「餃子が仁王立ちしたっていいじゃないか」 パラダイス山元、あふれる餃子愛を語る

タモリや松任谷正隆・由実、フレンチの鉄人・坂井宏行、秋元康…各界の著名人から愛される、会員制の餃子レストランが都内にあるのを知っているだろうか。
Kei Yoshikawa

タモリや松任谷正隆・由実、秋元康、フレンチの鉄人・坂井宏行…各界の著名人から愛される、会員制の餃子レストランが都内にあるのを知っているだろうか。

その名は「蔓餃苑(まんぎょえん)」。オーナーシェフは、マンボアーティストとして知られるパラダイス山元さんだ。独創性あふれる餃子を作り出すことでも知られるが、この7月に自ら「最終決定版」と位置付ける秘伝の餃子レシピ本『餃子の創り方』を出版した。

ある時はマンボアーティスト、ある時はグリーンランド公認サンタクロース…様々な顔を持つパラダイス山元さんは、今の日本の餃子を「自由を放棄した食べ物」と憂いをもって語る。なぜ餃子づくりに情熱を込めるのか。そこに隠されていたのは、食文化に対する熱い想いだった。

■餃子のアイディアは、芸術家・岡本太郎の影響?

パラダイス山元さん

――パラダイスさんの餃子レパートリー何種類あるんですか?

数えたことないなぁ(笑)。ちなみに今回の本では、50種類の餃子を紹介しています。

――レパートリーは、どういうときに思いつくんですか?

うーん。芸術家の岡本太郎さんの影響はあるかな。例えば、この直立させた海老の餃子は、「太陽の塔」を見た後に考えついた。岡本さんの「グラスの底に顔があったっていいじゃないか」という言葉があったけど、「餃子が仁王立ちしたっていいじゃないか」って。

フライパンの中で直立している海老勃ち餃子&踊る大タコ壺餃子

生前、岡本太郎さんにインタビューしたことがあって、「パイラ星人(SF特撮映画「宇宙人東京に現わる」に登場するキャラクター)はどういうときに考えついたんですか?」って聞いたら、15分ぐらいずっと黙って目を開けながら考えこんじゃって…。で、最後に「覚えてない」って言われた(笑)。好きだったなぁ。

■「『醤油と酢とラー油しか使わない』って、変だと思う」

下ごしらえをするパラダイス山元さん

――餃子を作り始めるきっかけってなんだったんですか?

僕は北海道出身ですが、東京芸術大学を受験するために上京して、東京の椎名町(豊島区)で浪人生活を送っていました。椎名町って、山の手地域の割に下町っぽいところでね。八百屋さんとか行くと、貧乏そうな学生だと「夕方もう一回おいで」っていわれて。行ってみると、残り野菜をダンボールに山ほどくれたりした。そういう人間関係を築けたんですよ。浪人時代に暮らしていた4畳半一間で、コンロも1個だけだった。冷蔵庫も共同で。野菜とかいっぱいあっても腐っちゃう。でも余ったらもったいないから、どんどん処理しなきゃいけなかった。それで餃子の餡を作って、周りに振る舞うようになったんですよ。ほとんど毎日、無理やり餃子を食べさせてました(笑)。

餃子のバリエーションはそこで生まれたんですよ。同じだと飽きちゃうし、いろいろな包み方とか。餃子って決まりがないんですよ。みんな異常なまでに「決まり」に執着しているけどね。

バラエティあふれる餃子たち

――みんなが執着している「決まり」とは?

例えば「キャベツか白菜しか使っちゃいけない」とか、「ニラを入れなきゃ餃子にあらず」とか。豚肉ばっかじゃなくて、鶏肉とか牛肉って使わないじゃないですか。包みかたも、三日月形みたいなのばっかりで。でも、もっといろいろな包みかたもあるし、野菜中心じゃなくたってお肉だけだっていいと思う。

食べ方も、「醤油と酢とラー油しか使わない」っていうのは、変だと思うんですよ。別に吉田茂首相が国会で決めたわけでもないし、日本国憲法に「餃子は醤油と酢とラー油のみで食べなさい」って書いているわけでもない。参院選の争点にしたいぐらいだ。そうやって考えると、餃子って自ら「自由を放棄した食べ物」になっていると思う。

チーズクォーターパウンダー餃子。カリッとした3種のチーズと餃子の餡がよく合うイタリアン風味。

デザイン的な観点も未熟なんですよね。フランス料理だと、テリーヌは数段重ねにして見た目もきれいにしたり、ジビエだったら焼き方とか色々ある。でも餃子は「包んで焼くか、蒸すか」みたいな感じ。それが私としては不満だった。だから「面白いものを作ろう」と思って作り始めて、今に至るわけです。

それに餃子って、万人に好まれるものはないと思うんですよ。入れる野菜だって、白菜派でもいいしキャベツ派でもいい。白菜だって、そのまま入れる派があってもいいし、茹でてから入れる派があってもいいと思う。好きにしたらいいじゃない。こだわりとかよりも、自由に作ること。それが一番大事だと思う。

素で食べて美味しいものを包むと、より美味しくなりますよ。「ヤリイカセクシー餃子」はその代表例です。イカを辛子酢味噌でたべるよりも美味しいですよ。

ヤリイカセクシー餃子

■自分のやりたいことがわからず、「サザン」の桑田佳祐に相談したら…

――パラダイスさんというと、マンボミュージシャンという認識の方が多いとおもいます。それがなぜ、餃子レストランを?

