三ツ矢雄二さんが語るカミングアウトの真意 「ゲイという言葉を背負った以上、責任を果たしていきたい」

「グレーゾーンと言っていた時から、90%はわかっていたでしょう?もうバレているだろうという気持ちで『ゲイです』と言っただけなんです」

LGBTQへの理解を呼びかけるイベント『東京レインボープライド2017』が4月29日から5月7日までの9日間にわたって開催中だ。

29日に開かれたオープニングレセプションには、1月にゲイであることをテレビ番組出演中にカミングアウトしたことが話題になった声優・三ツ矢雄二さん(62)が駆けつけ、ミニトークに参加した。

三ツ矢さんのカミングアウトは、番組放送翌日にYahoo!ニュースのトップに取り上げられるなど広く報じられた。しかし、これまでゲイであることをオープンにしてきたという三ツ矢さんにとってその反応は過剰に感じられ、予想外だったという。

なぜ予想外だと感じたのか。カミングアウトにまつわる反応をはじめ、芸能界でセクシュアル・マイノリティとして生きることなどを、三ツ矢さんにインタビューした。

90%は、ゲイだとわかっていたでしょう?

——テレビ番組でカミングアウトしたことが大きく報道されたことに対して、驚かれたとミニトークで仰っていました。

僕が自分のセクシュアリティについて「グレーゾーン」と言っていた時から、90%はわかっていたでしょう?別に、いまさらストレートですと言う訳にもいかないし、もうバレているだろうという気持ちで「ゲイです」と言っただけなんですけど。それがあんなに大事になるとは思っていなかったので、びっくりしましたね。

——騒いでいるのはメディアだけで、三ツ矢さんのファンの方や、三ツ矢さんのキャラクターを知っている人はそこまで過剰な反応はしていないという印象でした。

ラジオの番組を持っている時も、そういうキャラで出演していました。全然隠していなかったし、まわりにとっては「何を今さら。また話題づくり?」「転んでもタダではおきないね」みたいな感じでしょう。メディアが騒いでいるだけで、僕のファンやラジオを聴いてくれていた人たち、音楽活動を見てきてくれていた人たちからしたら、ゲイだとわざわざ言わずとも、絶対そうだなと思っていたはずです。ただ、自分が『ゲイ』という言葉を背負ったわけですから、背負った以上の責任は果たしていきたいなという気持ちが湧きました。

——「『自分はゲイだ』と表明したい」という気持ちが潜在的にあったと思いますか?

表明したいというか、普通でいたかったんですよね。ただ、自分がこうして言葉を発することで、受け手側はある意味すっきりしたかもしれません。僕の中では何も変わらないですよ。ただ僕の話を聞く側、受け手側の方からすると、「ああやっぱりそうだったんだ」と腑に落ちた部分もあったんじゃないかなと思います。

“オネエではないLGBT”には閉鎖的な日本の芸能界

——芸能人として自身のセクシュアリティをオープンに話すことを、どう思っていますか?

僕は自分のセクシュアリティを隠していなかったので、まわりの声優仲間や、仕事をくれるプロデューサーやディレクターの方々も、全員僕のことをゲイだとわかった上で使ってくれていたと思います。ゲイであることを隠していなかったおかげで変わった役もたくさんいただいて、それはそれでよかったなと自分では思っています。

ただ、これは僕の一方的な持論なんですが、例えば俳優さんがカミングアウトをする場合は少し状況が違うんじゃないかなと思います。声優という職業は声だけを使うので、実物が出ないですよね。ただ、俳優さんの場合は、例えばテレビやドラマでラブシーンがあった時に、見ている側が「あの人って本当はゲイなんだよね」という先入観を持ってしまうかもしれない。そのせいで少し引いて見てしまったりとか。俳優さんの場合は、そういったマイナス面があるかもしれない。

そういった意味では、声の仕事でよかったなと思っています。そして、だからこそ俳優さんがカミングアウトをするのは個人の自由だと思っていますし、(カミングアウトするしないについて)批判してはいけないなと思います。

——2016年12月に俳優の成宮寛貴さんが芸能界引退を発表した際、成宮さん個人のセクシュアリティがメディアによってスキャンダル的に取り上げられ、「アウティング」という非難の声も挙がりました。日本社会がLGBTQに対して閉鎖的で、理解が広がっていないと感じられることはありますか?

