トランプ大統領が新たな対中貿易協定、自身が救うと約束した石炭業界にとっては痛手に

中国に天然ガスを輸出するという協定は、中国の立場をさらに強めることに他ならない。

アメリカ政府は5月11日、米中両政府の貿易不均衡是正に向けた「100日計画」の具体案で合意したと発表した。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アメリカ産の牛肉や液化天然ガス(LNG)の輸出を促進し、中国は電子決済などの金融サービスでアメリカ企業を参入させる。

トランプ政権は、環境規制を撤廃し、再生可能エネルギーを減らし、中国への燃料輸出を増やすことで、苦戦する石炭業界を再び活性化させることを誓っていた。石炭産業の株価は2012年に暴落した。

しかしホワイトハウスは中国との新たな貿易協定で天然ガス産業を強化することを選択した。アナリストたちはこの協定によって天然ガスが優位に立てば、かつてアメリカの電力市場を支配した石炭は徐々に消えていくとみている。

この協定で、中国企業はアメリカ国内の業者から直接液化天然ガスを購入できるようになり、2017年初頭から熱を帯びはじめていた輸出産業には追い風となる。電力や新たな工場のために無謀なペースで長年石炭を燃やし続けてきた中国の都市部の大気汚染は深刻なものとなっている。中国が二酸化炭素排出量の削減に積極的に動いている現在、よりクリーンな天然ガスは魅力的な代替燃料となっている。

これは石炭産業にとっては悪いニュースだ。アメリカ国内ではこの10年で石炭の使用量が大幅に減少した。シェールガス革命によって天然ガスの価格が下がり、石炭に取って代わって電力産業の主要な燃料供給源となった。バラク・オバマ前大統領による環境規制の強化によって太陽光や風力といった二酸化炭素排出ゼロの電力が優遇され、圧倒的に汚染の激しい化石燃料である石炭には向かい風だったにも関わらず、2012年までは中国の需要が石炭産業を支えていた。

石炭が衰退している理由は?

天然ガスの方が割安

需要の低下

再生可能なエネルギー

環境規制

その他

しかし2012年に中国への輸出は停滞し、アメリカの石炭産業は事実上崩壊した。3年でほとんどの大手石炭採掘会社が破産を申請した。コロンビア大学世界エネルギー政策センターの最新の報告によると、石炭が下落した主な理由は天然ガスと再生エネルギーによって需要が低下したことが原因だった。環境規制が原因の下落はわずか5パーセントほどだった。

中国の需要はすぐには戻りそうにない。中国政府は1月、石炭火力発電所103カ所の建設を中止した。また中国は、2015年のパリ協定で定められた二酸化炭素排出削減目標を放棄するというアメリカの計画につけ込み、新たな超大国として気候変動問題で主導権を握ろうとしている。

中国に天然ガスを輸出するという協定は、中国の立場をさらに強めることに他ならない。

「中国は石炭火力発電の拡大に待ったをかけています」と、S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスでエネルギー研究部門のディレクターを務めるスティーブ・パイパー氏は12日、ハフポストUS版の取材でそう答えた。「天然資源を輸入するのはその計画の一環です」

アメリカ年間輸出入数(2000-2016)

エネルギー情報局(EIA)によるこのチャートを見ると、中国の需要がピークに達した後、いかにアメリカの石炭輸出が落ち込んだかが分かる。

念のために指摘しておくと、中国はいまだに多くの石炭を燃やしている。同国の2013年の石炭消費量は42億トンで、当局の統計の疑わしさを考えると実際はこの数字以上という可能性もある。トランプ政権が3月に連邦政府所有地の石炭鉱区リースの一時停止を解除した時には、ライアン・ジンキ内務長官はアメリカの高品質な石炭が中国のバイヤーを魅了するだろうと述べた。今後数年は見通しが暗いが、アメリカの石炭業界は長期的には中国への輸出が再び増えると期待を寄せている。

「私たちはもちろん国際貿易に関する政権の方針を支持しています。製品の需要が国際的に高まれば、徐々に輸出は増えると期待しています」と業界団体「アメリカ石炭協会」のベッツィ・モンスー会長は12日、ハフポストUS版の取材でそう答えた。

しかし、たとえ中国が外国の石炭の需要を増やしたとしても、アメリカから大量に輸入する可能性は低いと、パイパー氏は指摘する。

「アジアの市場は、オーストラリアやインドネシアがさらに激しい供給競争を繰り広げています」とパイパー氏は語った。また、中国への天然ガス輸出の新協定は「アメリカを需給調整役、限界供給者としての役割に留めることになるでしょう」との見通しを示した。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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