三浦弘行九段と将棋連盟が「将棋ソフト不正疑惑」で和解 慰謝料は非公表(会見詳報)

日本将棋連盟の佐藤康光会長は「今回の和解をもって、一連の騒動に関し、終結といたします」と述べたが…。
Kei Yoshikawa

対局中に将棋ソフトを不正使用した疑いがあるとされ、のちに「不正の証拠はない」と認められた三浦弘行九段(44)が5月24日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で記者会見し、疑惑をめぐる一連の騒動について日本将棋連盟と和解合意したと発表した。

会見には、将棋連盟の佐藤康光会長と三浦九段の代理人・横張清威弁護士が同席した。冒頭、佐藤康光会長が挨拶した上で、「5月23日に三浦九段と和解合意した」と発表。「今回の和解をもって、一連の騒動に関し、終結といたします」と述べた。

佐藤会長によると、主な合意内容は以下の通り。

  • 「三浦九段が不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はない」「日本将棋連盟による処分対応は許容される範囲内の措置であり、やむを得ないもの」とする第三者調査委員会の報告書内容を相互が受け入れる。
  • 連盟側が三浦九段に慰謝料を支払う。ただし、金額は非公表。
  • 合意の成立を持ってこれをもって円満解決とし、今後は相手方の名誉の毀損等をしない。三浦九段は今後、民事・刑事を問わず連盟側に何らの請求をしない。

■争点だった「休場届の強要」は…

これまで三浦九段は、2016年10月に下された出場停止処分をめぐり「(連盟側から)竜王戦七番勝負を辞退し、休場届を提出するよう要求された」「竜王戦は開催されなくなったという説明があった」と主張。

これに対し連盟側は「三浦九段から『こういう状態では竜王戦は指せない。事態が収束してから集中して指したい』と申し出があった」「休場については三浦九段から複数回発言があり、それに伴って休場届の提出を求めた」と、真っ向から見解が食い違っていたが、今回の合意では「連盟側が三浦九段に対し休場を強要していなかったという事実を相互に確認する」と、連盟側の主張に沿った形となった。

佐藤会長が読み上げた合意内容によると、「連盟側が『竜王戦が開催されなくなった』と説明したという客観的な事実はなかった」という。一方で、三浦九段に対する聞き取り調査の際に「このままでは問題だ」という話が連盟側から出たため、三浦九段がこれを「竜王戦不開催と認識した」としている。

合意内容を報告した上で、佐藤会長は以下のようにコメントした。

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三浦九段の疑惑は晴れております。これからもよりその周知に努めたいと思います。

今後二度とこのような疑義が生じないよう、3月に対局規定委員会を発足し、対局規定、環境作りを現在整備しております。

また、プロ棋士としての対局者の意識徹底に努めます。

将棋に関わる多くの皆様、三浦九段とご家族の皆様には長きにわたりご心配、ご迷惑をお掛けいたしました。深くお詫び申し上げます。

今後とも将棋界をよろしくお願い致します。

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■三浦九段「渡辺竜王が将棋会館に来て謝罪してくれた」

三浦九段は会見の中で、「先ほど、渡辺竜王が将棋会館に来られて謝罪してくれた。渡辺竜王も私も他の棋士も、将棋界の発展が一番だと思っている。若手でも藤井聡太さんが活躍されている。将棋界が盛り上がっているところ。これから、将棋連盟が発展するように尽力していきたいと思っている」と、和解合意を受け入れた心境を語った。

質疑応答では、報道陣から「連盟が問題を公表する前に週刊誌に掲載されたことが(ファンの)疑心暗鬼を生んだ」と、連盟側の情報公開の姿勢を問題視する質問もあったが、佐藤会長は「連盟内でも議論している。しっかりとした意思統一をしていきたい」と述べるにとどまった。

報道陣との主な質疑応答は以下の通り。

――和解合意した気持ちは。

佐藤会長:私が関わらせていただいたのは2月6日に連盟会長に就任してから交渉を進めていた。約3カ月半、非常に機関としても自分の中でも長くかかったと思う。互いに真摯に議論をして、その結果本日を迎えられたことは良かったと思う。

三浦九段:この問題が長引いて、せっかく将棋界が盛り上がっているのに水を差す形になってしまってはいけない。棋士なら誰しも思っていること。これからは将棋界の発展に、棋士の一人として頑張っていきたいと思う。

――慰謝料の他に、金銭以外での支援策は。

佐藤会長:三浦九段の疑惑が晴れていることを、より周知徹底していく。連盟のホームページ等でもそういう記載はあったが、より強化していく。三浦九段が万全の対局環境に打ち込めるように、より配慮していく。一番は、三浦九段の疑惑が晴れていることを、より強く言っていくことだと思う。

――合意について、連盟の全棋士・全女流棋士には伝えたのか。

佐藤会長:合意自体は昨日なので、まだお伝えしていない。今日、初めて映像等で知った方もいると思う。これから会員には通知する。毎月、月例報告会というのがあり、いろいろなご意見をいただいてきた。そういう意見等も伺いながら、将棋連盟と三浦さんの和解に向けて、常務会として我々と三浦さんの間で進めてきた。これからお伝えする。

