「駆け引きがないから、ぶつかっていける」写真家・ヨシダナギ、アフリカで全裸になった瞬間を語る

「将来私もマサイ族になりたいと思った」と語るヨシダさんに、アフリカの旅や価値観の変化について聞いた。

スリ族 Nagi Yoshida

世界でもっともファッショナブルな民族「スリ族」の日本初の写真集『SURI COLLECTION』を発売して一躍有名になったフォトグラファー、ヨシダナギ。自らも服を脱ぎ捨て、全裸になってアフリカ少数民族のなかへ飛び込んでいくその撮影スタイルも注目を集めている。

まずは彼女の作品を見ていただこう。美しい少数民族の姿にきっと目を奪われるはずだ。

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ヨシダナギ、アフリカ写真

アフリカでの体験を綴った新刊『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』も発売され、展覧会やトークショーも随時開催している。ヨシダナギとはいったいどんな人物なのか? 全裸になったきっかけは? 前編に続いて、幼稚園の頃「将来私もマサイ族になりたいと思った」と語るヨシダさんに、アフリカの旅や価値観の変化について聞いた。

■アフリカで、感情をストレートに出せるように

——アフリカ旅の最初は言葉も通じなくて黙りこくっていたヨシダさんも、途中から別人のように変わっていきますね。

最初はいい顔しようとしていたんですよ。でもそれじゃダメだ、自分もアフリカ人と同じぐらい感情的に、理不尽になってもいいんだ、そうしないと負けちゃう! と思って。アフリカ人のように、嬉しいときもしんどいときも自分の感情をストレートに出せるようになってすごく楽になれました。

——料理に虫を入れられたり空港でパスポートを投げ捨てられたり、ひどい差別も受けていますがへこたれなかったのはなぜでしょうか。

逆の立場になってみると彼らのことも理解できるんです。肌の色が黒いだけで、国籍がアフリカというだけで、彼らは白人たちからひどい差別や屈辱をうけてきた長い歴史があります。私がやられたことは、彼らが白人たちにやられてきたことと同じ。ある意味しょうがないことなんですよ。

Nagi Yoshida

■アフリカではじめて全裸になった瞬間

——はじめてアフリカで全裸になったのは、ブルキナファソの草原にある野外シャワーで、子どもたちが面白がってヨシダさんの裸を見るために集まってきます。でも逃げも隠れもしなかった。あれで何か吹っ切れたように見えました。

最初はモジモジしてたんですけど、慣れというのは怖いものでだんだんどうでもよくなってきたんです。“見たきゃ好きなだけ見て、はしゃぐがよい”という気持ちになってきました。

——アフリカの山岳地帯に住むコマ族を訪ねたとき、全裸になって彼らと同じ格好をしようと思ったのはなぜですか?

幼稚園の頃にテレビでマサイ族をみて、「将来私もマサイ族になりたい」と思ったので、その夢を実現したかっただけで。彼らと同じ格好をするのは、私にとってはコスプレと同じ感覚なんです。

——彼らはパンツまで脱がなくていいと一生懸命止めさせようとするのに、「私はパンツを脱ぎたいんだ!!」と叫んだのには笑ってしまいました。

単純に、そのときはいてたパンツがダサかったんですよ。黄色い生地にイチゴが全面プリントされているボクサーパンツで、その上に彼らと同じ葉っぱや腰ひもをつけられたら、そっちのほうがいやらしかった。やっぱり彼らと同じ完璧なコスプレをしたくて、中途半端なのがイヤだったので必死でパンツを脱ぎました。

Nagi Yoshida

——パンツを脱ぐと脱がないでは、周りの対応がまったく違いますね。まず歓迎の踊りがはじまりました。ヨシダさんと彼らの距離が一気に縮まったことがよくわかります。

村の長老が5番目の妻になってくれとかうちの息子と結婚してくれとか言われて、本当に私のことを認めて受け入れてくれたことを感じました。私にとって彼らは特別だったので、彼らにとって自分が特別な人になりたかった。彼らに「スゲェー!」って言われたかったし、記憶に残る人になりたかったんです。それが実現できて本当に嬉しかったですね。

Nagi Yoshida

■「コミュニケーションにおける駆け引きがない」アフリカ人

——日本人とアフリカ人の一番の違いはなんでしょうか。

アフリカ人に対しては恐怖心が生まれないんです。でも日本人とか白人には社交辞令とかあるし、本音と建て前とか人間不信になるようなことがあるじゃないですか。アフリカ人は、嫌なときははっきり嫌だと言われますけど、良いときは本当に自分に心を開いて受け入れてくれるので疑心暗鬼になる必要がありません。コミュニケーションにおける駆け引きがないから、真っ直ぐぶつかっていけるんです。

——アフリカ人の、お金がなくても幸せという価値観はどう受けとめましたか?

私もよく考えたら小さい頃はお金がなくて、1週間に110円しかおこづかいをもらえませんでした。でも小学校の友だちも片親で貧乏な子が多かったから、自分が貧乏だと認識することもなかった。

アフリカ人も同じで、首都に住んでいる人以外は自分が貧乏だと思ってないんです。上もいないし、下を見ることがないから、今の生活が当たり前だと思ってる。比べるものがないって、ある意味、幸せなのかなと思います。

ただ都市部だと、明確な格差があるので、しんどい仕事をしてお金稼ぐよりは体を売って楽してお金をもらいたいという女性も少なくありませんでした。そういう部分は受け入れられませんでした。教育については見直さなければいけない部分が非常に多いと思いますね。

Nagi Yoshida

■「やる気がないわけじゃないけど、気を張らずに生きていきたい」

——アフリカの旅を経験して、ヨシダさん自身になにか変化はありましたか。

何においても考え過ぎないところはアフリカ人のいいところなので、私もそういうところは影響を受けました。あの国に住んでいると問題が多すぎて悩んでもしょうがないので。でも日本で考えることを放棄してしまうと、「こいつ考えられない人だ」って思われる。「もうちょっとシビアになるべきだ」って。だから“適度に考えることを放棄して”ストレスをためこまないようになりました。

仕事を手伝ってくれている人たちには、「図太くなった」って言われます。自分が苦手なことを人に頼めたり、嫌なものを嫌といえるようになりましたし、人から嫌なこと言われても無視すればいいやって流せるようになりました。

アフリカに行って改めて確信したのは、「頑張る」とか「全力」っていう言葉はこれからも私の人生には出てないだろうなってこと(笑)。やる気がないわけじゃないけど、気を張らずに生きていきたいです。こんな自分でも、社会不適合者と言われずに存在を認めてくれた場所、それがアフリカだったんだなって思いますね。

Nagi Yoshida

KANZAN GALLERY 特別展示 ヨシダ ナギ ‟HEROES”

開催日:2016年8月6日~8月28日 11:00-20:00 ※月曜休館日

開催場所:Kanzan gallery 東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F

■トーク&サイン会 「ヨシダ、文禄堂にゆく」

開催日:2016年8月7日(日)14:00-15:30

開催場所:文禄堂書店(高円寺店) 東京都杉並区高円寺北 2-6-1高円寺千歳ビル1F

参加条件などはこちら

(取材・文 樺山美夏 編集:笹川かおり)