トランプ大統領の方針転換で、イエメンは世界最悪の飢饉に陥るのか

有志連合がイエメンの港を奪還すれば、大規模飢餓という代償を払う可能性がある。

ドナルド・トランプ大統領は、イエメンの本格的な飢饉に拍車をかけるかもしれない。トランプ氏は軍事作戦の失敗を取り繕うため、言葉を巧妙にすりかえ、戦争で荒廃したイエメンへの人道支援を事実上打ち切る意向を示したからだ。

バラク・オバマ前政権は1年以上にわたって、サウジアラビアとアラブ首長国連邦が率いる有志連合に、反政府武装組織「フーシ」が支配するイエメンの西海岸フダイダの主要な港への攻撃や占拠をしないよう要請した。その港を攻撃すれば、フダイダを通ってイエメンに入る人道援助物資の大半が届かなくなると、オバマ政権は警告した。

しかし、イエメンで人道支援にあたるリリーフワーカーはハフポストUS版に「イエメン政府、そしてハディ大統領と同盟関係にある有志連合が、人道支援用の食糧を運ぶ船や商船の航路を変更している」と語った。航路変更それ自体が、救援活動に大きな打撃になる。しかし、それは有志連合による攻撃が差し迫っていることを示している。

国連のジェイミー・マクゴールドリック人道調整官によると、有志連合は代わりに、250マイル(約400キロ)離れたイエメン第2の都市アデンの小さな港に船を向かわせているという。イエメンで人道支援NPOを統括する国連世界食糧計画(WFP)ロジスティックス・オフィサーのクリストフ・モラード氏は「イエメンにいる人道支援団体の職員たちは、フダイダ港に到着する船の数が大幅に減少していると気づいています」と語った。

船の航路変更は、フダイダに対する有志連合軍の空爆と、約100マイル(約160キロ)南方にある別の港町モカを奪還するために有志連合が行った軍事攻撃の時期と重なる。同時に発生した一連の攻撃は、フーシ派からフダイダを奪還しようとして、連合軍がモカを離れフダイダを閉鎖した場合に備え、救援隊員が緊急時対応策を立てるきっかけとなったと、モラード氏は語った。

「彼らはモカを奪還する軍事作戦を立てています。兵糧攻めにしようとしているのです」と、マクゴールドリック氏は有志連合の戦略について語った。

■ オバマ政権の「戦争犯罪」

元アメリカ政府関係者と現役の人道支援活動家によると、フダイダを奪還しようとするハディ大統領寄りの有志連合軍は、長期間にわたり港を閉鎖する可能性が高いという。フダイダを通る物資の流れが短期間停止するだけでも、飢饉の寸前にあるイエメン人にとっては、食糧援助の打ち切りを意味し、致命的となる。

「サウジ主導の有志連合に軍事支援したため、人権擁護団体の批判に直面したオバマ政権は、紅海の諸港、とりわけフダイダを攻撃する連合軍に対して強硬姿勢を取った」と、4人の現元職の政権当局者はハフィントンポストUS版に語った。オバマ氏は特に、サウジアラビアのサルマン国王が2015年にホワイトハウスを訪問した時に、この問題を追及した。

最も望ましい展開、つまり有志連合軍が港を奪還した場合でも、フダイダ周辺は戦闘の最前線になる。そして、フーシ派は繰り返しフダイダを奪還しようとしている。「食糧がこの戦線を通過するのは、他のどの戦線にも劣らず困難だ」と、前線地域で働く元政権高官が、南部の港町アデンを例に挙げて言った。BBCによると、連合軍が2015年にアデンを奪還したとき、人道的援助は4カ月間、アデン港にアクセスできなかった。

フーシ派は、イエメン西部にある主要な居留区を支配しているため、連合軍がフダイダ奪還に成功した場合でも、イエメン全体に人道的援助が行き渡るようになるかは不明だ。「住民の大部分が一方に支配され、政府軍、反政府勢力どちらの側であっても争いは避けられない。そして援助と食糧の主要な流通ルートが一方に支配されている場合、それこそ紛争の原因となる」と、2人目の元政権当局者は述べた。

2016年12月現在、フーシ派が支配するイエメンを示す地図。EUROPEAN COUNCIL ON FOREIGN AFFAIRS

オバマ政権からの圧力にもかかわらず、有志連合が紅海沿岸の諸港から手を引くことはなかった。

「オバマ政権に制御する力があったかどうかは分からない」と、上院外交委員会のクリス・マーフィー上院議員(民主党)は語った。「アメリカは、民間人に爆弾を落とさないように、民間人をダブルタップ(同じ標的を重ねて攻撃すること)しないように警告し続けたが、彼らは爆撃を続けた。トランプ政権が引き継ぐ前、私たちがサウジやアラブ首長国連邦の軍事行動を制御できていたかどうかはわからない」

2015年の空爆により、貨物を船から降ろすために使われていたクレーンが何台か破壊された。2016年、有志連合軍はフダイダとイエメンの首都サヌアを結ぶ主要な橋を爆破した。これらは、アメリカが非攻撃対象リストに入れていた対象建造物だ。オバマ政権下での戦争犯罪は、十分に調査されているとはいい難い。

■ 港の奪還が飢饉を加速させる

サウジ主導の有志連合は、フーシ派と戦闘する上でアメリカの軍事支援と外交上の大義名分を拠り所にしている。そんな有志連合も、アメリカ政府から反対されたら、考慮に入れなくてはならない。「食糧や医薬品の供給が減った時はすぐに対応するので、供給する量は改善している」と、オバマ政権のある当局者は述べた。「ただし、常に監視していれば、の話だ」

