ダコタ・アクセス・パイプラインの対立再燃か トランプ大統領、建設再開の大統領令に署名

「『キーストーンXL』と『ダコタ・アクセス・パイプライン』は、決して国益にはなりません」

就任して3日目、両脇にマイク・ペンス副大統領とラインス・プリーバス大統領首席補佐官を従えて、大統領令に署名し、顔を上げるドナルド・トランプ大統領

アメリカのドナルド・トランプ大統領は1月24日、オバマ政権時に計画を中止していた2件のパイプライン建設を再開させる大統領令に署名した。

AP通信によると、建設が再開されるのは、カナダからテキサス州に原油を輸送する「キーストーンXL・パイプライン」と、ノースダコタ州からイリノイ州までつなぐ「ダコタ・アクセス・パイプライン」。

キーストーンXLは、およそ10年前からカナダのエネルギー企業「トランスカナダ」が計画を立てている、カナダのアルバータ州からネブラスカ州までの1179マイル(約1897 キロメートル)をつなぐパイプラインだ。しかしアメリカ国内でシェールガスの生産量が増加したため、7年にわたって計画の見直しがされ、最終的にオバマ元大統領が2015年に建設計画を却下した

ダコタ・アクセス・パイプラインは、石油パイプライン会社「エナジー・トランスファー・パートナーズ」がノースダコタ州からイリノイ州までをつなぐ1172マイル(約1886キロメートル)のパイプラインを建設するプロジェクトだ。建設ルート近くの居留地に住むアメリカ先住民スタンディング・ロック・スー族とその支援者たちが、水源のミズーリ川が汚染されることを懸念し抗議デモを続けていた。陸軍省は2016年12月4日、ミズーリ川をせき止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表し、建設は中断されていた

トランプ大統領が大統領令に署名したことで、政府と環境保護グループとの対立が再燃する可能性がある。

ハフィントンポストUS版は24日朝、ホワイトハウスにコメントを求めたが応じなかった。

石油・ガス業界のてこ入れを支持するこの大統領令は、オバマ大統領による環境的利益を考慮した政策を覆す最初の本格的なステップとなる。石油・ガス業界は、低価格、再生可能エネルギーとの競争、炭素排出削減を目的とした規制などに悩まされていた。

トランプ氏による大統領選勝利の翌日にあたる2016年11月9日、トランスカナダ社の幹部はトランプ氏の政権移行チームと面会し、 石油パイプ建設を再開させるつもりだと発表した。トランプ氏は2016年5月、アメリカ政府がその収益の一部を得られるのなら支援すると述べた。

さらに、1993年の北米自由貿易協定(NAFTA)を再交渉するというトランプ氏の公約(今週にも大統領令に署名する予定だ)は、事態を複雑にするかもしれない。トランスカナダは2016年6月、NAFTAの法的条項によりアメリカ政府を相手取って訴訟を起こしたからだ。

このパイプラインは、主にタールサンド(砂、粘土およびビチューメンの有害な混合物、どろっとした粘性のある油)から石油をポンプでくみ上げ、テキサス州のメキシコ湾岸にある製油所に送る。非営利環境保護団体「フレンズ・オブ・ジ・アース」の予測によると、「キーストーンXL」は、最も汚染を拡大させるとみられる化石燃料タールサンドオイルを、アメリカへ毎日83万バレル運ぶことになり、それは、560万台の新車を道路に走らせたときの排出量に相当するという。

既存の「キーストーン・パイプライン」と「キーストーンXL」の建設ルート。THE WASHINGTON POST VIA GETTY IMAGES

このプロジェクトは環境保護や気候変動に取り組む団体の反発を招き、建設の中止を求める新たな訴訟や抗議活動が起こる可能性が高い。

環境保護団体「350.org」の共同設立者、ビル・マッキベン氏は声明で次のように述べた。「これで建設再開が決定したわけではありません。トランスカナダは、パイプラインの建設ルート上にある土地を取得できるという強い自信をもっていましたが、結局計画は抗議行動によって阻止されることになりました。人々は抗議のため、再び結集するでしょう」

ダコタ・アクセス・パイプラインが強い抵抗に直面する可能性は低い。パイプラインは、スタンディング・ロック・スー族の居留地近くの20マイル(32キロメートル)区間の他は、ほとんど完成しているからだ。

掘削現場付近にあるデモの拠点「オセチ・セコウィン・キャンプ」の気温が氷点下になっても、「人間の盾」の役割を果たすためにやってきた2000人の兵役経験者を含む、多くのデモ参加者が現地に留まった。

しかし、スタンディング・ロック・スー族の部族長たちは20日、デモ参加者たちに、先住民は裁判でパイプライン建設に反対する闘いを続けるから、キャンプを引き払うように要請した。ノースダコタ州フォート・イエーツでスタンディング・ロック・スー族の部族評議会が全会一致で可決した決議によると、自らを「水の保護者」と呼んでいるデモ参加者には、1月30日までにキャンプを引き払うかどうか猶予期間が与えられる。

「前進するために、私たちの究極の目標を選出された議員に委ね、行政と法的なプロセスを通じて戦略的に行うのがベストだ。このような理由から、私たちは『水の保護者』のみなさんにキャンプから立ち退き、帰宅されることを心からの感謝の意を持ってお願いします」と、スタンディング・ロック・スー族はFacebookに投稿された声明で述べた。このFacebookページは、#NoDAPLというハッシュタグを付けられて2016年夏に急速に広まった。

気候変動を「中国人が作った作り話」と誤って説明していたトランプ大統領は、環境規制を廃止し、石油、ガス、石炭産業を強化することによって、アメリカ経済を活性化させるビジョンを掲げた。トランプ大統領は、環境政策に影響を与える主要な政府機関を含めて、化石燃料産業の擁護者や(地球温暖化を前提として、その仕組みを研究する)気候化学に対する否定論者を大統領顧問団に並べた。

ショーン・スパイサー報道官は23日の記者会見で、ハフィントンポストUS版から「2016年は史上最も暑い年だったことを踏まえて、気候変動によって人類文明に害が及ぶぎりぎりの状態だと科学者たちが言っている事実にどのように対処するのか」という質問の回答を避けた。

「トランプ氏は、大統領顧問団と話し合い、環境にとってどの政策が最善であるのか、その答えを見つけ出します」と、スパイサー報道官は述べた。「大統領選の運動中にトランプ氏が語ったのは、『バランスが取れていること』でした。トランプ氏は、資源を適切に利用しようと努め、経済成長と雇用創出を損ねずに最大限に資源を利用しようと努めます」

トランプ大統領は環境汚染を招くエネルギー源を導入しようとしているが、世界最大の汚染国である中国は、103の石炭火力発電所の計画を中止し、2020年以降の温暖化対策の国際枠組みが定められたパリ協定から脱退しないようトランプ大統領に要請している。

「中国やドイツのような国々が過去の環境汚染エネルギー源からの移行を進展させている一方でこうした行動をとれば、私たちのこれまでの進歩は後退してしまうだろう」と、民主党のブライアン・シャッツ上院議員は声明で述べた。

「気候変動はこの世代の課題であり、私たちは、クリーンエネルギーを支える政策によって前進しなければいけない。『キーストーンXL』と『ダコタ・アクセス・パイプライン』は、決して国益にはならない」

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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歓喜に湧くスタンディングロックのデモ参加者たち

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