おむつは不要、手ぶらで登園。少子化を克服したフランスの保育園事情とは

「良妻賢母」幻想が強い国ほど少子化が進むのはなぜ?
Bilingual Montessori school in Haute-Savoie, France, which caters to children 2 to 6 years old. kids are all in the same class to encourage socialisation, the older ones look after the younger ones, which boosts self-confidence in the older ones and increases motivation to work in the younger ones. Montessori education psychology used in the school aims to develop the autonomy, desire and curiosity of the child. In this exercise, the child must write a number on a piece of paper and give it to their classmate. The classmate must bring the same number of one object as they read on the piece of paper. (Photo by: BSIP/UIG via Getty Images)
BSIP via Getty Images
Bilingual Montessori school in Haute-Savoie, France, which caters to children 2 to 6 years old. kids are all in the same class to encourage socialisation, the older ones look after the younger ones, which boosts self-confidence in the older ones and increases motivation to work in the younger ones. Montessori education psychology used in the school aims to develop the autonomy, desire and curiosity of the child. In this exercise, the child must write a number on a piece of paper and give it to their classmate. The classmate must bring the same number of one object as they read on the piece of paper. (Photo by: BSIP/UIG via Getty Images)

連絡帳も運動会もなし。おむつやタオル、シーツ類は園から支給されたものを使い、汚れ物は園で洗濯してくれる。登園時は手ぶらでOK。保護者に対して最低限のことしか求めない。これがフランスの保育園の「普通」だという。

毎日、大きな通園バッグを持ち帰り、連絡帳に記入し、大量の汚れ物を洗い、翌朝には新たなタオル類やおむつを持たせて登園させている日本の保護者からすれば、にわかには信じられない実情だ。

フランスと日本の保育園はなぜこんなにも違うのか? フランスの育児システムについてレポートした『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)の著者である髙崎順子さんと、作家・少子化ジャーナリストの白河桃子さんの対話から、少子化脱却のための方法を探る。

(左)作家・少子化ジャーナリストの白河桃子さん(右)フランス在住のジャーナリストの髙崎順子さん

■日本の母親は、これ以上頑張らなくていい

白河:日本とフランスでは保育園のあり方が随分違いますね。『フランスはどう少子化を克服したか』を読んで、日本の保育園では使用済みおむつを保護者に持ち帰らせる園もあることを初めて知りました。「働きながらの育児は無理ゲー」なんて言い方もされますけど、排泄物を持ち帰るなんてそれこそ罰ゲームのようですね。

髙崎:日本では1989年に「1.57ショック」がありましたよね。1人の女性が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)が、過去最低の1.57になった。当時を知る官僚の人に聞いたのですが、あのとき厚生労働省の中でいろいろな政策が出されて、日本の少子化対策は、子供中心、児童の幸せで行きましょう、ということになって、親に寄り添う「子育て支援」という言葉はNGになったそうです。日本の政策には最初から、「親を支援する」という視点はなかったわけです。

白河:一方で、フランスは「子育ては大変なことである」と政府がまず認めた。女性が働きながら子供を持つのは大変なことで、それを助ける父親のこともちゃんと支援しよう、それでも2人だけでは大変だから社会でも支援しよう、そうやって政府が親を全力で支援することが出生率の増加に寄与したのでしょうね。日本では保育士の長時間労働も問題になっていますが、その要因のひとつである書類仕事や手書きの連絡帳、毎月の行事なども、フランスには一切ない。保育士さんたちの働きぶりは素晴らしいことですが、それが長時間労働に繋がっているのなら、なにかを見直さないと、保育士をやりたい人は増えないでしょう。

髙崎:もちろん日本の保育士さんたちはひたむきにやっていると思います。けれど今のように過重労働が問題になっているのなら、保育士さんたちも意識を改革していくべきですよね。

