オバマ大統領がその気になれば、イエメンの悲惨な虐殺を終わらせることができる

すべては、オバマ大統領が虐殺を止めたいと思うかどうかにかかっている。

イエメンにある紅海沿岸の港町フダイダの病院で、栄養失調の患者のための集中治療室のベッドに横たわる6歳のサレム・アブドゥラ・ムサビくん(9月11日撮影)。イエメンで反政府勢力と戦闘状態にあるサウジアラビア主導の連合軍は、この18カ月で1万人を殺害した。

バラク・オバマ大統領がその気になれば、イエメンで続いている民間人の虐殺を終わらせる、あるいは劇的に減らすことができるはずだ。

イエメンでは2011年、中東の民主化運動「アラブの春」を受け、33年にわたって独裁体制を敷き、90年の南北イエメン統合以降も大統領の座に座り続けたアリ・アブドラ・サレハ氏が退陣した。

選挙で選ばれたスンニ派のアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領の下で新憲法草案を策定し、新たな政治体制作りを進めていたが、憲法草案の内容に不満をつのらせたイスラム教シーア派の武装勢力「フーシ」がサヌアに侵攻し、大統領宮殿など政府機関を制圧、暫定大統領は南部の都市アデンに逃れた。

2015年1月22日、フーシによるクーデターが発生し、ハディ暫定大統領とハーリド・バハーハ首相が辞任を表明した。2月6日、フーシは政権掌握を宣言したが、ハディ暫定大統領が2月21日に辞意を撤回、対立する事態となった。3月26日、ハディ暫定大統領を支援するサウジアラビアなどスンニ派のアラブ諸国が空爆を開始、同じシーア派のイランが支援するフーシと内戦状態に陥っている。

政府とフーシの和平協議が8月に決裂して以降戦闘が激化しており、この1年半の内戦と連合軍の軍事介入により、民間人およそ4000人が死亡、7000人が負傷している。

内戦による飢餓に苦しむイエメンに、ハディ政権を支援するサウジ主導の連合軍は、3時間にも及ぶ空爆をしているが、アメリカが協力しなければ、わずか数分に減らすことができるかもしれない。

■ オバマ大統領の一存で流血は防げる

現在の連合軍関係者は、爆弾の投下位置を世界最強の監視システムを誇るアメリカからの情報に依存している。オバマ大統領がその気になれば、自前の限定的な攻撃目標データに依存せざるをえなくなる連合軍は、空爆の頻度を減らす可能性が出てくる。

現在、サウジとその同盟国は病院、学校、密集した市場や重要な工場に爆撃している。爆弾は十分に供給され、爆撃機の運用も完璧だ。しかしアメリカの決断次第で、すぐに爆撃機の能力を限定的なものにできる。

アメリカの支援を受けたサウジ主導の連合軍は、イエメンでイランが支援する反政府勢力と戦闘を行っており、紛争開始から18カ月でおよそ1万人の死に関与している。さらに、10月8日の凄惨な攻撃で150人以上が殺害された。そしてこの紛争で、2800万人以上が飢餓に瀕している。結果としてイスラム武装勢力、特にアメリカを標的とする過激派組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)は数年前に比べて影響力を強め、彼らが行動を起こす余地が生まれている

一般市民としては、この凄惨な紛争と中東各地で起きている他の血なまぐさい戦争との違いを見分けることは難しい。和平を難しくしている当事者の利害や不満が複雑に絡み合う構図は、それぞれ異なるからだ。

しかしイエメンは違う。専門家らによると、オバマ大統領の一存で流血を大幅に減らすことができる。ただ単に、彼はそれを望んでいないようだ。

ある国防情報筋はハフポストUS版の取材に、サウジと連合軍の航空機はオバマ大統領の命令でアメリカの空中給油を受けていることを認めた。サウジ駐留の米軍は連合軍に情報と物流支援をしているが、空爆地点の決定はしていないと、この情報筋は述べた。

さらに、武器貿易の専門家であるウィリアム・ハートゥング氏によると、オバマ政権はイエメンで使用される弾薬、爆弾、空対地ミサイルおよび戦車をサウジに補給するための輸送に許可を出したという。

