石原慎太郎氏「私は素人」「言われるままに判」 豊洲市場問題で繰り返す(会見詳報)

「みんなで決めたことじゃないですか」

東京都が豊洲市場への移転を決めた当時の知事だった石原慎太郎氏が3月3日、東京の日本記者クラブで記者会見した。

石原氏は、「行政の責任は当然、裁可した最高責任者にあるということは認めます」としながら、東京ガスとの用地売買契約に署名したことや、交渉の経緯については、

「私自身がサインした覚えはありません」

「(都庁各部署や専門家、議会など)司司の責任に任せて、言われるままに判子を押した。それが行政の手続きの手順」

「私は素人ですし、担当の司司の職員の判断を仰ぐしかない」

と繰り返し、「私一人の責任というよりも、行政全体に責任がある」と強調した。

また、築地市場からの移転を保留している小池百合子知事については、

「やるべきことをやらずにことを看過し、築地で働く人を見殺しにし、ランニングコストも補償もべらぼうにある、こうした混迷、迷走というものの責任は今の都知事、小池さんにある」

「小池さんは今、権限を持って豊洲に移転すべきだと思いますし、しなければ不作為で告発すべきだと思います」

と批判した。

自宅を出る前、報道時に「果たし合いに出かける昔の侍の気持ち」と述べた石原氏。会見では、ロッキード事件で逮捕され裁判中に脳梗塞で倒れ、死去した田中角栄・元首相になぞらえ「憤懣やるかたなく一言も喋らずになくなられた心境に思いを致すと痛ましい気がしまして、そのざまでとても生き続けるつもりはない」と、会見に至った動機を述べた。

また、A4判3枚の文書を読み上げさせ、

  • 1999年の知事就任時には、すでに豊洲移転は都庁内の既定路線だった
  • 東京ガスとの用地買収交渉と契約は歴代の副知事に一任しており、詳細を知らなかった
  • 専門家(諮問会議「土壌汚染対策工事に関する技術会議」)が豊洲移転は可能だと判断した

と主張した(配布した立場表明全文経緯一覧

「記者会見で私は、豊洲移転に全面的に賛成ではなかったし、ある意味リラクタント(渋々)だったと言っていた」と、記者会見の動画も公開した。

主な一問一答のやりとりは以下の通り。

――「豊洲移転は前から決まってたんだ」というが、その前に環境基準の1500倍にあたるベンゼンが検出された。踏みとどまってみようということにならなかったのか

私も専門家でありませんから、専門部局の環境局、港湾局、検討委に一任する以外になかったですし、私は科学者でもありませんから、報告を待って最終的に各局をまたぎ結論を上申してきた。「こういうことで裁可願います」「土壌の問題は大丈夫なんだろうな」「今の技術をもって大丈夫です」「じゃあ裁可しよう」と。都議会の決算委も了とした。私は裁可せざるを得なかった。

――問題になっているのは瑕疵担保の免責の問題。石原さんご自身があとで「変だと思った」と語っているが、なぜそのときそう思わなかったのか

私自身が商売の経験がないし、福永正通副知事がやってて、らちがあかないんで浜渦武生副知事に一任したのは、東京都が財政再建団体転落の寸前だったからなんですよ。一番大事なのは、膨大な東京都の職員歳費をカットしなきゃまかないきれない。都庁職員の歳費20%カットをやった。そういうものを経て私もオリンピックを(やろうと)言い出した。彼もあるところまでいった段階で、後任の前川燿男君にバトンタッチして、彼が実際の契約まで持っていった。その間の瑕疵担保責任留保の報告も相談も受けていない。一任したことで東ガスと都庁の契約交渉の中で、どういう条件で成就したのかわかりませんが、私はそこまで細密に報告を受けてません。

それはもう、任せきり。そんな小さなことにかまけてられません。部下を信じない限り進みませんのでね。

――協定書に捺印したご記憶はないんですか

ありません。それは当事者がしたわけだから。私自身がサインした覚えはありません。少なくとも記憶がございません。少なくともその担当者が何らかのサインをしたんでしょうね。そのときに私の判子が使われたということじゃないでしょうか。

――必ずしも賛成ではなかったと

パリで食事したとき、ど真ん中に大きな市場があって生鮮食品を運搬して売っている。もっと内陸でもいいんじゃないか。もっと大きな、設備を完備した市場を作ったらどうかと発言したことがあります。これは都庁内で一笑に付されました。

――記者会見でも言った?

