独身、アラフォー、そして「がん」宣告 子宮を残すか摘出するか...。マンガ家・藤河るりさんの選択

卵巣・子宮を全摘出する? 「まだ5年くらい出産可能」という医師の言葉にかける?

独身、36歳、ひとり暮らし。卵巣で見つかった腫瘍は悪性、つまり「がん」だった。卵巣・子宮を全摘出して完治を目指すか、「まだ5年くらい出産可能」という医師の言葉にかけて出産への望みをつなぐか――。

がん闘病という重いテーマにもかかわらず、発売即重版で話題となったコミックエッセイ『元気になるシカ!』(KADOKAWA)。著者はBL(ボーイズ・ラブ)マンガ家として長いキャリアを持つ藤河るりさんだ。告知、手術、抗がん材治療を経て、日常を取り戻すまでの3年間について藤河さんに話を聞いた。

藤河るりさん

■出国直前、空港から救急車で病院へ搬送

――『元気になるシカ!』はブログを書籍化したコミックエッセイですが、なぜ自身の姿を鹿に?

闘病体験をマンガ化しようというのは、病気になってわりと早い段階から思っていました。その以前にもエッセイマンガを描いていたので、周囲の友人や担当編集者さんも「もちろん描くんだよね?」っていう感じで(笑)。そっちでも自分をシカにして描いているんですよ。理由は、「お尻がでっぷりしてて鹿の尻みたい」って友人に昔言われたことがあるのと、観光客のせんべいにガーッと群がる奈良の鹿の猪突猛進っぽさが私に似ているらしくて。

試しに鹿じゃなくて人間の女性の姿でも描いてみたんですが、「婦人科の内診台にあがって股を開く場面を描くこともあるかもしれない」と考えたら、その選択肢はなくなりましたね。あまり生々しくないほうが、男性の読者にも手にとってもらいやすいんじゃないかな、と思って。自分の母親や奥さんががんになった男性、ご家族の方にも読みやすいものを、という風に考えたら、結局シカの姿に落ち着きました。

『元気になるシカ! アラフォーひとり暮らし、告知されました』(KADOKAWA)

――もともと人間ドックで子宮内膜症と診断されていたそうですね。

はい。ただ、そんなにひどいものだという自覚はまったくなくて。診断結果が「最寄りの病院に行って下さいね」という感じだったので、私も「内膜症かぁ」くらいに、そこまで重く受け止めていなかったんです。それは本当に後悔していることなんですが。ただ、生理はもとから重いほうでしたが、生理不順みたいなことはそんなにありませんでした。

――「闘病」の始まりは、ひとりで台湾へ旅立つ直前の空港。激痛に襲われて救急車で搬送され、卵巣にあった「のう腫(古い血液や液体がたまって腫れた状態)」がねじれていたことがわかります。

なんでこの入国審査も済ませたタイミングでって感じですよね(苦笑)。でもあれが機内や現地に着いた後だったらもっと大変だったろうから、まだよかったのかもしれません。空港でお腹に突然痛みを覚えてから倒れるまでは......10分、15分くらいだったのかな。とても長く感じた一方で、あっという間だった気もします。

■がんについて調べるほどにあやしげな情報の底なし沼へ

――MRI検査の結果、右卵巣にある6センチののう腫が「悪性」=「がん」の可能性が浮上。「告知」されたときの心境を今振り返るとどうでしたか。

現実を受け入れられないというか、医師の言葉が聞こえているんだけど、聞いていないような、現実感がない感じでしたね。「浸潤(しんじゅん)が~」「術中診断して~」といった初めて聞く用語が理解できないことに加えて、家族や身近にがん経験者が誰もいなかったから、この先どういう治療をするのかも、その時点ではまったくわからなくて。

卵巣の場合は、開腹してみないと腫瘍が悪性かどうかわからないそうなんです。そうなると先生の話も「もしも悪性の場合は」という仮定の話になるので、こちらもふわふわと受け止めてしまうというか。受け入れたくない気持ちと、まだ仮定の話であるということ。この2つが合致して頭に入ってこなかったんだろうな、と今振り返ると思いますね。

――「がん」の情報を調べていくうちに、「怖い」「なのに見るのが止まらない」とネットの底なし沼にハマり込んでいく一コマも描かれています。

たぶん誰しも自分が「大丈夫」っていう情報を知りたいんだと思います。でもネットで検索をかければかけるほど、怖い情報が出てくる。だからそんなに検索しないほうがいいのかな、という気はしますね。あやしい民間療法もたくさん出てくるんですよ。もしかしたら人によっては効くのかもしれないけど、万人に効くものなら多分もう保険適用されているはずなんです。

ただ、それでも調べてしまう気持ちはすごくよくわかるんですね。だからそういう意味でも、自分がマンガに描くときはなるべくフラットな状態を心がけよう、というのは意識していました。感情的なものも、ちゃんと描くけどドラマチックには描かないようにしよう、と。

■子宮全摘という選択を今もそんなに後悔していません

――腫瘍が悪性(がん)だった場合、本当に子宮・卵巣を全摘出する選択でいいのか。手術当日の朝まで悩む姿が描かれています。

後悔しないようにしなきゃ、という気持ちで頭がいっぱいでしたね。どう受け入れていいのかわからない、飲み込めない、でも決めなきゃいけないという。自分の中ではなんとなく「ああ、もう取る(全摘)んだろうな」という着地はわかっているんですよ。でも気持ちの持って行きようがわからなくて、右往左往していたんでしょうね。

母と女友達3人にそれぞれ電話をかけて、話を聞いてもらいました。4人とも「自分はこう思う」という意見を出してくるわけじゃなくて、私がどう思っているのか、その心境の整理を手伝ってくれたんですね。彼女たちには本当に感謝しています。

この選択についてはいろんな考えをする方がいると思います。でも、私はあのときに本当にいっぱい考えたので、今そんなに後悔はないんです。ギリギリまでジタバタしておいたことは結果としてよかったな、と思っています。

(取材・文 阿部花恵

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乳がん手術後、再建手術を選ばなかった女性たち

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