任する意向を示したデーヴィッド・キャメロン首相の後任を決める党首選の行方は予想のつかないものとなった。

イギリスでは、議会与党の党首が首相となる。つまり、少なくとも次の総選挙が行われるまでは保守党のメンバーが議会と国のリーダーを選ぶことになる。

まずは保守党の議員が投票で候補者を2人に絞り、それから議員以外の党員も含めた投票で党首を決める。党首選は来週から始まり、9月初め頃に最終結果が出る見込みとなっている。

ブレグジットの旗振り役で、デーヴィッド・キャメロン首相の後任最有力と見られていたボリス・ジョンソン議員は、1日、党首選に立候補しないと表明した。

一方、野党第一党の労働党も党内部に激震が走っている。

労働党議員は党内左派のジェレミー・コービン党首に退任を迫っており、彼がイギリスのEU残留のために十分な働きかけをしなかったこと、彼が党首では次の総選挙に勝てないことを指摘している。今週初めには不信任と「影の内閣」の大半が辞任するという事態になったが、コービン党首は辞任を拒否した。

コービン党首は30日、党内の反ユダヤ主義撲滅に取り組むと発言したが、イスラエルをIS(イスラム国)の戦闘グループと比較したとしてユダヤ系の労働党議員から猛烈な批判を受けた。労働党内部での対立が深まる中、党首選の有力候補たちはその時を待っている。

一連の大騒動を受け、近いうちに今までとは大きく異なるイギリス政治のリーダーが誕生するかもしれない。以下は、両党党首選の立候補者の顔ぶれだ。

■与党・保守党、党首選の顔ぶれは?

マイケル・ゴーブ

今回の国民投票でボリス・ジョンソン前ロンドン市長の右腕として活躍したマイケル・ゴーブ司法相は、ジョンソン氏の発表直前、党首選に立候補するという驚きの発表を行った。

マイケル・ゴーブ司法相は30日、党首選への立候補という驚きの発表を行い、保守党内のシェイクスピア的ドラマにさらなる混乱を招くことになった。

ゴーブ司法相はEU離脱のキャンペーンでジョンソン氏の右腕となり、影の頭脳として活躍した。今回の党首選では、長年首相の座を目指してきたジョンソン氏の立候補を支持するものと見られていた。ゴーブ司法相は党首になるつもりはないと一貫して発言していた。

29日、ゴーブ司法相の妻で新聞社のコラムニストであるサラ・バイン氏の電子メールが流出した。彼女はそのメールの中でゴーブ司法相に対し、「ジョンソン氏に内閣での職を確約させ、自分のサポートがなければ保守党またはイギリスメディアの後ろ盾は得られない」と警告するよう求めている。

30日朝、ゴーブ司法相はキャンペーンを開始した。「ためらいはありましたが、ボリス(ジョンソン議員)には今後の課題に向き合うだけのリーダーシップがなく、組織作りもできないという結論に達しました」と彼は述べた。数時間後、ジョンソン議員は立候補しないことを表明した。ジョンソン氏のある側近は、ゴーブ司法相が最初からこの元市長を陥れようと画策していたのではないかと批判した

スコットランド育ちの48歳、元ジャーナリストのゴーブ司法相は評価がはっきり分かれる人物だ。教育相時代には急進的な教育改革で教員の信頼を失い更迭された。他の大半の離脱派に比べてより理性的に(かつ排外主義的な発言は控えめに)自らの立場を明らかにしたことで、EU離脱派から敬意を集めた。しかし残留派からはナチズムの専門家との関係や、トルコのEU加盟に対して人種差別的に恐怖を煽ったとして批判を受けた

ゴーブ司法相は、自分は変化をもたらし、EUに投票した多数派の要求に誰よりもうまく応えられるリーダーだと自ら述べている。しかし彼の立候補は議論を呼びそうだ。

やらねばならない…ゴーブ・ファーザー。

テリーザ・メイ

テリーザ・メイ内務相は首相のEU残留キャンペーンを支持していたが、国民投票前の政治の険悪な部分とははほとんどの場面で距離を置いていた。

テリーザ・メイ内相も30日に党首選キャンペーンを開始し、一躍最有力候補の一人となった。

保守党初の女性議長となったメイ内相はEU残留のキャンペーンを支持したが、キャメロン首相やジョンソン氏らによる激しい神経戦からはおおむね距離を取っていた。

彼女は国を団結させ、同僚たちが行っているような派手な政治ショーとは異なる選択肢を提供すると語っている。「私は昼食を食べながら人の噂話などしません。議会のバーでお酒も飲みません。感情を露骨に表すことも多くはありません。私は目の前の仕事に取り組むだけです」。選挙戦を開始した30日、彼女はそう述べた。

