オバマケア撤廃に向け共和党が発表した代替案、何が変わるのか?

「オバマケア2.0だ」
UNITED STATES - MARCH 8: Speaker of the House Paul Ryan, R-Wis., and House Majority Leader Kevin McCarthy, R-Calif., conduct a news conference at the RNC where they discussed the House Republican's new healthcare plan to repeal and replace the Affordable Care Act, March 8, 2017. (Photo By Tom Williams/CQ Roll Call)
UNITED STATES - MARCH 8: Speaker of the House Paul Ryan, R-Wis., and House Majority Leader Kevin McCarthy, R-Calif., conduct a news conference at the RNC where they discussed the House Republican's new healthcare plan to repeal and replace the Affordable Care Act, March 8, 2017. (Photo By Tom Williams/CQ Roll Call)
Tom Williams via Getty Images

アメリカ下院の共和党首脳は3月6日、医療保険制度改革 (オバマケア)の大部分を撤廃し、代替案となる保険政策構想「アメリカン・ヘルスケア・アクト」(AHCA)を正式に発表した。代替案では、国民が総合健康保険に加入するための政府の支援が大幅に削減されることになり、ますます多くの国民が手頃な医療サービスを見つけるのに苦労する可能性が高い。

この代替案のビジョンは、オバマケアが具体化した医療制度のビジョンとは全く異なるものだ。バラク・オバマ前大統領の2010年の法律「医療費負担適正化法」(アフォーダブル・ケア・アクト / ACA)では、健康保険を保険未加入者2000万人に拡大し、保険に入れなかった人の割合をこれまでになく下げた。ACAは、低所得世帯への財政援助を目標とし、既往歴のある患者を保険の対象とする保障をはじめ、多くの消費者を保護することを特徴としていた。

それに対し、共和党のポール・ライアン下院議長が支持するこの代替案では、低所得者への財政援助が少なくなるため、結果として現在持っている健康保険を失うアメリカ国民が数百万人になる可能性が高く、また高所得者に対して税額控除を提供する。この法案では、主要な消費者保護が廃止される。

そして、非常に重要なのは、この法案は低所得者層や中間層に向けた支援を切り詰めることで、富裕層や企業が負担する税金を大幅に減額させる手段になっているという点だ。

つまり、共和党の医療保険法案は、ドナルド・トランプ大統領が約束した「全国民のための医療保険」にはほど遠いものだ。この法案が連邦予算とアメリカの被保険者人口にどう影響するかはまだ具体的に明らかになっていない。なぜなら、下院共和党の首脳は連邦議会予算事務局(CBO)がアセスメントを終える前に、法案提出に向けた作業を進めようとしているからだ。また、ACAの財源となっていた税金を廃止したあと、どのようにして運用費を賄っていくのか、同法案には記載されていない。

AHCAは、実際には、互いを補完し合う2つの法案から成り立っている。1つはエネルギー商業対策委員会に向けたもの、もう1つは歳入委員会に向けたものだ。両委員会は8日に法案の「審査」(文言を検討し、修正を加え、採決を行う作業)を開始する。

トランプ大統領は共和党首脳と同じくオバマケア撤廃を最優先事項に掲げてきたが、両委員会が法案を承認すれば、この法案を連邦議会へ、そして大統領のデスク上へと押し出すための大きな一歩となる。

共和党は、彼らの法案がオバマケアよりも優れた、そして安価な保険を提供すると約束してきた。そして、現行法で保険が適用される人々が見捨てられることはないと何度も約束してきた。しかし、彼らは支出と規制の削減、それに、オバマケアの制度上極めて不評だった、保険加入を辞退する人々が困窮してない場合に罰金を課す「強制加入の廃止」も約束していた。

こうした約束は互いに矛盾している。そして医療費の支払いに援助を求めている人々が分かっていなくても、この法律が施行されることで議会の首脳は規制、支出、税負担の面で過ちを犯すことになるのがはっきりとした。

ポリティコウォール・ストリート・ジャーナルといったメディアが解説するように、この法案は初期の草案がほぼ踏襲されている。これらの草案を見てみると、若者や健康な人々は保険料が安くなり、富裕層向けには新しい税制優遇措置が提供されると同時に、自己負担や、高齢者と病気の人の保険料は増額される。その結果、無保険者が増加する可能性があった。

メディケイド(低所得者向け公的医療制度)の規定とより小規模な税額控除で、共和党の法案がオバマケアと同数の人々をカバーすることはできない。

主な変更点は以下の通り。

財政支援の対象者と、その額が変わる。

民間保険に加入する場合は税額控除が受けられ、その金額は年齢別に固定される。30歳未満の年間2000ドル(約23万円)から始まって、60歳を超える人が受ける年間4000ドル(約46万円)が上限となる。ただし、年収75000ドル(約860万円)以上の独身者、そして夫婦の場合は、保険料がこの倍額以上になると税額控除はなくなる。ACAでは、所得が低く保険料の額が高くなるほど税額控除額が多くなっていた。増減合わせて考えると、連邦政府の支出を高齢者や比較的所得の低い人から若年層や富裕層へと移すことになる。この変更が、何百万人もの無保険者を新たに生み出すとする分析の大きな根拠となっている(そしてこの税額控除額は、年齢ごとに上がる健康保険料におそらくは追いつかず、長期的にみると支援額の方が下回ることになる)

またこの法案では、州が運営する健康保険「ハイリスク・プール」など、高額な医療費を支払う人々を支援する仕組みを州政府が構築するための資金として、今後10年間に1000億ドル(約11兆4000億円)が支出される。

