殺人、密輸、2度の脱獄......メキシコの麻薬王「エル・チャポ」、ついにアメリカへ引き渡し

「彼がシナロア州の美しい山々を見ることはもう2度とないでしょう」

メキシコ外務省によると、麻薬密売組織の最高幹部で、「麻薬王」と呼ばれた「エル・チャポ」ことホアキン・グスマン・ロエーラ受刑者の身柄が1月19日、アメリカに身柄を移送された。グスマン受刑者は殺人、麻薬取引、マネーロンダリング(資金洗浄)などの罪に問われている。

グスマン受刑者はメキシコで最も警備が厳重な刑務所から2回脱獄している。1993年に逮捕されたが、2001年に洗濯かごに隠れてトラックに乗り込み脱走。2014年2月22日、メキシコとアメリカ両国の合同捜査で身柄を拘束された。しかし2015年7月11日、刑務所から地下トンネルで脱獄し、6カ月間の逃亡の末、2016年1月に再拘束された。2015年5月以降は、アメリカ国境付近のシウダ・フアレス刑務所に収監されていた。

AP通信によると、グスマン受刑者はニューヨークに移送された。

アメリカ司法省は声明で「グスマン・ロエーラ受刑者のアメリカへの安全な引き渡しについて、メキシコ政府の大きな協力と援助に感謝する」と述べた。

グスマン受刑者はメキシコ最大の麻薬密売組織「シナロア・カルテル」の元最高幹部だ。2015年7月にアルティプラーノの刑務所でシャワー室のトンネルから脱獄し、メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領政権に大きな打撃を与えた。

グスマン受刑者が厳重な警備の刑務所から脱獄するのは2回目だった。2001年に脱獄した刑務所では、セックスワーカー(売春婦)の訪問が許されていたという。

メキシコ治安当局がグスマン受刑者を再拘束したとき、メキシコ政府はアメリカからの身柄の引き渡し要求を尊重して受け入れた。メキシコ政府が再びグスマン受刑者を逃してしまうかもしれないとの暗黙の了解があったという見方もある。

グスマン受刑者はアメリカで殺人、麻薬取引、マネーロンダリングなどの7つの罪で起訴されている。グスマン受刑者の弁護団は身柄の引き渡しに強く抗議し、アメリカへの移送を1年以上遅らせた。

メキシコは死刑制度の国への引き渡しを拒否している。アメリカの中でも、ニューヨーク州には死刑がない。

アメリカ麻薬取締局(DEA)国際業務部元長官のマイク・ビジル氏によると、メキシコ最高裁はシナロア・カルテルから報復の恐れがあるというグスマン受刑者の訴えを退けたという。グスマン受刑者をアメリカに移送すれば、かつて最高幹部を務めたこの犯罪組織との関係を断ち切ることになる。

「間違いなく彼は有罪になり、テロ行為と麻薬密売を指揮することはもうないでしょう」と、ビジル氏はハフィントンポストUS版に語った。「彼がシナロア州の美しい山々を見ることはもう2度とないでしょう」

グスマン受刑者の仲間や敵だった人間は、ここ最近相次いでアメリカ連邦裁判所で麻薬取引の罪を認めている。彼らは時にアメリカ政府側の証人として、新たに身柄を引き渡された密売人の裁判で検察官の主張を補強することもある。

かつてはグスマン受刑者の仲間で、今は敵対している「エル・モチョモ」ことアルフレド・ベルトラン・レイバ被告は、2016年にワシントンで麻薬取引の罪で裁判を受けた。その裁判で政府側の証人として、殺人で起訴された「ラ・バービー」ことエドガー・バルデス・ビジャレアル被告と「エル・レイ」ことヘスス・サンバダ被告が出廷した。2人ともすでに司法取引に応じており、レイバ被告は裁判が始まる数日前に司法取引を受け入れた。レイバ被告の弁護士は当時、彼が政府側の証人になることに同意した事実を否定していた。

グスマン受刑者の裁判で、アメリカ大陸最大の麻薬密売組織の運営について独自の手がかりが見つかるかもしれない。ただし、メキシコの密売組織の首領たちはアメリカで重罪に問われると、法廷で争わずに罪を認めることがよくある。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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