イギリスの内務相で史上最長の任期を務める59歳のメイ内相は、タフなリーダーという評価を受けている。だが、右派からは移民受け入れの削減を推し進めていないと批判を受けてきた。2014年には、「内務省は急進的過激派への対応が不十分だ」と批判するコーブ司法相とメイ内相の間で対立が起きた。

イングランド銀行でキャリアをスタートさせたメイ内相は、リーダーとしてEU離脱を完全に実行すると公約した。

スティーブン・クラブ

スティーブン・クラブ雇用・年金相は異端の候補者であり、保守党のリーダー像を大きく変える可能性を秘めている。

43歳のスティーブン・クラブ雇用・年金相は保守党の注目株で、党首選での勝算は低いものの興味深い候補だ。

保守党の中には、社会的・経済的なエリートが独占している同党の上層部にあって、彼の存在は新鮮な対比を生み出していると考える者もいる。公共住宅に住み、社会福祉を受けていたシングルマザーに育てられた彼は、政治家として貧困を克服するための教育の重要性を強調してきた。

スコットランドで生まれウェールズで育ったクラブ雇用・年金相が、政府で初めて就いた役職はウェールズ大臣だった。国民投票の結果を受けてスコットランドと北アイルランドの独立論争が新たに再燃したことに対し、彼はイギリスの団結を訴えた。

彼は残留を支持したが、EU離脱は実行し、移民に対する規制強化を求める投票者の声に応えると明言した。

アンドレア・レッドサム

離脱派のキャンペーンを支持したアンドレア・レッドサム氏は、EU離脱を導くことができる唯一の離脱派だと述べた。

53歳で元銀行員のレッドサム氏は他の候補者ほど高い役職に就いてはいない。彼女は現在エネルギー・気候変動副大臣だ。彼女は、要職に就いていない自分こそが次期首相になるべきと主張する。「私は現実社会での経験が豊富です」と、レッドサム氏はBBCに語った。

レッドサム氏はEU離脱を支持し、テレビ討論会で冷静に自分の意見を述べたことで称賛された。党首選への立候補表明の中で、自分こそがこの国を正しく導ける唯一のEU離脱派だと主張した

保守党党首選への立候補を表明できて嬉しく思っています。ブレグジットから最大の成果を引き出しましょう!

リアム・フォックス

保守党右派のフォックス氏も、「離脱」を支持した。

フォックス元国防相は、現在のところ保守党党首選に立候補した経験を持つ唯一の候補者だ。彼はキャメロン首相が勝利した2005年の党首選で3位に終わっている。

元医師で軍医でもあった54歳のフォックス氏は、党内でマーガレット・サッチャー元首相の後継者とみなされており、保守党右派からの支持を得ている。彼は「エドワード・スノーデン氏が漏洩した情報を掲載したガーディアン紙を起訴すべき」だと発言するなど、これまでに何度か議論を巻き起こしてきた。

以前から欧州懐疑派だった彼はEU離脱を支持し、厳格な移民規制を主張している。

■野党・労働党、次の党首候補は?

アンジェラ・イーグル

今週初め、アンジェラ・イーグル議員は影の内閣を辞任した。

今週初め、「影の内閣」で民間事業相を務めていたイーグル議員は他の多くの影の内閣と共に辞任し、コービン党首と党首の座を争う準備を進めているとBBCが伝えた。彼女が党首選に持ち込むためには、51人の議員の支持が必要となる。コービン党首はイーグル議員が立候補した場合、自分も再び立候補すると明言した。

1992年に議員になった55歳のイーグル議員は、党内で強固なネットワークを築いてきた。労働党で財務・事業相に就任する以前、彼女はゴードン・ブラウン元首相の政権下で副大臣を務めていた。

1997年にカミングアウトしたイーグル議員は、イギリスで最も影響力のある同性愛者の一人に選ばれている。双子の姉妹のマリア氏も労働党のベテラン議員で、イギリスで初めて双子で議員となった姉妹だ。

彼女は党内の中道左派に位置付けられており、コービン党首が分断させた党をまとめる力を持っていると見る者もいる。

トム・ワトソン

労働党のトム・ワトソン副党首は、党首に対して自らの立場を考え直すよう求めた。

トム・ワトソン労働党副党首は、コービン党首にリーダーとしての立場を考え直すよう求め、リーダーシップの危機が党を分断していると警告した。

「我が党は危機の最中にあり、存続の危機に直面しています。この国に左派寄りの政府を求めている人は何百万人といると私は考えているので、今の状況に甘んじていたくないのです」と語った

貿易組合の元役員である49歳のワトソン議員は、トニー・ブレア議員と争うゴードン・ブラウン元首相を支持していた。イギリスのメディアに衝撃を与えた2011年のルパート・マードック、ジェームズ・マードック両氏による日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」盗聴事件が起きた時には、事件に対する取り組みが評価され知名度を上げた。

ワトソン議員はコービン党首に対抗して立候補することはないと述べているが、今のイギリス政治の状況では、何が起きてもおかしくはない。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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