#ACAに代わるものとして下院・共和党が提案した制度の下で税額控除は低所得者は下がり、高所得者は上がることになる。

高齢者向け保険料の引き上げ

ACAでは、保険会社は高齢者の保険料を若者の3倍以上に設定してはならないという規制があったが、下院の法案ではこれを5倍に引き上げようとしている。被保険者は若いほど安い保険を見つけることができるが、年配の契約者の保険料はより高額になるだろう。

個人の保険加入義務を撤廃

2015年12月31日まで遡り、保険加入義務違反の罰金が取り消される。保険会社には、健康な人々が病気になる前に保険契約を行えるようにする義務があるが、罰金が廃止されることで、現在加入している保険を維持したり、来年度から保険に加入しようという消費者の意欲が大きく損なわれる。そして、契約を続けざるを得ない、より重い病気の人々の保険料が高くなるという結果を招くおそれがある。

「継続保険」を維持しなかった(保険契約の失効後63日以上経過した)人が再契約する場合、保険会社は掛け金を30%以上引き上げることができる。保険会社がこれを大規模損失に対する適正な防御策と見なすかはわからないが、すでに医療制度が不安定な状況にある多くの州で医療保険市場に混乱が生じ、無保険人口が急増する恐れがある。またAHCAは、勤め先企業が医療給付を行っていないために従業員が医療保険補助金を受給した場合に大規模雇用主が支払いを義務付けられている罰金も廃止するとしている。

メディケイド適用対象拡大の後退

31の州と首都ワシントンでは、メディケイドに加入できる基準を緩和してきた。そのおかげで加入者の数は1000万人以上増加した。オバマケアの下では、メディケイド対象拡大を実行した各州は連邦拠出金の増額を受けられるように資金をプールする仕組みになっているからだ。2020年以降、連邦政府は加入基準緩和により、新たにメディケイドの対象となった人々に対する補助金の増額を停止することとなる。連邦政府は2020年以前に対象基準となった国民に対しては、補助金の上積みを継続するが、メディケイドに加入している間に限られる。メディケイドはいずれは脱退する性質のものだ。結果として、メディケイドの適用拡大によって恩恵を受ける人の増加数は、連邦政府の補助金増額がなくなれば、減少し、やがて消滅することになるだろう。

メディケイドの性質が根本的に変化

オバマケアが施行される以前にメディケイドに加入していた人々を含む、制度全体に対する財政援助が抜本的に変化する。現在、連邦政府は財政援助額に上限を設けていない。各州は受給資格を得たあらゆる加入者に対し、包括的な医療保障を提供するにあたって、上限なしの補助金を受けている。AHCAが施行された場合、各州はあらかじめ定められた基準に沿って、1人当たり一定額の補助金を受けることとなる。代替案を批判する意見の中には、この一定額の補助金では医療コストをカバーできず、やがて各州は大幅な歳出削減を迫られることになると警告する声も出ている。メディケイドの適用対象者数も、受けられる医療費扶助も、対象者を治療するにあたって医療機関に支払われる金額のいずれも歳出削減の対象となるという。

オバマケア税の終了

ACAの資金源である最も裕福なアメリカ人、ヘルスケア企業、そして日焼けサロンに課せられた税は廃止される。

この法案には、保険制度が提供すべき義務がある補償レベルなど、保険に関する規制に影響を与えるような変更も含まれる。こうした変更が「財政調整法」という措置(民主党のフィリバスター[議事妨害]を避けるため、60票を必要としない単純過半数で共和党が可決できる)がとられるかどうかは定かでない。

下院の共和党議員がこうした重大な制度改革の準備をしていたとしても、この法案を議会で通過させるのに新たなハードルも生まれている。下院議会は、何百万もの人びとを保険に加入できるようにし、過半数の州が賛成したACAでのメディケイドの拡大を、以前の水準まで戻すよう求めている。

共和党上院議員のロブ・ポートマン氏(オハイオ州)、シェリー・ムーア・カピート氏(ウェストバージニア州)、コリー・ガードナー氏(コロラド州)リサ・マーコスキ―氏(アラスカ州)らは(全てメディケイドを拡大した州だ)6日午後、メディケイドを拡大させるための政府支出を撤廃するような法案には投票できないと警告した。

また、共和党のジャスティン・アマッシュ下院議員(共和党、ミシガン州)は、AHCAを次のように非難した。

オバマケア2.0だ。

共和党はこれまで、法律で税金や財政支出が数年続くものはどんなものでも、そして期限が設定されたとしても反対してきた。もう1つの問題は、「払戻可能な」税額控除の条項だ。税額控除は、所得税を支払う義務があるほど稼いでいない人が利用できるという条項だ。

共和党のトーマス・マシー下院議員は3日、ハフィントンポストUS版に「税額控除が毎月続けば、財政はさらに悪化する」と語った。「毎月の払戻可能な税額控除の繰り上げとは、新しい毎月の給付金小切手を遠回しに言っているだけだ」

共和党の保守派「下院自由議員連盟」事務局長のマーク・メドウズ下院議員は6日、ハフィントンポストUS版に「明らかに、連盟のメンバーが提起していた本当の懸案に対処するための大きな一歩だ」と述べた。「ひと目見ただけで、メディケイドは問題だらけだとわかる」

ホワイトハウスは、代替案を歓迎している。

ショーン・スパイサー大統領報道官は声明の中で、「今日は、医療選択と購入能力をアメリカ国民に取り戻すための重要な一歩となる」と述べた。「トランプ大統領は、オバマケアを撤廃し切り替えるために、議会の両院と協力することを望んでいる」

トランプ大統領は7日、共和党首脳との会合で「素晴らしい案だ。喜んで支持する。医者や保険が選べるようになる」と支持を表明し、「オバマケアを廃止した後は税制改革に着手する」と語った。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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