――三浦九段から、渡辺竜王が本日謝罪に来られた。突然来たのか、事前に連絡があったのか。

三浦九段:正直、渡辺竜王が来られたのは急だったので驚きだった。3階の応接室で、竜王が「謝罪をしたい」という旨を言われた。「今回お互い傷を負った」という話を私からした。将棋界を盛り上げていこうという気持ちは同じなので、暗黙の了解で伝わったのかなと。

――渡辺竜王の謝罪の言葉は。

三浦九段:「すみませんでした」と2回か3回、そういった言葉を繰り返し言っていただいた。

――三浦九段に聞きたい。「連盟側が三浦九段の休場を強要した事実はなかった」「連盟側が『竜王戦が開催されなくなった』と説明した事実はなかった」という点について。いままでのお話しとは違う。

佐藤会長:相互の確認事項として、その2つのことを確認したということ。

三浦九段:詳細は差し控えさせていただきたい。すみません。

――慰謝料がどのように算出したのか。

佐藤会長:第三者調査委員会が、「連盟の対応が許容される範囲内の措置で、止むを得ないものだった」としたが、真摯に受け止め、総合的に話し合いをしながら判断した。対局料という観点はなかったかなと、私は思う。

――安心して対局に臨むため、連盟に求めることは。

三浦九段:せっかくの和解会見なので、これを機に金属探知機の検査を(やめないか)という話をいただいた。私だけやっていただければと思ったが、せっかくの和解会見が「まだ疑惑をもっているのか」という話になっても困る。

これは個人的なわがままですが、正直言って最初の方は多少は意地になっているところがあった。ただ、心の整理がつくまで、ちょっとだけ続けてもらいたい。時期を見て…。あんまり私だけやるのも、見ている人が違和感をもったりすると良くないかなというのは私も思っている。時期を見てやめてもらおうかなと。ただ、もう少しだけお付き合いいただければ。自分だけ受けるとmその分だけ連盟職員に手間を取らせてしまうなど、それはそれで申し訳ないが、納得したらやめてらおうかなと。もう少しだけ金属探知機を。これは私の弱さなんで申し訳ない。必ずもう少ししたら、終わりにしようかなと思う。少しだけお付き合いください。

佐藤会長:将棋連盟としては、タイトル戦では一部そういうところを取り入れている。普段の対局でもそういうものを(全棋士に)取り入れるか検討している。現状は三浦九段と、その対戦相手だけが続けている。他の対局者と同じ環境でとも思っている。より対局者が安心して対局できる環境を議論している。より環境を整えたい。

三浦九段:私は対戦相手には求めていないので。安心感のためやっているだけ。相手に求めていることではありません

佐藤会長:相手の方が平等な条件で戦いたいと希望する棋士が全員でしたのでそういうケースになっている。

―― 将棋ソフト不正疑惑に関して、連盟が公表する前に「週刊文春」をつかったことが(ファンの)疑心暗鬼を生んだ。意図せぬ緊急事態に対するフローは。

佐藤会長:連盟内でも議論している最中。会員自体が、現在でも情報を流すということが話題になってしまうこともあるが、しっかりとした意思統一を努めてまいりたい。その規定も整備していく方向でいる。

――渡辺竜王が会見することは。以前ブログで「会見をしたい」と言っていたが。

佐藤会長:ちょっと把握していない。

――会見時間が30分だと事前アナウンスがあった。誰の意向か。

佐藤:とくにないが、連盟のほうで決めた。

――白だったものが黒と言われたことによる経済的損失は。

三浦九段:和解金については詳細を差し控えさせていただきたい

――対局したい人。3人。

三浦九段:やはり藤井聡太(四段)くん。あとの2人は、じゃあ渡辺竜王。あと一人ですか…橋本崇載(八段)くんで。別に他意はないですけれど(笑)。すみません、佐藤会長が横にいるので、佐藤会長。その3人とやりたいです。

――第三者委員会にかなりの額、三浦九段の補償金、原資は。将棋連盟の予算からか、告発した棋士か。

佐藤会長:現状は将棋連盟の原資で、と考えている。高額になるので、それをどうしていくかは、これから議論がされていくと思う。

会見終了後は、佐藤会長と三浦九段が握手をする「フォトセッション」が設けられ、両者の和解ムードを演出する一幕があった。

握手する三浦九段と佐藤会長

■将棋界を揺さぶった「不正ソフト疑惑」とは

三浦九段をめぐっては、2016年7月に対局した久保利明九段(現・王将)が「三浦九段が自分の手番で約30分離席をしていた」と違和感を表明。渡辺明竜王も10月20日発売の『週刊文春』の取材に応じ、三浦九段が将棋ソフトを用いて不正な対局をしていた可能性を指摘した。

こうした経緯から、三浦九段は過去4つの対局で不正疑惑がもたれ、連盟側は10月12日に同年内の公式戦の出場停止措置を決定。出場が決まっていた第29局竜王戦七番勝負も出場できなかった。

疑惑を調査した第三者調査委員会は12月26日、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と結論づけた。日本将棋連盟の谷川浩司会長(当時)は、「(対戦相手の)発言の真偽の確認を怠った」と判断の誤りを認め、出場停止処分に伴って不利益が生じた三浦九段への救済策として「三浦九段のA級の座を保証する」特別措置をとった。

谷川会長は1月18日、対応で混乱を招いた責任を取って会長職を辞任すると表明。2月6日には佐藤康光九段が新会長に就任し、三浦九段との補償交渉などにあたっていた。

【UPDATE】(2017年5月25日 1:48) 記事内容を更新しました。

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