オバマ大統領は、こうしたことを全部、いつでも止められるはずだ。

ハフポストUS版はこの証言についてホワイトハウスにコメントを求めたが、返答は得られなかった。

■ アメリカに依存するサウジの空爆

「アメリカによる補給やタンカーの提供が、イエメンの空爆に大きな影響を与えていることは間違いありません。サウジが我々のタンカーなしで空爆するとなればその規模は大きく減少し、おそらく3分の1程度になるでしょう」と、元国防総省職員で安全保障アナリストのピエール・スプレー氏はハフポストUS版に語った。

連合軍に給油しているアメリカの戦車は、数時間ほどでこの地域から撤退することができるはずだと、スプレー氏は推測する。

アメリカの給油がなければ、サウジとその同盟国であるアラブ首長国連邦(UAE)やモロッコをはじめとする同盟国の戦闘機がイエメン上空を飛行できる時間は大幅に減少し、搭載できる爆弾の数も大きく減るだろう。1970年代にF-16とA-10の設計開発に関わったスプレー氏は、サウジのF-15戦闘機がイエメンに近接するサウジ南西部の基地から出撃した場合、最も近い反政府勢力の拠点まで5分から15分ほどかかると推測する。

連合軍が、反政府勢力が支配するイエメン南西部の海岸沿いの都市を標的にした場合、空爆を行えるのはわずか5分程度となる。さらに、サウジが反政府軍による攻撃を警戒してイエメンから距離のある基地からの出撃を中心に据えた場合、爆撃の時間はさらに短くなるはずだと、同氏は述べた。

サウジの同盟国は、サウジから戦闘機を出撃させるか自国の基地から出撃させるかを選択することになる。比較的距離が近く自国の基地からの出撃を行うUAEのような国にとって、アメリカによる空中給油は不可欠だとスプレー氏は語る。つまり、同盟国は現在の状況を考え直し、出撃の回数を減らすはずだということだ。

現在、アメリカの支援を受けた連合軍は、アメリカとサウジ以外の大半の国で禁止されているクラスター爆弾や弾薬を含む最大6ユニットの爆弾を搭載し、1〜3時間の飛行が可能だとスプレー氏は推測する。

「給油なしには、彼らにこの規模の作戦は実行できないでしょう」と、ハートゥング氏は言う。

サウジ主導の連合軍は、国際医療支援団体「国境なき医師団」(MSF)が活動していた複数の施設に空爆し、国境なき医師団は活動の一部を中止した。結果として、イエメンの人々に対する医療支援はさらに縮小した。

次のステップは、現在同盟軍を支援しているアメリカの関係者を撤退させることだ。オバマ政権は春先に行われた停戦交渉に続き、6月の段階ですでに、サウジ主導の連合軍を支援する米軍関係者を5人以下に減らしていると、前出の防衛情報筋は語った。停戦はすぐに行き詰まり、現在は完全に崩壊したが、アメリカは5人以下でも十分に連合軍の要求に応えられると考えているという。

大統領がそのつながりを完全に絶ってしまえば、連合軍は短時間の空爆で民間の犠牲者をさらに増やす可能性があるとスプレー氏は述べた。だが目標識別能力はより限定的になり、内戦の背後にある強力なアメリカの存在感が薄まる可能性もある。より慎重な攻撃を行うアメリカの正当性が受け入れられることで損害が減り、それが最終的には和平へと向かうことになる。

サウジの作戦能力をより制限するために、政府はサウジの請負業者となっている元米軍関係者と同国との契約を調査し、同作戦への民間の支援を限定することもできるはずだと、スプレー氏は語った。

■ オバマ大統領がとるべき道

オバマ大統領にとっての最後の仕事は、サウジとその同盟国に対して、将来的な兵器販売についての条件を提示することかもしれない。

オバマ大統領は、前任者たちの誰よりも多く、サウジに対して武器を輸出してきた。これがオバマ大統領にとって中東戦略の重要な一部であり、ライバル国のイランとは核合意外交を推し進める一方で、サウジに安心感を与えるためのものだとしている。

しかしオバマ大統領のアプローチは、アメリカから見放されるのではないかという疑念をサウジに植え付け、自分たちのやり方で問題に対処することを促し(アメリカや国際的な基準は無視される)、世界最先端の兵器を提供しただけのように思われる。