こんなにテレビ業界でオネエ系タレントが活躍している国は、日本以外にないと思います。『オネエ系』に関しては緩いのに、そうではない、オネエではないLGBTについては閉鎖的ですよね。日本の芸能界にも、実はたくさんいると思うんですよ。だけどみなさん隠して仕事をしていらっしゃる。スタッフの中にも、普段の振る舞いで「この人LGBTの人なんだな」と思う方もいます。

カミングアウトをするまでは、本当に普段通りに振る舞っていました。それが、テレビでゲイと発言したことがあれだけ取り沙汰されて、いろいろと言われて、やっぱり日本の社会はそういう言葉に対して敏感すぎるほど敏感だなということは感じましたね。それはちょっと悲しいことだなと思いました。

LGBT当事者に、救いの手はたくさん差し伸べられている

——LGBTへの理解を広げていくためにはどうしたらいいでしょうか。

LGBTの人たちもごくごく普通の人たちなんだよ、とわかってもらうことが第一だと思います。

「同性愛」という言葉はもはや死語になりつつありますが、今のLGBT事情を考えると、「同性愛」という言葉じゃ括れないくらいの多様性がある。その多様性をわかってもらうためには、それぞれの人が、それぞれのセクシュアリティを背負って、普通に生きていこうと思って生きていってほしいと思います。そうしていくうちにまわりが変わっていく。じわじわと浸透していき、広がっていくんじゃないかなと思います。

——先ほど、「ゲイという言葉を背負った以上、責任を果たしたい」と仰っていました。今後LGBTに関する啓蒙活動もしていきたいと考えていらっしゃいますか?

そうですね。あとは60歳を超えて、自分は老後に何ができるかということを考えたんですけど、ニューヨークのブロードウェイにはLGBTを題材にした素晴らしい舞台がたくさんあるんです。そういったものをプロデュースして、日本の演劇界に一石を投じるといったことにもチャレンジしていきたいと思っています。

——最後に、いま生きづらさを感じていたり、自身のセクシュアリティについてオープンにできず悩んでいる人たちに伝えたいことは。

僕はすごく恵まれていて、自分がゲイであることをずっとオープンにして生きてきました。そういった意味では、生きづらさや自分の境遇について負い目を感じている人の気持ちが主体的にわからないという部分があります。

でも、いま悩んでいるということは、どこかで解決しなくてはいけない。そして、悩みの中には必ずどこかに突破口があると思っています。カミングアウトする方が楽になると思うなら、カミングアウトをした方がいい。カミングアウトなんて到底できないと思うなら、どうやってカミングアウトをせず自分のセクシュアリティと付き合っていくべきか考えなくてはいけない。全員が全員カミングアウトできる環境ではないと思うので、自分のセクシュアリティと向き合って、自分の人生を自分らしく全うしていくことが大事だと思います。

僕の友人に、カミングアウトについて悩んでいて、新宿二丁目に行ったら世界が開けたという人がいました。こんなに同じ境遇の人がいるということを知ったら、すごく気持ちが楽になったと。救いの手はたくさん差し伸べられていると思います。どの手にすがりつくかということを、自分の環境と状況に合わせて選び、そして自分はこうやって生きていくんだというスタンスを決める。そうすれば、自分なりの生き方が見出せて、負けることはないと思います。自分を否定しないで肯定することから始めてほしいと思います。

■三ツ矢雄二さんプロフィール

1954年生まれ、愛知県出身。中学時代に子役としてデビューし、大学時代に声優活動を開始する。現在は俳優養成所「ミツヤプロジェクト」、劇団「アルターエゴ」を運営。声優、俳優、音響監督、脚本家、作詞家等として多彩な活動を展開。