白河:保育士業界の慣習で、行事の準備など子供が帰った後の業務は、"自主的にやっている"ことだから勤務時間ではない、サービス残業のようなものとされているんですね。毎月の制作物などを作らせないと親からクレームが来るんじゃないか、という心配もあるのかもしれませんが、それで負担が増えるのなら毎月でなくてもいいのでは。日本の子育て政策は、保育士にも親にも背負わせすぎじゃないかと思うんです。

髙崎:本当にそうです。特に女性側に背負わせすぎている。私、この本をどうしても新書にしたかったのは男性に読んでほしかったからなんです。「フランス」「子育て」というテーマで書くと、どうしても「パリの素敵なママライフとかでしょ?」と思われるから。でも私の書きたかったのはそれではない。フランスに日本を鏡のように写して、日本の制度や運用面の問題を考えてもらうための本でした。だから対象読者は制度・運用に携わる立場にいる男性たちで、判型は新書でなくてはと。この本はむしろ、働くお母さんは読んでくれなくていいです。あなたたちは、これ以上何も頑張らなくていい。「働くお母さんたち以外の人に頑張ってもらうための本だから、お母さんは読まなくていい!」くらいに思っています。それでも買ってくださるならもちろんありがいですが、その場合も、配偶者や男性の同僚に渡すために、買っていただきたいです。

白河:日本のお母さんは、有償労働も無償労働も世界一しているというデータがあります。女性活躍と言われても、これ以上は、はっきり言ってもう無理なんです。だからこそ、そこから先はパートナーが分かち合う部分。そのためには企業が家族に時間を返すしかないんですよね。

髙崎:だから日本では2人までしか産めないんですよね。お母さんの肩は2つしかないから。子供2人の荷物と自分の荷物を持ったら、もうそれ以上は持てない。3人目を持つなら、仕事を手放すしかない。

白河:そういう意味でも日本の子育ては"罰ゲーム"のようだな、と感じてしまいますよね。

■「良妻賢母」幻想が強い国ほど少子化が進む

髙崎:フランスが少子化を克服できた一因として、1994年に無痛分娩を全額保険負担にしたことも関係していると私は思っています。私自身も経験しましたが、無痛分娩は体力の余分な消耗がないぶん、産後の復帰スピードが違う。産んでからのほうがずっと大変ですから、選べるのなら「お腹を痛めてわが子を産む」ことに執着する必要はないんです。

白河:「産みの苦しみを味わうべき」といった良妻賢母幻想が強い国ほど、少子化に悩まされていますよね。女性側に余計な負担を背負わせるのはどうなのか? 少子化を克服というのなら、その負担を少しずつでも取り除いていかなければ。

髙崎:そういえば、フランスでは男女雇用均等の観点から企業内保育所がダメなんですよ。

白河:なぜですか?

髙崎:企業内保育所ってお父さんかお母さんの働き口のそばにあるでしょう? 「どっちに入れますか?」となったら......。

白河:ああ、なるほど。

髙崎:そう、大抵がお母さんなんですよ。「送り迎えは誰が?」となったらどうしてもお母さん側になる。どちらかの性に育児の負担が偏ってしまうから、企業内保育所はバツなんです。昨日、厚生労働省へ行ったら、企業内保育所のポスターが貼ってあったんですけれど、そのビジュアルが「子供を抱っこしているお母さんと、ネクタイをしている企業の代表者」なんですよ。「父親はどこ!?」って話じゃないですか。あれは声を大にしてミスリードだと言いたいですね。

■「保育園落ちた日本死ね」は日本のジャンヌ・ダルク

白河:2016年10月に発表された世界の国々の男女格差(ジェンダー・ギャップ指数)では、日本は111位まで順位を下げてしまいました。数字を見ると、女性の政治参加の少なさがはっきりと出ているんですよ。政治に関心を持つ若い世代も最近は増えてきていますけれど、日本の女性が大きな声をあげるようになったきっかけは、「保育園落ちた日本死ね」の匿名ブログだったと私は思っていて。

