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2050年、それでも僕らは会いに行く。 モータージャーナリストの未来予測「移動はエンタメになる」

「移動は無駄」、これは普遍的な事実です。

最近、世界の名だたるIT企業のニュースが車業界をにぎわせている。アップルが中国最大のタクシー配車アプリ「ディディ」との連携を発表し、Googleの自動運転プロジェクトは「Waymo」という独立企業となった。タクシーの利用から車の所有に至るまで、あらゆる既存のカタチがみるみるうちに新しいサービスに塗り替えられていく。めまぐるしい変化を遂げる車や移動の未来は、一体どうなっていくのだろうか。モータージャーナリストの桃田健史氏に聞いた。

<桃田健史氏プロフィール>

モータージャーナリスト。世界自動車産業および周辺分野のエネルギー、IT、高齢化問題等が専門。日米を拠点に各国で取材活動を続け、一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説も担当。著書:「自動運転でGO!〜車の新時代がやってくる〜」「100歳までクルマを運転する」、ほか

■車社会は激変の時代へ。これからは車も「所有より共有」

——長年続いてきた車社会は、これからどうなっていくのでしょうか?

長年続いてきた、いわゆる「車社会」とはまったく違った形になっていきます。それは、消費者が「車を持つこと以外にも選択肢がある」ということに気がついたからです。たとえば1日1時間車を使い続けたとしても車の稼働率は4.2%でしかありません。残りの95.8%、車は置かれたままなんです。週末に使う場合も、実は移動に使っているのは少しだけで、あとはモールの駐車場に置いてある時間が長かったりします。駐車場代を払い、保険料を払い、事故をしたらさらに払う……。そこまで大金をかけるのに見合うほどに車を使いこなすことは、今の社会ではとても難しいことなんです。

最近では、そもそも「所有しない」という価値観が主流になってきました。日本人でいうと、以前は「いつかは庭付き一戸建て」とよく言ってましたけど、今では都会に近くて、建物は古くてもリノベートして便利な方がいい、シェアハウスもいい、という人が増えています。特に若い世代は「所有より共有」という傾向が強い。それが、車に対する所有欲にも大きく影響すると思います。

だからこそ、UberやLyftのような新しいサービスが受け入れられたのだと思います。車は所有するのではなく誰かとシェアする、サービスとして利用する、その方が自分たちの生活にも合っているし理にかなっている。そこに一度気がついてしまうとその変化はもう止められません。しかも、5、6年かけてフルモデルチェンジする製造業と違って、こういう業界はとてもフレキシブルでスピードも速い。新しいプロダクトやサービスがどんどん生まれて、これからさらに大きなビジネスチャンスになっていくと思います。

■「大きな変革はもうすでに起こってしまった」車やモビリティはここからどう進化する?

——車や移動のテクノロジーは、これからどのように発展していくのでしょうか?

「世界を変えるとてつもなく大きな変化」はもうすでに起こってしまったんです。ITの発達によって個人が通信機を持ってコネクテッドになる、「スマホ」と「クラウド」というインフラが整ったことが、一番大きなステップでした。あとはIoT(Internet of Things)だったりAIだったり、様々なテクノロジーと機能との組み合わせが、その土台の中で進化していくことになるでしょう。

たとえば自動運転という技術ひとつを取ってもいろんなカタチがありますが、主に2種類に分けられます。ひとつは、自動ブレーキや自動車間距離装置のように、走行にまつわる自動機能が少しずつ増えていく、車をベースに段階的に進化するパターン。もうひとつは、Waymoのような完全自動運転で動くモビリティがドンと登場するパターンです。免許もいらないし誰でも乗れる。全自動の公共交通機関、電車やバスのようなイメージですね。究極の自動運転として行き着くところは「移動用の個室」なんです。

——では、車やモビリティが進化すると、社会はどのように変わっていくと思いますか?

