「聖地巡礼」アニメ・漫画で街起こしの課題とは?

アニメや漫画の舞台やモデルとなった場所を「聖地」として認定し、地域活性化や観光客の増加を図る「一般社団法人アニメツーリズム協会」が9月16日に発足した。

アニメや漫画の舞台やモデルとなった場所を「聖地」として認定し、地域活性化や観光客の増加を図る「一般社団法人アニメツーリズム協会」が9月16日に発足した。理事長には、アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズなどを手がけたアニメ監督の富野由悠季氏が就任した。

同協会は、2020年に政府目標の訪日外国人数4000万人の10%に相当する400万人の観光客をアニメ聖地に送り込むことを目指す。そのために、公式サイト上でアニメ・漫画ファンから「おすすめの聖地」を募集するアンケートを実施。「四国八十八ヶ所霊場巡り(お遍路)」にならって、88カ所を選定する。

また、官民連携で「聖地巡礼」の周遊観光ルートを造成するほか、地方自治体と連携して観光客の受け入れ態勢などを整備し、地域活性化の促進や訪日観光客の増加を図る。聖地の選定は来年中を目標としている。

「聖地」でのビジネス展開には、アニメ作品の権利者との調整が必要になる。加えて、「聖地」とされる場所が本当に「聖地」なのか、権利者側が公式見解を発表していない場合もある。協会ではこういった問題を円滑に解決できるよう、企業、自治体、権利者と調整を進めていくという。

同協会の副理事長にKADOKAWA会長の角川歴彦氏が名を連ねており、KADOKAWAが中心となって発足した形となっている。協会の広報担当者は「出版社同士の横のつながりもあるので、他の出版社などにも参加を呼びかけている」と述べた。

KADOKAWA会長の角川歴彦氏
KADOKAWA会長の角川歴彦氏

■富野由悠季氏「アニメの文化的影響は浅くない」」

記者会見で挨拶する富野由悠季氏
記者会見で挨拶する富野由悠季氏

この日の記者会見では、富野氏が協会の設立意図を説明。富野氏は「子供の頃に見知ったアニメやコミックで得た記憶は一生残る。アニメという媒体が一般化し、子供から大人まで享受するものになってしまえば、文化的な影響は浅いものではない」とし、国立西洋美術館の”松方コレクション”に触れつつ「ビジネスの成功がなければ、文化への貢献は得られない」と、アニメの「聖地」認定で新たな経済効果の創出を目指す方針を語った。

また富野氏は、「アニメは好奇心を喚起する。好奇心を抱いた若者に(モデルとなった場所の)実際の景色を見てもらい、知らない風土、習俗を知ってもらうことは、文化そのものの交流になる。ぎくしゃくした現実的な問題から、青年たちの心を解放、鼓舞するものが生まれると思う」と説明。

その上で「一つの組織だけでアニメツーリズムは完結できない」とし、「日本が持っている特別な魅力を海外の人にも知ってもらい、相互協力の花を咲かせてもらえれば」と、意気込みを語った。

■広がる「聖地巡礼」 一方で課題も...

アニメの舞台となった地をファンが訪れる「聖地巡礼」は、この10年で各地で広まった。2007年のテレビアニメ「らき☆すた」では、埼玉県鷲宮町(現・久喜市)の鷺宮神社が舞台となり、神社はアニメ聖地として広く知られるようになった。アニメ放送翌年の2008年、初詣の参拝者は30万人と前年の3倍以上に。町の商工会議所もアニメ制作側と連携し、グッズ販売やイベントを企画。「聖地巡礼」の成功例として挙げられることが多い。

アニメ「らき☆すた」のキャラクターを描いたみこし・埼玉県鷲宮町
アニメ「らき☆すた」のキャラクターを描いたみこし・埼玉県鷲宮町

近年でも、アニメの「聖地」として注目を浴びる場所は生まれ続けている。『ガールズ&パンツァー(ガルパン)』の舞台となった茨城県大洗町には全国からファンが殺到し、商店街はファンでにぎわいを見せている。また、『ラブライブ!』に登場した神田明神は制作会社とコラボ。キャラクターが描かれた絵馬やお守りを発売。神社の境内には、作品のキャラクターなどを描いたいわゆる「痛絵馬」が数多く奉納される「聖地」となった。こうした現象から、アニメの「聖地巡礼」は地域活性化策の1つとして注目されている。

神田明神の「ラブライブ!」絵馬など
神田明神の「ラブライブ!」絵馬など

その一方で、「聖地化」には課題もある。大ヒット中のアニメ映画「君の名は。」では、劇中に登場するシーンのモデルとなったと思われる場所にファンが訪問する動きが過熱。近隣住民からは騒音などの苦情が相次いでおり、制作委員会が公式サイトで注意を呼びかけたが、ファンが骨折するなどの事故も発生した。

また、想定外の「聖地化」で自治体側が戸惑う例もでている。熊本県甲佐町には「昭和の軍神」とうたわれた西住小次郎大尉の顕彰碑があるが、ここには『ガルパン』のファンが聖地巡礼に訪れているという。ファンの間で、西住大尉は『ガルパン』の主人公・西住みほのモデルではないかとされているからだ。甲佐町の産業振興課は熊本日日新聞の取材に対し、「甲佐町の知名度が上がるのはありがたいが、観光資源としてふさわしいかどうかは今後検討したい」としている。

自治体側の受け入れ態勢が整っていない中でファンが殺到することは、そこに住まう人々の日常生活を壊してしまう可能性がある。アニメツーリズム協会も、この点は危惧しているという。

協会事務局の広報担当者は、「(協会には)権利者、自治体もメンバーに入る。どうすれば問題を解決できるか、一緒に考えていきたい」とした上で、「大多数のアニメファンの方たちはマナーが良く、環境整備をしっかりすれば地元の方にも受け入れてもらえるはず。(ファンが勝手に)やってくるのではなく、(「聖地」がファンを)迎え入れるためのお手伝いをしていきたい」と、「聖地」の自治体や地域住民と連携しながら具体的な受け入れ策を考えていく方針だ。

【参考文献】

岡本亮輔『聖地巡礼』中公新書、2015

由谷 裕哉、佐藤 喜久一郎『サブカルチャー聖地巡礼―アニメ聖地と戦国史蹟』岩田書院、2014

【UPDATE】2016/09/25 0:30

文中「西住まほ」としていた箇所を「西住みほ」に修正しました。

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