男性保育士の本音、Twitter39万フォロワーの"てぃ先生"に聞く「かっこいい仕事と思ってもらいたい」

保育士は自らの環境をどう思っているのだろうか。

厚生労働省が9月2日に公表した2016年4月1日時点の待機児童数は2万3553人。待機児童は2年連続で増えており、安倍政権が掲げる2017年度末までの「待機児童ゼロ」の達成は厳しいのが現状だ。

保育の受け皿確保の重要性が進められるなか保育士の不足も問題となっている。女性保育士の平均月給は26万8000円と全産業に比べて低く待遇改善を求める声も多いなか、2017年度末には約7.4万人不足すると見込まれている

実際、保育士は自らの環境をどう思っているのだろうか。男性の保育士が現場で感じることは? 39万フォロワーを超えるTwitterアカウントや漫画、単行本などで、子供たちとの交流を発信する男性保育士・てぃ先生に本音を聞いた。

てぃ先生(本人の希望で顔は隠しています)

お部屋で遊んでいる時、4歳の男の子が「ドッカアアアン!!!ドッカアアアン!!!ドッカアアアアアン!!!!!」と言いながら、手に持っている2つの人形をぶつけ合っていたので、「戦ってるの?」と聞いたら「ううん、ちゅー してるの」って。顔砕けるわ。

— てぃ先生 (@_HappyBoy) 2016年9月5日

男の子(4歳)が「はかせに なりたい!」と言うので、「いいねー!何の博士になりたいの?」と聞いたら「なんの...?」と言うから、「(これ博士が何かわかってないやつだ...)」と思いつつ「何をいっぱい知ってる人になりたいの?」と聞き直すと、「おともだちの なまえ」って。可愛いな、博士。

— てぃ先生 (@_HappyBoy) 2016年7月28日

■「認可外保育園です。認可じゃ、こんなことやってたら怒られます」

——てぃ先生は、Twitterでコンテンツを発信して、それが漫画や本になったり、ツイキャスを始めたり......。発信の仕方がすごく新しいですね。あらためて、なんで保育士になろうと思ったんでしょうか?

昔から子供は好きだったんですけど、記憶を辿っていけば、小学生くらいのときから、友達と遊ぶよりも、友達の家にいる下の兄弟と遊ぶのが好きでしたね(笑)。でも、とくに保育士になりたかったというのは当時は全然なかったです。

漠然とサラリーマンみたいな仕事よりも、専門的な仕事が格好いいなと思っていました。僕がなれるもので専門職って何かなって考えたときに、いろいろありましたけど「子供が好きだな」って。高校生のとき、じゃあ子供のことをやってみようかなと思っていたときに、3歳くらいの女の子と目が合って僕のほうを見てニコッと笑いかけてきたんです。漫画にも描きましたが、そんな出会いもあってひとつのきっかけになりました。

——いまお勤めの保育園は、認可ですか。それとも認可外でしょうか。

認可外です。認可じゃ、こんなこと(Twitterや執筆を)やってたら怒られます。絶対こんなこと許してくれるはずありません(笑)。

■保育士の仕事、ただ「給料上げろ」はどうかと思います。

——保育士の仕事って実際どうですか。保育士の待遇や待機児童の問題もあり、実際に仕事にするのをためらってしまう若い世代もいると思います。

お給料が低いのは、別に保育士に限った話ではないですよね。別にどこの企業だって新卒で30万円もらえるところなんて全然ないと思いますし、給料が安いこと自体は、保育士だけに限ったことではないと思っています。

保育士は大変なわりに給料が安いという話もありますけど、それも同じで、別にどこの企業だって忙しいなかでやってますし、みんなそれなりに忙しいなかで、業績を挙げた上でお給料が上がるわけです。

じゃあ保育士はどうなんだろうと思ったときに、20年後、教えた子が偉くなったからといってお給料が上がるわけじゃない。例えばお医者さんは、一緒にするのは失礼かもしれないけど、僕たちと同じ国家資格を持っていて、専門的な知識を持つ専門的な職業ですよね。

