「法律で認められてどう変わった?」フランスで初めて同性婚した男性に聞いた

現実は、思ったより厳しい。だけど「一歩一歩」が大事。

日本では、まだ認められていない同性カップルの結婚。いち早く法制化した国の当事者はどう見るのか。フランスで、2013年に国内初の同性婚をしたヴァンサン・ボワロ=オタン氏に話を聞いた。

ヴァンサン・ボワロ=オタン氏

■ 同性カップルの「結婚」日本での状況は?

日本でも、同性カップルの結婚をめぐる議論が広がりつつある。

同性カップルに結婚に相当する関係を認めるいわゆる「パートナーシップ制度」は2015年に東京都の渋谷区と世田谷区でスタートし、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市に広がった。6月1日からは、北海道札幌市も導入する。

フランスでは1999年に「PACS(パックス)」という、同性同士でも異性同士でも結べるいわゆる「パートナー契約」を取り入れ、その後2013年に同性婚を法制化した。

そのフランスで、2013年に同性のパートナーと結婚したヴァンサン・ボワロ=オタン氏や、同性親の権利をフランスで初めて弁護した弁護士カロリーヌ・メカリ氏を招いた討論会が、5月14日(日)に明治大学で開かれた。

(右から)鈴木賢・明治大学教授、タレント牧村朝子氏、カロリーヌ・メカリ弁護士、ヴァンサン・ボワロ=オタン氏、保坂展人・世田谷区長、山下敏雅弁護士

同性カップルの結婚が法制化されてから4年。フランスで同性婚をめぐる状況はどう変わったのだろう。

■ 同性婚が法制化されるまでの道のり

ボワロ=オタン氏は2013年5月29日、フランス南部の街モンペリエで結婚した。「みんなのための結婚」と呼ばれる同性同士の結婚を認める法律が成立した約10日後で、この制度を使う最初のカップルとなった。

みんなのための結婚に先立って導入されていたPACSは、同性同士でも異性同士でも税制や家族手当の面で、結婚とほぼ同じ扱いを受けられる制度だ。そのため、結婚が認められていなかった同性カップルにとって、結婚に変わる制度になると考えられていた。

しかしボワロ=オタン氏は、PACSは十分な制度ではなかったと話す。異性カップルは、PACSを結んだ後に結婚できるが、同性カップルにその選択肢はない。その点で、異性カップルと平等ではない。実際、PACSの利用者はほとんどが異性カップルだ。

そのため、異性カップルと同じ権利を求めていた同性カップルにとって、みんなのための結婚の成立は大きな意味を持った。

ボワロ=オタン氏は、みんなのための結婚が成立した背景には、同性愛者と異性愛者が団結したことが大きかった、と話す。フランス人にとって重要な精神である「平等」を守るために団結し、実現にこぎつけた。

また、みんなのための結婚を公約に掲げて大統領に当選したフランソワ・オランド氏が、公約通りに法制化に尽力したことも大きかったという。

■同性婚が法制化されても、全てが解決するわけではない

しかし当時、法律は成立したものの保守派やカトリック教会を中心に、みんなのための結婚に反対する人も多く、フランス各地でデモが起きた。結婚式の3日前にパリであった反対デモには約15万人が参加し、一部は暴徒化した。

パリの同性婚反対デモ(Getty Images)

ボワロ=オタン氏の結婚式も、参列者がセキュリティチェックを受けるなど、厳重な警戒の下で開かれた。

2013年5月29日に、モンペリエで結婚式を挙げた(Getty Images)

そういった厳しい状況の中法制化された同性婚。成立から4年経って、フランスの同性カップルをめぐる環境は良くなったのだろうか?

ボワロ=オタン氏に聞くと、むしろフランスでは同性愛に対する憎悪が増えているという。

同氏によると、2016年にフランスで起きた同性愛者に対する暴力などハラスメントの件数は、2015年に比べて19.5%増加した。同性愛フレンドリーな街だったモンペリエでも、29.45%増加したという。

ボワロ=オタン氏自身も、結婚して以来SNSや手紙などで10件以上の脅迫を受けた。中には、死体の写真を送りつけてくる人もいた。

なぜ、同性愛者へのハラスメントが増えたのか。ボワロ=オタン氏と共に討論会に参加した弁護士のメカリ氏は原因の1つとして、同性婚が法制化されLGBT当事者たちが声をあげられるようになり、今まで隠れていた被害が明らかになったことを挙げた。

ボワロ=オタン氏も、LGBTに反対する人たちが堂々と声を挙げられるようになり反対者たちも公然と反対するようになったこと、そしてSNSが発達して反対しやすくなったことで、ハラスメントが増えたのではと考えている。

同性婚が認められたことで同性愛ハラスメントが増えたという皮肉な結果だが、それでも同性愛が合法化されてよかったのだろうか。ボワロ=オタン氏に尋ねると次のような返事が返ってきた。

「もちろんです、同性婚の法制化は、LGBTの当事者たちに(本来与えられるべき)権利を取り戻してくれました。今、私たちには平等な権利があります。同性愛に対するハラスメントは法律違反になりますが、以前はそうではありませんでした。国が、自分の側に立っているのです」

■ 道のりは決して短くない。「一歩一歩」が大事

ボワロ=オタン氏は、セクシュアル・マイノリティの人たちが同じ権利を享受できるまでの道のりは長いと考えている。討論会に参加したLGBT支援に取り組む永野・山下法律事務所の山下敏雅弁護士も「同性婚の道は一歩一歩積み重なって平等が実現する」と述べている。

ボワロ=オタン氏は、同性婚が認められる10年以上前から同性愛者の権利を守るための活動をし、フランスのプライドグループの会長も務める。

現在も、「アソシエーション」と呼ばれる市民団体に携わり、セクシュアル・マイノリティの人たちが生きやすい社会になるための活動をしている。また多様化をすすめる政策が必要と考え、6月のフランス国会議員選挙にも立候補している。

メカリ氏は「同性婚を法制化するためには、政治的な意志が必要。団体や弁護士など、社会全体が一緒になって動かなければいけません。権利とは勝ち取るものであり与えられるものではないので、少数派は積極的に権利を取りにいかなければならないのです」と討論会で指摘した。

同性婚を法制化したことの意義を、ボワロ=オタン氏はこう語っている。

「将来の子供に権利が与えられたことが大きい。同性婚に反対している人たちの家族に生まれてくる子供たちの中にも、同性愛の子供たちがいるでしょう、そういった子供たちを含め、未来の世代のためになる。歴史の良い側に立てて良かった」

LGBT当事者とその他の人々が団結して実現したフランスの同性婚。未来の世代がより生きやすい社会をつくるためには、性別の垣根を超えた団結が欠かせない。それは日本でも同じだろう。

ボワロ=オタン氏は「未来を予測する方法は、未来をつくりあげることです」と述べている。

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