記憶にありませんけど、幹部の席で申しました。「既定路線から外れるので論外です」と却下されましたけど。「未練があるぞ」というのは記者会見で言った覚えもありますし、映像もあります。

築地にもいろんな問題が内包しておりますし、夏は暑い、冬は寒い。賛否両論あるようですが、私はこの際、知事が決心して速やかに豊洲に移すべき。それをしないなら不作為の責任を問われて、小池知事こそ生殺しになっている業者たちの住民訴訟の対象になるべきだと私は思います。

――「私が全部しゃべると困る人がいる」と言った。誰か

誰でしょう。いろいろいます。浜渦君の後継者で実際の契約を結んだ人がいる(注:前川燿男・元副知事)。この人も東京ガスの執行役員に転出した。議会も責任あると思いますよ。特別委がきわどい形で意見が分かれたとき、委員長の1票差で決まった。この人はなぜか民主党を出て、のちに自民党の推薦で世田谷区長選に出ました。そういうきわどい中で議会も承認したわけですし、公明も自民も賛成して議会の総意として決まった。私一人の責任というよりも、行政全体に責任があると思いますし、それを検証することがいちばん大事なすべじゃないかと思います。

――市場移転の判断についてほぼすべて、下の方に任せていらっしゃったのか

これは大事な大事な政治案件ですからね、各部局、専門家を含めて委員会を含めて論議してきて決めたこと。それにまかせざるをえない。私は専門性ないから。その総意として上がってきたものに対して認可したということだから。

――ご自分では前向きでなかった、でも今は豊洲に移転すべきだという。どこで判断が変わったのか

判断が変わったんじゃない。決まったんだ。汚染の問題が出てきたが水を使うわけでも洗うわけでもなく、今の建物で操業することに危険がないと専門家が保証している。中ぶらりんの業者の補償も含めて膨大な支出がされている。現知事が自分の判断で移転を決めて行うべきだと思いますよ。

――石原さんご自身も作為の責任があると認めました。最大の責任は何だったんですか

承諾して裁可したことです。私個人の意志でも以降でもなく、都庁行政の議会も含めた結論として是としたわけですから認可せざるを得ない。

――知事本局の方に取材していますが、知事本局に決定権はないとおっしゃっていますが

こういう大きな政治マターは各分野、各局、総意としてまとめて検討し、それを最終的に決定するのは知事本局長だった。それが誰だったかは記憶していない。

――責任逃れの恥さらしの回答だ。民間企業の最高責任者にあたる都知事が部下のせいだと言う

あの土地をあのコストで購入したということは私が決めたわけじゃありません。審議会が審議して決めたこと。

――恥さらしじゃないですか

私は恥とは思ってませんね。上がってきたものを裁可したんですから。

――浜渦さんから大まかな報告は受けていたかもしれないとおっしゃいました

聞いておりません。全部一任しておりました。専門性のあることですから。中間的な報告は大まかに出たかも知れませんが、相談も受けたことがない。任せていましたから。

――百条委でも同じ発言をされますか

それ以外に言いようがありませんから。

――小池知事に一言

今の責任を取るべきだと思いますね。ランニングコストをどんどん使って安全な市場を使わずに、外資の会社に半額で売るなんて論外だと思います。無為無策で放置して余計なお金を税金から使うんですか。私はその責任は彼女にあると思います。

――築地で働いている方々に対しておっしゃりたいことがあるか。当時の知事本局にいた前川さんという方を都議会や小池知事が呼んで話を聞けば、より具体的な経緯が分かるとお考えか

そうですね。前川さん、その人がいちばん精通しているんではないでしょうか。

私はけしかけるわけじゃありませんけど、なんで豊洲で働かせないんだと訴訟を起こしたらいいと思うんです。なんで豊洲を使わないんですか。

――多額のお金がかかると分かっていながら豊洲を選んだ理由は。無駄遣いではないかと感じられなかったのか

これはやっぱり、専門家がそのコストでもなお豊洲に市場を写す必要があると複合的に考えて裁可したわけでしょ。私はそれについて口を挟む余地はありません。これは部下を信用せざるを得ないんじゃないでしょうか。価格についても審議会をやっているわけですから。

――知事時代に銀行税など多くの課題を抱えていた。豊洲の優先順位はどれほど高かったのか。浜渦氏やその他の方は「知事の関心が低かった」と言っているが

私にとってトップは財政再建することだった。大気汚染の問題もありましたし、だから何をもって行政の案件としてプライオリティーをつけるか、ものが多すぎてむやみにいえることじゃないと思いますよ。ただ豊洲は都民の台所、大事な機能。鈴木俊一さんのころから考えて、どっかに作ろうと考えていたんじゃないですか。専門家が専門性を駆使して科学的に考えたこと。私に能力も余地もない。