「じゃあ、なんでお医者さんと保育士って、そんなに違うの?」というと、専門性や知識量の差もありますし、責任という部分もあるでしょう。保育士も子供の命を預かるという意味では責任が重いですが。あとはやっぱり品質です。やっていることのクオリティの高さ、専門性を考えていくと、はっきりいって今、一般のお父さんお母さんができないような子育てをやっている保育士さんがどれだけいるのかと考えると、僕はそこまで多くないんじゃないかなって思うんです。

——保育の専門性というのは現場ならではの言葉ですが、保育士の人たちを見ていて、そう感じる?

結局、お父さんお母さんや、近所のお兄さんお姉さんでもできることを、保育園の中でやっていて、「先生」と呼ばれている人がいると感じるんです。自分なりに専門知識を深めたり成長のカリキュラムを考えて行ったり、子供をうまくまとめたり、もっとプロフェッショナルの部分を高めていかないとと思います。

美容師さんだって同じですよね。努力してるからスキルも上がるし、自分の価値も上がるという話なので。保育士はボトムアップが足りないんじゃないかな。努力もしないまま、ただ「給料あげろ」というのは、僕は正直疑問です。

——給料を上げるために、保育士も保育の質をもっと高めていく必要があると。

もしいま、いざ保育士の給料を仮に30万円にしますといったところで、逆に世間の方々から「なんでそんな給料もらうんだよ」ということになると思うんですよ。そうならないために、業界全体のボトムアップをして品質を上げていくことが大事だと思います。そうしたら、そのうち「こんな仕事をしているのに(給料が)16万円なのはおかしい」という声がもっと多く、大きくなるじゃないですか。

もしいま保育士になりたいという人がいても、はっきり言って給料はそんなにもらえないですよ。頑張って自分なりにやりがいを見つけるか、子供が好きだからやっていくかです。

だから僕は、「未来の保育士さんのために、できることは何だろう」と思って行動することが、今の保育士さんがやるべきことなんじゃないかなと思ってます。

——てぃ先生は、保育の質を高めるために、どんな工夫をされていますか?

最近は僕も忙しくてなかなか参加できていないんですが、週末によく公民館などでやっている子供向けの「◯◯の作り方」に参加したり、保育をテーマにした講演に参加したりしてみるとか。日常の保育で困っていることがあれば、本を読んで勉強したりするとか。そういうことも本当は必要だと僕は思うんです。先ほど話に出した美容師さんだって営業時間外にマネキンを使って日々練習を重ねていますよね。保育士にとってその練習にあたるのが、こういったものだと思います。

——保育士の方も、努力してる人とそうでない方がいる?

それはそうだと思います。ただ問題は、結局努力しても自分の周りの子供たちや園が良くなるだけで、お給料が上がるわけじゃないのでモチベーションをどれだけ保てるかということですね。

だから女性の場合だと、結婚したり子供が生まれたりしたタイミングで辞める人も多いです。それでもやっていきたいという人はいます。保育士は、離職率は高いですが復職率はそこまで高くありません。潜在保育士もいっぱいいるので、「カムバックしませんか?」って政府も呼びかけてますけど。

■30代の保育士がいない、何が問題なのか

——保育の現場で「30代の保育士が少ないのが問題」と過去に発言されていました。その層が辞めずに仕事を継続することが大事だと。

今(保育士の)40〜50代の人たちが、いつか退職するわけですよね。その先生が持っている知識を、若い先生に伝えていく人がいないわけです。人間関係的にも、20代の人にとっては、50代の人に相談するよりも30代の人にするほうが圧倒的に相談しやすいでしょうし、年代も近いから親身になってくれるでしょう。保育の現場に、よいお姉さんが少ないんじゃないかと。