国務省は、フダイダ奪還を目論んでいる有志連合に対するアメリカ政府の姿勢が、トランプ政権下で変更されたかどうかについてコメントしていない。ホワイトハウスは、コメント要請に応じなかった。アメリカ政府から有志連合への圧力が軟化すれば、それをきっかけに有志連合はフダイダ奪還作戦を進めるだろうと当局者は指摘した。そしてトランプ政権は、有志連合の動きを止めるために何もしていないようだ。

フダイダ港の奪回を推し進めているアラブ首長国連邦(UAE)のユーセフ・アル=オタイバ大使は、トランプ氏の大統領選で注目を浴びた。2016年6月以来、オタイバ氏は中東政策に関してホワイトハウスの顧問やトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏とのつながりを深めている

レックス・ティラーソン国務長官は2月14日、国連イエメン特別代表とサウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、イギリスとイエメン内戦について会談した。会談に関する国務省の説明では「内戦を終結させるための国連主導のプロセスと、人道的援助の自由な配送の必要性」については言及されているが、これまでの声明に入っていた「イエメン停戦の必要性」には触れられていない。国務省の説明は、フレーズのちょっとした変更でさえも意味のあるメッセージを送ることができるとわかっている専門家チームが一言一句を注意深く分析する。

アメリカ国際開発局「飢餓早期警報システム・ネットワーク」(FEWSNET)は、5段階評価で世界中の食糧不足を調査している。レベル5は、飢饉だ。イエメンの700〜1000万人は、レベル3の危機段階にあると推定される。その人口のうち、少なくとも200万人がレベル4の緊急段階にいる。

フダイダに住むイエメン女性サイーダ・アハマド・バヒリさん(18)。町はすでに食糧不足のために大打撃を受けている。港の閉鎖は、すでに脆弱な状況をさらに悪化させる。STRINGER/AFP/GETTY IMAGES

「この港に重大な混乱が起きたら、イエメンは飢饉に突入します」と、1月までアメリカ国際開発局で海外災害援助の主任を務めていたジェレミー・コニンディク氏は語った。「フダイダが絶たれたら、複数の行政区域が飢饉に陥る可能性がある」と、前出の元当局者も認める。

マクゴールドリック人道調整官は、フダイダが「イエメンの人道支援の80%を供給するライフライン」だと説明した。マクゴールドリック氏によると、他の20%はアデン経由だ。しかし、国全体に供給できるだけの設計がされていないアデン港は、フダイダより小規模で、しかも地理的にイエメンの人口密集地域から距離が離れている。

「アメリカがイエメンの人道危機の引き起こしたと非難されている、そして、イエメン人の反米感情は急速に高まっている。私たちの政策によって人道危機を克服すべきだが、事態が長期化するような対応はすべきではない。人道的観点からも良くないし、国家安全保障の観点からも本当に良くないことだ。イエメンの人道危機を助長するものはすべて、アメリカにとっても本当に良くないことだ」と、マクゴールドリック氏は述べた。

有志連合は、いくつかのチャンネルを介してコメントを求めたが、応じなかった。しかし、有志連合は、港経由でイランから武器を密輸し、援助を妨害したとしてフーシ派を非難し、紅海の諸港周辺での軍事作戦を正当化している

マクゴールドリック氏は、フーシ派が人道支援物資を「大量に横流ししている」疑惑について否定し、港につながる紅海の一部は、「最も警備が充実している水域の1つ」だと述べた。

「私たちがフダイダ経由で物資を持ち込むことができなくなったのは、有志連合軍に阻止されているからです。彼らは輸送ラインを規制し、どの船が入ってくるのかを規制しています」と、マクゴールドリック氏は指摘した。

国務省内には、フーシ派と闘うために、サウジアラビアとアラブ首長国連邦に権限を委ねようとする派閥が常に存在する。トランプ氏は繰り返し、フーシ派に武器供与するイランを非難するが、それによって、より安全な輸送ラインを望む国務省の中でも対フーシ強硬派の存在感が高まっている。

有志連合がフダイダ奪還に成功し、荒廃したインフラが修復され、人道支援物資が優先的に港から積み出されたら、「イエメンにとって非常に前向きな進展といえる」と、元イエメン駐在大使のジェラルド・フェイアーズテイン氏は語った。「しかし、すべて実現するかは疑わしい」と、フェイアーズテイン氏は付け加えた。

アメリカ政府の反イラン強硬派は、フーシ派との戦争をイランとの代理戦争と見ているが、アメリカの情報機関は、フーシ派が戦闘を仕掛けないようにイランが働きかけたという情報を把握している。しかし、いったん紛争が始まると、イランは敵対国サウジアラビアを混乱させるため、フーシ派への武器供与を活発化させる。

前出の元当局者は、オバマ政権下の国務省内には、サウジ主導の有志連合軍がフダイダと他の紅海の港を奪還することに反対しない高官も何人かいたと証言する。別の元当局者によると、そうした高官たちは、港と港の運営から入ってくる収益を失えば、フーシ派が交渉に応じる姿勢に転じるだろうと考えているという。しかし、有志連合がイエメンの港を奪還すれば、大規模飢餓という代償を払う可能性がある。

オバマ政権の他の当局者たちは、そうした見方に懐疑的だった。「有志連合はここ2年、イエメンを徹底的に爆撃しています」と、別の元当局者は言った。「有志連合の攻勢は、フーシ派を交渉の場に引き込むゲーム・チェンジャー(状況を一般させる出来事)のはずだった。彼らの見立てでは、アデン奪還がフーシ派を話し合いの場に引き込むゲーム・チェンジャーになるはずだった。しかし、それでもフーシ派の姿勢が変えることはほとんどなかった」

「これがイエメン内戦を早く終わらせる方法だと考える人たちがいるかもしれない」と、1人目の元当局者は言った。「それはフィクションだ」

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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