――関心がほかのことに移っていたのか

それを審査するのは司司のお役人の仕事じゃないでしょうか。議会も審査するわけですからね。

――売買契約のとき、「2002年の合意のために汚染を考慮しない価格で買わないといけなかった」と説明はあったか

覚えておりません。しかも専門的なことですから、その分野の役人や議員がタッチして判断したことだと思いますよ。

――「自分は専門的な知見がないから従うしかない」というなら、何のために知事はいるんですか。そういうのを含めて大きな観点から知事は判断するのでは

いろんな分野のいろんな仕事がありますから、各局、各部があり、議会にも専門委員会があり、大きな問題については私が判断、採決する。私は何も専門家じゃありませんし、物事の専門性について聞かされても私は素人ですし、担当の司司の職員の判断を仰ぐしかないんじゃないでしょうか。

――明確に石原氏の判子が使われてきた。自分のミスを認めるか

瑕疵担保の問題は専門的すぎて交渉の当事者に委ねるしかないじゃないですか。

――瑕疵担保の意味は分かりますか? なぜ判子を押したのか

それはしかしね、その問題について、なんというのかな、それについてどう思うかと聞かれたこともないし、瑕疵責任の留保という言葉もこの問題が起こってから初めて聞きましたし、今思えばとっても大事な問題だと思います。

――判子は誰が押したのか?

知事の判子ですか? きっとそうなんでしょう。「行政の手続きで了としてください」と説明を受けて、私が司司の責任に任せて、言われるままに判子を押した。それが行政の手続きの手順だと思います。

――司司には任せていたが、最高責任者としての責任はあると言うことか。汚染を前提としない金額で返金する訴訟が起こされている。石原さんご自身に弁済する責任がおありになるかどうか

日本は健全な法治国家だと思います。それがまかり通るようなら私は不当だと提訴します。だっておかしいじゃないですか。みんなで決めたことでしょ? 個人の住民訴訟で責任を問われるのは法的におかしいと思いますよ。

――浜渦さんが東ガスと何らかの口約束を行ったのではないかと疑惑が持たれています。「水面下でやりましょう」という発言があります。石原さんの了承なしに土壌汚染対策の約束を東ガスと結ぶことはあり得ないと思うが

受けておりません。

――記憶にないということではなく?

受けておりません。

――東ガス、豊洲開発、お二方同じく押印されている。その方々がいらっしゃったことも覚えていないか

覚えてませんね。残念ながら。いろんな人がいろんな件で来ましたけどね、そうした重要な件で、覚えてませんね。誰か立ち会ってないんですか。

――いつ瑕疵担保責任を留保したと認識したのか

東ガスから質問を受けたときに知りました。私はそのとき知りませんでしたからね。

――では今回の責任は誰にあるのか

これはやっぱり議会も含めて都庁全体の責任じゃないですか。

――どのようにすればいいと思いますか

私は裁可したことの責任は認めます。みんなで決めたことじゃないですか

――最終的に土壌汚染対策費は862億円が投じられた。ここまでふくれあがったことをどう考えるか

それは、わからんですね。とにかく土壌対策費っていうのは、土壌汚染がある段階で、あるコストで対処できるという判断で東京都は東京ガスと契約したんじゃないですか。

――瑕疵担保責任の免除を「後から振り返ると重要なものだった」と言った。それを誰がどう決めたのか。浜渦さんにお聞きになってないんですか

聞いてません。当事者が福永、浜渦。福永はそこまでタッチしてないと思うけど、あとの2人がどういう判断で瑕疵責任の留保を認めたのか私は分かりません。だって報告を受けてないんですよ。瑕疵責任が留保されたってことは、初めて東京都側の質問で知ったんですよ。

――なぜそんなことをしたのか。最高責任者として把握しているべきですよね

東京都側の質問で初めて知ったわけでしてね、交渉のプロセスで重要案件として論じられるとはまったく聞いておりません。

――なぜ今日の会見に臨むにあたってなぜ(浜渦氏に)聞かなかったのか

分かりません。交渉の当事者じゃないから。聞く時間がなかったでしょう。

――なぜ会わない?側近中の側近でしょう

彼もいろんな話をしてるんじゃないですか。逃げるわけじゃありませんけど、任せていたわけですし、(私が)交渉の現場に立ったことは一度もありません。

改めて申し上げますけどね、豊洲は大変な問題で放置するわけにいかない。半額で外国に売り飛ばすなんて論外だ。日本の科学者の最高権威が安全だといっているのに、つまらないお金をダラダラ垂れ流している。一刻も早く稼働することで都民も築地で働く人たちも助かると思いますよ。

――会見で都民は納得したと思いますか?

いろんな問題は残ったと思うでしょうね。

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