髙崎:あれは素晴らしかったですね。日本のジャンヌ・ダルクだと思います。

白河:最初は「誰が書いたものだかわからない」と無視されそうになりましたが、ネットで火がつき、テレビでも取り上げられ、リアルにデモが起きて署名運動が始まって......という大きな流れになった。「これは怒っていいんだ」「おかしいと言っていいんだ」という空気をマスコミがつくっていくことも、すごく大事だと私は思っています。

髙崎:わかります。私は「保育園落ちた日本死ね」は日本なりのデモだな、と感じました。ああいうやり方でいいと思うんですよ。子育て政策も同じで、フランスがこうだから日本もマネすればいい、という話じゃない。日本には日本のやり方がありますから。

白河:ネット署名とか手法もいろいろ広がってきていますからね。声を上げることは無駄じゃない。そのやり方をみんなで模索している過程にあるんだと思います。

髙崎:私が子育て政策を見ていてよく感じるのは、「制度」と「運用」は別物だ、ということです。制度は幅広につくったほうがよくて、運用に際しては、現状に合わせて細かいルールを決めていくべきなんです。日本には良い制度があるけれど、現状に合わせた運用できていないケースが多い。育休制度だって制度自体はたぶんOECD(経済能力開発機構)加盟国のなかでは一番いいんですよ。ただ、運用ができない。なぜなら運用ルールをつくっていないから。制度は条文であって、それを動かすルールは別に必要なんです。そうじゃないといつまでも前に進まない。

白河:日本が子育てしやすい国に変わっていくためには、まずは男性の時間を家庭に返してあげることがやはり重要ですね。そのためには「長時間労働に上限規制」をかける必要があると思っています。私も働き方改革実現会議のメンバーとして実現に向けて一生懸命署名も集めていますので、子育て世代の方たちもぜひご協力をお願いしたいです。

髙崎:私からも最後に日本の子育て世代に一言。お母さんたちはこれ以上頑張らなくていいですよ。もうここからは、状況は良くしかならないので、心配しないでくださいね。私は遠くから声を上げることしかできませんが、日本には白河さんをはじめ、国に働きかけてくださる方がいます。問題意識の高い官僚の方も沢山いますから、日本の子育て環境はこれから絶対に、いい方に変わります。それを待つ間はどうかお父さんたちがお母さんたちを支えて、毎日を乗り切ってください!

(プロフィール)

髙崎順子(たかさき・じゅんこ)

東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年に渡仏し、パリ第四大学ソルボンヌ等で仏語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材・執筆の他、各種コーディネートに携わる。フランス人の夫との間に09年に長男、12年に次男を出産。パリ郊外在住。最新の著書『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)では少子化の危機を克服したフランスの育児システムについてレポート。

白河桃子(しらかわ・とうこ)

少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授。女性のライフデザイン、キャリア、男女共同参画、女性活躍推進、不妊治療、働き方改革、ダイバーシティなどをテーマに執筆、講演、テレビ出演など多数。2015年より「一億総活躍国民会議」、2016年より「働き方改革実現会議」の民間議員も務める。

(取材・文 阿部花恵

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「私は、ダイバーシティに気づいていなかった――20年間の『クローズアップ現代』の現場で学んだこと」

<国谷裕子 プロフィール>

79年に米ブラウン大を卒業。外資系生活用品メーカーに就職するが1年足らずで退社。81年からNHKで英語放送のアナウンサーなどを務める。その後、NHKのBS でニューヨーク駐在キャスターとなり88年に帰国。BS「ワールドニュース」のキャスターを経て、93年より『クローズアップ現代』のスタートからキャスターとなり、2016年3月まで23年間、複雑化する現代の出来事に迫る様々なテーマを取り上げた。長く報道の一線で活躍し、放送ウーマン賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞など受賞。

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