世の中の交通手段は、統制された「制御社会」に向かっていくと思います。コネクテッドな環境の中で、誰がいつどこで何をやってるかも含めてコントロールすることになるので、すべての交通は一般企業ではなくて、自治体もしくは国が管轄することになるでしょう。移動というのは、いわゆる通勤、通学、買い物がメイン。地方やご高齢の方なら病院や役場に行くなど、ある程度パターン化されます。そうすると、基本的にはみんなが一律同じものを享受することになるので、公共サービスとして税金でまかなうという形にシフトすることもあり得ると思います。

■移動は無駄?! 徹底的になくす移動とお金をかけてでも楽しむ移動

——移動は統制されてどんどん効率化されていくんですね。

「移動は無駄」、これは普遍的な事実です。だから、これからの移動は徹底的に削減されて効率化されていくでしょう。その分、自由に使える時間が増えて趣味を深めたり……といった副次的なメリットも期待できます。一方で、単純な移動は無くすべきものですが、ドライブや旅行に関わる移動は楽しむためのものになり、その付加価値のためなら人はお金もかける。「エンタメとしての移動」という新しいトレンドが生まれると思います。

たとえばですが、「エンタメ移動プロバイダ」みたいなサービスが出てくるかもしれません。あなたの旅行先やメンバー構成に合わせて、交通機関からカーシェアリングまでクロスしてプランニングしてくれる。日常生活においても、フィナンシャルプランナーのように、あなたの生活に一番合った交通手段をプランニングしてくれる、コンサル業なんかが現れるかもしれません。車やレンタカー、シェアリング……これらの垣根がなくなって、どれをいつ利用するか、所有している車をどうシェアリングしたらいいかなどの運用まで全部やってくれる。月に1回は高級車に乗れるプランなんかもある、いわゆる車のサービス業です。

単なる移動とエンタメ移動、極力削減されるべきものとお金をかけてやるもの、これらがきっぱりと二分化されていく。そうなると、自動車を買うお客さんは、BtoCからBtoBにも広がっていきます。プロバイダ企業がお客さんのニーズに合わせて車メーカーに、たとえばこの何年モデルを5千台、と発注するとかですね。そういうことをやろうとしている人たちが、すでに日本でも世界でも動き出している。だからこれはそう遠くない未来予測です。

■時は2050年、人は移動しているのか

——近年ではバーチャルリアリティも発達してますが、会話や体験がリモートでも可能になっても、2050年も人は移動していると思いますか?

仕事で考えると、「わざわざ会って話す」機会は劇的に減っていくと思います。ビジネスであればなおさら時間を有効活用して、効率的にお金を儲けることに目を向けるようになるはずです。でも、それでも人は「たまには会おうよ」とか「会って話そう」とか、気持ちや目的に応じて、あえてそういう場を作っていくんですよね。たとえ面倒な移動をしてでも、大切なことや付加価値のあるものにだったら人は時間もお金もかけるんだと思います。

たとえば、おばあちゃんがお医者さんに診てもらいたいとします。基本的に移動はせず、診療はバーチャルリアリティによる触診や問診など、遠隔で診てもらうのが通常のプラン。そこに、安心のために実際にお医者さんに会って話を聞きたい、緊急で診察を受けたい、より高度な治療を受けたいなど、イレギュラーなリクエストをする場合にはエクストラの料金を払う。こんな風に、これからの「移動」は単なる移動ではなく何か目的があるから選ぶ、特別な選択肢のひとつになっていくんだと思います。

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クラウドやバーチャルリアリティによって、会話や仕事、体験までもが移動せずとも叶うようになった現代。だからこそ、実際に会うことやリアルに体験することにより価値を感じ、そのための「移動」も特別なものになっていく。将来どんなにテクノロジーが発達して、移動を省いて効率を追求するとしても、私たちはあえて移動することを選ぶ。誰かに会いに行ったり、休日にどこかに出かけたりしながら、楽しくて居心地の良い時間を過ごそうとするのだろう。

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