間違いだらけの歴史雑誌「校正・校閲1回だけだった」 KADOKAWAが報告 外注先は不信感を漏らす

「ハイグレードホテル」が「廃グレードホテル」となっているなど少なくとも30カ所のミスがあった。

雑誌『岐阜信長歴史読本』に多数の誤植があった問題で、出版元のKADOKAWAは2月15日に社内調査の結果を公表した。同社は「本来2回行うはずの校正・校閲作業が1回しか行われていなかった」など不備を認めた。

この雑誌は岐阜城など織田信長ゆかりの場所を紹介する内容で、1月30日に初版1万部を出版。制作にあたっては岐阜市が編集に協力した。

ところが、出版後に読んだ市職員がミスを発見し、問題が発覚。市教育委員会が6日にKADOKAWAに連絡したという。

毎日新聞によると、問題の雑誌では岐阜市の地名が書かれた場所が「三重」にあるように表記されたり、「ハイグレードホテル」が「廃グレードホテル」となっているなど、少なくとも30カ所のミスがあった。

岐阜市は、広告料460万円と1000冊分の購入代金約104万円をKADOKAWAに支払う契約を交わしていると毎日新聞が伝えている。

『岐阜信長歴史読本』/KADOKAWA

■大量の誤植、なぜ起こった?KADOKAWAの説明は…

なぜ、このようなミスが起こったのだろうか。

KADOKAWAは公表した報告文の中で、今回の雑誌の制作にあたって「内容の校正・校閲作業を、弊社と取引実績のある専門会社に委託しておりました」と作業を外部に発注していたことを認めた。ただ、外注先の会社について、KADOKAWAは文中で明記していない。

一方で、KADOKAWAは「弊社が提供した校正刷に、内容のチェックならびに修正箇所の指摘(朱字)を正確かつ的確に行い、弊社担当編集者に納品したことを確認しております」と説明。トラブルの責任が、外注先にはない点を強調している。

大量誤植の原因は、KADOKAWA側にあった。外注先から納品された修正内容について、KADOKAWA側は校正刷り(校正用に仮に印刷したもの。 「ゲラ刷り」「ゲラ」とも呼ぶ)に反映させる作業段階で、「多くの転記漏れが生じ、それが最終的に修正されることなく刊行に至りました」と説明している。

大量の転記漏れに、なぜ気が付かなかったのか。KADOKAWAの社内調査によると、不備とされたのは以下の2点だった。

(1)社内で本来2回行う校正が、スケジュール管理の不備により1回しか行われなかった

(2)編集部内で、校正刷りの確認作業で組織的なチェック体制が機能しなかった

KADOKAWAでは、校正・校閲作業の結果が的確に反映されていることの確認、出版物の内容・体裁が発行に適正かどうか精査するため「校正・校閲は2回以上行うことを編集製作の大原則」としているという。

ところが、今回の『岐阜信長歴史読本』の編集製作過程では「スケジュール管理の不備から、その大原則が遵守されておりませんでした」としている。

今後、KADOKAWAでは「対策チームを発足させ、再発防止に取り組む」としている。

■校正を引き受けた編集プロダクション「校正側がミスをしたという誤解を生んでいる」

ハフィントンポストは、問題の雑誌の校正作業を請け負った編集プロダクション「ぷれす」の奥村侑生市(ゆういち)社長に話を聞いた。

まず奥村氏は、KADOKAWAが報告文の中で、外注先である「ぷれす」の社名を挙げていない点を指摘。「インターネットや一部報道では、『校正側がミスをした』という誤解を生んでいる」とした上で、このままでは「校正を請け負った外注先に責任があるいう誤解を生みかねない」と不安感を吐露した。

また、報告文の「内容の校正・校閲作業を弊社と取引実績のある専門会社に委託」という箇所について、「取引実績のある会社が『ぷれす』のことであるとするなら、校正(原稿と校正刷り見比べ、文字や文章の誤植を正すこと)は請け負ったが、校閲(原稿の文章の意味や内容を読み、誤りを正すこと)のオーダーはなかった」と明かした。

奥村氏は「他の会社に校正を委託していた可能性もあるかもしれない」とした上で、「雑誌の奥付(巻末の著者名・発行者名・発行年月日・定価などを印刷した箇所)に『ぷれす』の名前がある以上、この書き方だと弊社が校閲作業を請け負ったと誤解されかねない。校正と校閲は明確に分けて欲しい」とのべた。

なお、奥村氏によると2月10日に、問題となった雑誌を手がけたKADOKAWAのビジネス・生活文化局長より「『ぷれす』にはなんら落ち度はない」という趣旨の謝罪電話があったという。それだけに、「(報告文で)何を、どこの会社に委託したのか。何があったのかを明確にしなければ、再発防止にならないのでは」と、思いを語った。

■KADOKAWA広報「あくまで全取引先へのお詫び」

なぜ、KADOKAWA側は校正・校閲の委託先を報告文の中で明示しなかったのか。ハフィントンポスト日本版はKADOKAWAの広報担当者に話を聞いた。

――「校正・校閲作業を、弊社と取引実績のある専門会社」は、「ぷれす」ですか。

今回のリリースに関しては、、読者の皆さまをはじめ、岐阜市関係者の皆さま、製作・販売にご尽力いただいた皆さまへのお詫びの文章になります。そのため、個別の企業名を記すものではありません。

――「お詫びの文章」とは、経緯を説明する「報告書」ではないということでしょうか。

あくまで「ご迷惑をおかけした」「多大なご心配をおかけした」というお詫びの文章になります。

――校正作業と校閲作業は、それぞれ別の会社に委託したのでしょうか。「ぷれす」以外にも校正を委託したのでしょうか。

今回のリリースに関しては、あくまでお詫びの文章になりますので、個別の会社については…。

――「ぷれす」側は「誤解を生み、中傷にもつながっている」として、校正・校閲を分けて、委託先の会社名を記載することを希望しています。

今回のリリースに関しては、全取引先へのお詫びになります。「ぷれす」様が、そのような誤解をうけているのは遺憾ですが、弊社側からそのような(誤解を生む)発信をした事実はございません。

――ミスが発生した経緯について、「組織的なチェック体制が機能していなかった」「編集製作過程においてはスケジュール管理の不備」とあるが、具体的には。

リリースに書かせていただいた通りになります。

――再発防止策について、具体的には。

これから進めてまいります。社内での勉強会、事故防止へのマニュアルなど、この対策チームで 二度とこのようなことのないように再発防止に務めてまいります。

――今回の報告文は「あくまでお詫び」とのことだが、今後改めて経緯を説明する「報告書」を作成・公表する予定はありますか。

確定していないことについては、お答えを差し控えさせて頂ければと思います。

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