オバマ大統領、そして次期大統領は武器取引を利用して、サウジとアメリカに強い結びつきがあると思わせるべきだと主張するアメリカ国内の右派もいる。

「オバマ大統領によるサウジへの武器輸出の承認の可否を決定する議員たちはイエメンからの報告に衝撃を受け、以前よりもこの取引を利用してサウジの行動を変えさせる方向に傾いているようだ」と、中東民主化プロジェクトの政策部門で次官を務めるコール・ボッケンフェルド氏は語った。サウジに対して新たな戦車を提供する取引を否決しようとした最近の上院の動きは、「オバマ大統領への不信任投票の一種」のようだと、ボッケンフェルド氏は述べた。

サウジ首脳と会談するオバマ大統領

また、オバマ政権はより穏健な方策を採ることもできる。例えば、F-15爆撃機のようなアメリカ製の戦争兵器の予備部品の流通を遮断したり、完了していない既存の契約物資の提供を延期したりするといった方法だ。

アメリカの法律では、アメリカ製の兵器保持者による人権侵害が確実な形で報告された場合、国際法が侵害されたかどうか調査をするまで、行政が安全保障支援を停止しなければならない。アメリカ法曹協会が議員に戦車の取引を否決するよう求めた最近の書簡で、その点が指摘されている。

つまり、議会にもこの虐殺の責任があるということだ。このことは、オバマ政権がそうした方策を採用し、サウジ主導の連合軍が国際紛争法に従わない限りこれ以上の支援をしないと要求すべきだという圧力になり得る。イギリス欧州議会の議員たちは数カ月にわたり、イギリスや、フランスをはじめとするEU加盟国が連合軍を支援していることに対して政府に圧力をかけている。

紛争の鎮静化に向けてこうした行動を取ることに反対している陣営も、イエメン内戦が繰り広げられたこの18カ月間同じ議論を行ってきた。アメリカが役割を果たせば民間人の犠牲を大きく抑えられる、という主張だ。サウジが自分たちの裏庭と見なしているイエメンでアメリカが支援しないとなれば、彼らの不安は増し、より暴力的な攻撃に出るだろうという味方だ。

こうした主張は、議会で求心力を失いつつあると、ボッケンフェルド氏は述べた。

「その点に関して我々は峠を越え、今はどのような関わり方をしていくのか探っている段階だと思います。関わりは最小限にとどめながら、自分たちはサウジの味方であると伝えていくことがその答えです」と、ボッケンフェルド氏は議員や関係者の考えをそう説明した。「この紛争の1年前と今を比べると、アメリカの関与は今よりも深く、しかし必要な影響力は持っていませんでした」

専門家の中には、紛争を停戦に向かわせるための唯一の方法は、連合軍に関わっている国に作戦は誤りだったとわからせることだと考えていると、ボッケンフェルド氏は述べた。

もちろん、アメリカが撤退すれば全てが終わるというわけではない。

サウジが支援するイエメン政府と戦う反政府組織フーシは、民間人を標的にし、時にはサウジの脅威であるイランから提供された武器を使って重大な人権侵害を行ってきている。

フーシと同盟を組むイエメンのアリ・アブドゥッラー・サレハ前大統領は、アメリカが手を引けば大胆な行動に出る可能性がある。彼らはサウジ主導の連合軍が守っている都市に新たな攻撃を仕掛けるかもしれない。

一方、サウジは撤退のみならず、イエメンでの軍事行動についての責任を一切認めていない。オバマ政権が方針転換した場合、サウジ政府は裏切られたと感じるはずだと、湾岸地域政治の専門家で、アメリカのシンクタンク「大西洋協議会」のビラル・サーブ氏は述べた。

「サウジは戦線の拡大を通じてさらなる影響力の獲得を目指しています」と、サーブ氏は5日、ハフポストUS版の取材に答えた。「限定的な地上侵攻の可能性も否定できません」

しかし、イエメンでのサウジの誤った行動に対しアメリカが協力を打ち切れば、大きく3つの点で有効となる。ひとつは被害の規模を減らせられる。もう一つは虐殺へのアメリカの関与を減らすことで、イエメンでの反米主義が高まるリスクを抑えられる。そして最後は、サウジの専門家であるテキサスA&M大学のグレッグ・ガウ?

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