例えば、今は若い先生が「先生、いまの時代はこうですよ」と提案しても、「いやこれが正しい。これに従ってなさい」ということになりがち。というか、ほぼそうだと思います。ベテランの人たちは、すごく深い知識を持っているんですよ。でも新人の保育士さんがいいと思ったことを、させてくれないんです。だから、つまらないですし、息苦しくなってしまう。

教育観というのは正解がわかりにくく、人によって様々です。「ご飯は全部食べた方がいい」という人がいれば「残してもいい」という人もいる。どちらが子供にとって正しいものかはわかりません。さっきボトムアップと言いましたけど、ここを底上げしていかないと。

——現場に、目指すロールモデルがいない。

見本が、就職した園の人しかいないんです。そこで、柔軟な発想を持っていた新人たちもこり固まっちゃうので、言い方は悪いですが、ハズレの園に就職してしまった保育士さんはかわいそうだと思います。こんなに楽しい仕事なのに、1年で辞めちゃう人もいます。

今、保育士専用の求人サイトを見ると「3カ月勤労が続いたら2万円あげます」「入社祝いで5万円あげます」とか、そんな募集がすごく多いんですよ。何それって思いませんか? 一般企業だったらスーパーブラック企業じゃないですか。だから、もちろんお金も大事なんだけど質のところを見てもらったほうがいいと思います。

——例えば、そこに男性保育士がいると雰囲気も変わりますか。

そうなんですよ。男性がいると、ちょっと空気変わりますね。いまの園は男性保育士が2人いますが、クラスや担任間の風通しは、男性保育士のいるクラスといないクラスで違うなと感じる部分はありますね。

——てぃ先生は、子供たちから愛されてますよね。

ジャングルジムみたいに思われてるんだと思います。少なくとも僕は、家に父親が帰ってくると、「わ、遊んでもらえる!」という感覚だったので、保育園の子供たちにとっても「あ、あの先生来たから、走り回れる」とか「ダイナミックな遊びできる!」とか思ってもらえているのかな。「よーいどん!」で一緒に走りますからね(笑)。

あとは、自分でいうのもなんですが、他の保育士よりも子供の話をよく聞いていると思います。「あとでね」「まってね」は使いません。とにかく子供の"今"を重視しています。今やってほしいこと、今聞いてほしいことは、今対応しないと意味がないですから。そんな可愛い子供たちとのやりとりをまとめた書籍がありますので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです。

園庭で遊んでいる時、男の子(4歳)が「あそこから ジャンプした!」と少し高い台を指差したので「すごいね!じゃあ、先生はもっと高いところからやってみようかな!」と言ったら、「みんな!せんせいが あそこから ジャンプ するって!」と指差す先には3階建てのお家。無理無理無理無理無理。

— てぃ先生 (@_HappyBoy) 2016年8月26日

朝の会をしている時、「お名前を呼ばれたら元気にお返事してね!」と言ったら、女の子(4歳)が「げんき じゃなくて、かわいい おへんじ でもいい?」と聞くので「(何それ...)」と思いつつOKして「○○ちゃん」と呼んだら、すごいモジモジしながら「きゅい」って。きゅいってなに...可愛い...

— てぃ先生 (@_HappyBoy) 2016年10月7日

■保育士のプロフェッショナルが影響を与えられるように

——Twitterだけでなく、ツイキャスなどでも発信されていますが反響は?

てぃ先生ってTwitterの文字でしかなかったのが、急に声出し始めたので、「こんな声なんだー」とか、「そもそも本当に保育士なんだ、実在するんだ」みたいな感じでしたね。やっぱり反響があるのは保育の話です。保育の話をしないと、「保育の話すると思ってた」と書かれたりしますね(笑)

——これからの展望はありますか。

僕は、保育士って、お医者さんと同レベルってわけじゃないけど、かっこいい仕事だなって思ってもらいたいんです。そんなふうに、生きているうちになりたいなって。

極端な考え方かもしれないけど、「プロフェッショナル 仕事の流儀」みたいな番組に保育士さんも出られるんじゃないかなと。保育士のプロフェッショナルが人に影響を与えられるようになると思ってます。

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