僕は大学卒業後、「スバル(富士重工業)」で車のデザイナーになりました。自分のデザインした車が街を走っているのを見ると嬉しかったんですよ。でも10年、20年と経つと、どこにも走っていない。スクラップ工場に自分が作った車が積み上げられたりしていると、「本当にやりたかったことって、これだったのかなあ」って思ったりしました。

それで今度は、音楽の道に入りました。お客さんの前で演奏すると、目の前でレスポンスがあると、うれしいですよね。でも、それもずっと続けていると、やっぱり「これでいいのかな」って思ってしまった。

サザンオールスターズの桑田佳祐さんに相談したら、桑田さんに「同じことをずっと続けて、楽しくみんなの前でやるのがプロなんだよ。俺は何回、『勝手にシンドバッド』を歌ったと思う?」って言われたんです。その時、「あ、俺には向いていない」って気づきました。音楽はやっぱり別物だなって。録音とかすると、飽きちゃうんですよ。自分の音源なんか二度と聞きたくないって思うのに、ニコニコしながらやるのは嘘つきじゃないですか。

霜降り牛肉チョップ餃子

――そこから餃子レストラン「蔓餃苑」へとつながるのですね。

蔓餃苑をやり始めて思ったけど、お客さんが自分の作ったものを「美味しい」って食べてくれる。そして、それが食べてくれた人のエネルギーになる。それって、とても素晴らしいことだと思う。餃子って本当に手間がかかるんですよ。世の中にはいろいろ美味しいものがあるけど、本当に美味しいものって、手間暇かけてつくるものだと思うんですよ。手間暇かけたほうが、気持ちも伝わると思います。

「食はエンターテインメント」って言われますが、そう言いながら口コミサイトとかグルメガイドとか、マスコミとかにお店が取り上げられると、今までは簡単に食べにいけたお店が「半年先まで予約いっぱい」とかになったりすることもありますよね。お店側も「口コミサイト1位」とかを看板にしたりするところもある。でも、それってちょっと違うかなって思うんですよ。そういう文化を否定はしないけど、自分はそういうのに取り込まれたくないなって思って。それなら好きな人だけで集まって、美味しいものを食べられるようなお店を作りたいなって思ったんですよ。

真剣な表情で餃子を焼くパラダイス山元さん

――口コミやグルメガイドが生み出した、負の部分とも言えますね。

50〜60歳を過ぎた良い大人で「ミシュランの星付きレストランでディナーを食べたい」とか言う人がいますけど、どこが良いのか。今まで何を食べてきたんだと言いたくなる。「そんなものに高いお金払うの?」って聞きたくなりますよね。本当に美味しいものは、他にもあると思うんですよ。奥さんのご飯は美味しくなかったのかと。そうはいっても、美味しいものはお金を払えば食べられる世の中になったんですが、「なんでこの店が流行ってるの?」みたいなこともありますからね。

蔓餃苑は10年以上やってますけど、「ぐるなび」には載っていないです(笑)。日本人は、他人の評価やガイドブックの点数で、美味しいかどうかを判断したりする傾向があると思う。でもそれって、自分の価値判断じゃないですよね。「ガイドブック見なきゃ京都観光できない」みたいな感覚って、餃子の場合は絶対に違うと思う。

壺入り豚角煮餃子

――ハフポスト日本版の読者に、ぜひメッセージを。

みなさんイタリアンとかフレンチとかスイーツとか、小洒落たものに興味が行きがちだと思います。だけどね、「そんな人生で良いのか、お前たち」と問いたい。餃子は毎日食べられても、イタリアンは毎日食べられないだろ、と。

――パラダイスさんは毎日、餃子食べられるんですか?

食べるわけないじゃないか!(笑)。「毎日、餃子食べてます!」とか「生まれてから、ずっと餃子を食べて育ちました」みたいなこと言う人、信じられないでしょ。毎日食べちゃダメだよ。体に悪いもの(笑)。


パラダイス山元『餃子の創り方』は7月15日、光文社から発売(定価1.400円+税)。

パラダイス山元

日本でもっとも予約が取りにくいと言われる会員制の餃子レストラン『蔓餃苑』のオーナーシェフ。東京パノラママンボボーイズ、マン盆栽家、グリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロース日本代表、自動車、飛行機のスタイリングと活動は多岐にわたる。趣味は献血。著書に『パラダイス山元飛行機のある暮らし』、『パラダイス山元の飛行機の乗り方』、『ザ・マン盆栽』シリーズ、『サンタクロース公式ブック』、『お湯のグランプリ~誰も書けなかった入浴剤文化論』など。CDは『東京パノラママンボボーイズ完全盤』など。

蔓餃苑

パラダイス山元さんがオーナーシェフを務める会員制餃子専門店。パラダイス山元さんの事務所を兼ねている。会員制のため、一般の人は入ることができない。場所は非公開。すでに会員は1000人を超え、しばらく新規会員は募集はしない。ただ、新規会員募集の可能性がないわけではないという。最新情報はパラダイス山元さんのTwitterで発信される。

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