コミュニティとしての会社をつくる。マザーハウス副社長・山崎大祐がみている"働きかた"の未来

いま起こっていることの本質は、働きかたというより、働く目的に多様性が増しているんだと思うんです。

終身雇用が崩れ、働きかたも多様化するこの時代に、「会社」の存在意義はどこにあるのか? そんな問いに、マザーハウスの山崎大祐副社長はこう答えた。

「生産性とコミュニティです」。

会社と生産性の関係について語ってもらった前編に続き、本記事では「コミュニティとしての会社」について掘り下げる。山崎氏が考えるコミュニティとは、そしてその意義とは――。

■コミュニティとしての会社が重要な2つの理由

――出産や子育てなど、フルタイムで働けない人たちを守るのも、会社の役割だというお話がありました。制約条件があるけれども優秀な人たちを、彼ら彼女らの自己責任で仕事を探せと突き放すのではなく、会社という仕組みで受け容れようとする山崎さんのモチベーションの源泉はどこにあるんですか。

山崎:2つあります。会社はコミュニティであるという意識が僕にあるから。そして、スタッフが会社の理念を共有しているからです。

フリーとして働いていると、個々の仕事が独立して完結することが多いので、積み上がっていく感覚を持ちにくいと思うのです。もちろん心持ち次第だし、人によっては自らの成長を実感できる人もいるとは思うんですが。会社に属している人は、自分の会社が大きくなり、コミュニティが大きくなっていくと、自分も成長していく感覚を持ちやすい。

フリーで仕事をしていた人が、マザーハウスに入社してくることもあります。彼らには「ミッションや理念を共有できる仲間と長期的に仕事がしたい」という思いがある。会社で働くことを通じて生まれる仲間意識や、ミッションが少しずつ進んでいる実感を持ちたいと望んでいるようです。

僕のやらなきゃいけないことは、ミッションや理念に共感する仲間たちのためのコミュニティを作ることにあるのかなと思っています。

――コミュニティを作るのは「会社」じゃないとできないんですか? プロジェクト単位で働くことなどでは難しいんでしょうか。

山崎:僕ら人間は、多層的なコミュニティの中で生きています。一番小さいコミュニティ単位は家族で、地域や国、地球もいわばコミュニティだと思う。その中で重要なレイヤーの1つが、企業だと考えているんです。

それは2つの視点から重要だと思っています。

1つ目は、会社というコミュニティのボーダーレス性です。1番ボーダーレスなコミュニティは企業なんです。

マザーハウスは7カ国で運営しています。7つの国の人が、マザーハウスという傘の下で一緒に働いていて、仲間意識を持っているんですね。これって結構すごいことです。

たとえばバングラデシュの社員に子供が生まれたとします。その時、この社員にお金がなかったら、僕らが無利子でお金を貸し付ける仕組みがありますが、そこには日本で売り上げたお金が回っている可能性もある。国境を超えてセーフティネットを提供しあっているんです。

ある意味で、国と同じです。人生の節目ごとにいろいろなことが起きた時、助け合いを会社の中でやっていきましょう、と。今までは国が担っていたものを、僕は企業が担えると思っている。

あと、もう1個ベタな話として、人間は一緒にいたら仲良くなると思うんですよ(笑)。

――同じ釜の飯を食うとか。

山崎:そうです。仲間と毎日顔を合わせていると、自然と仲良くなるじゃないですか。仲良くなったら、情も湧きますよね。それって悪いことではぜんぜんなくて、先史、文明以前からあったものだと思うんですよ。人間が共同体を組み、同じ場所にいて木の実を分け合うみたいな。

人には1人で生きていく不安、1人で食い扶持を稼ぐことへの不安が絶対ある。会社がすぐに解体されたりはしないだろうなと思うのは、みんなが一緒にいることの意味があるからだと思います。

■大切なのは「産休・育休に入る前」

――育休・産休という話がありましたが、働く意欲があっても、ライフコースの問題で会社の求める要求にそぐわない場合もあると思います。その場合はどうしていますか?

山崎:働きかたの話は、基本的には損益分岐点の話で説明できると思います。

産休・育休を経て戻ってきて時短勤務しますという人については、時短だとしても価値が出せるかどうかという話になる。言い方はあまりよくないですが、払うべき賃金に対して、どれぐらいの生産性を作れますかという視点は重要です。極端な話、みんなが産休・育休に入っても利益が上がる会社を作れればいいんです。

そのためにどうすればいいかは僕の中には明確にあります。「産休・育休に入ったあとの人たちがどう働けるか」がよく議論されますが、ポイントはそこではなく、産休・育休に入る前までにどこまでスキルアップできてますか、という話なんです。この視点を言う人はすごく少ない。

マザーハウスでは、20代後半で店長になってマネジメントをする人が多いです。そこでは責任とプレッシャーを感じながら働く環境がある。その人たちが年齢を重ねて産休・育休に入るとします。

彼女たちは帰ってきても活躍できることが多い。それは、彼らはマネジメントした経験もあるし、数字を扱った経験もあるからです。生産性に対する意識もある。ビジネスパーソンとして、ある程度のレベルまでいっているんです。

僕は、うちの店長のような人たちが産休・育休に入ることに対してあまり心配していないです。求められる要求に達するアウトプットを時短でも超えられるのがわかっているので。結果を出せるぐらいの能力を持って帰ってくることがわかっているからです。

日本の会社の一番大きな問題は、女性が産休・育休に入るタイミングの前までにマネージャーになるのが難しいことにあると思います。多くの企業は、20〜30代の、特に女性に、あまり大事な仕事を任せていません。だからマネジメント経験もないわけです。現場の人間として責任を持ち始めて仕事が見えてきたころに多くが産休・育休に入っていくイメージです。

でも、実は重要なのは、マネジメント能力を持つことなんです。なぜなら、タイムマネジメントやセルフマネジメントが一番重要なのは、産休・育休に入ったあとなので。

そこに大きなギャップがあるから、難しいのではないでしょうか。小さい会社でプレッシャーをかけられるほうが能力が伸びて、人生の選択肢が増える可能性は高いと思います。

個人として働きかたの多様性をつくれるかどうかは、能力です。その能力に責任を持つのは会社の役割なんですね。

――会社の役割、ですか。

山崎:人生は、年を重ねれば重ねるほど、選択肢が狭まっていくんです。年を重ねるとやるべきことも増えるし守るべきものも増えるので、自己成長への投資がどんどん減っていくんですね。

だからこそ逆に、20代ぐらいの若者にどんどん責任を与え、自己成長させて、人生の分岐点がきたときにちゃんと活躍できる環境をつくってあげるのは会社の役割です。

ただ、それをできている会社って、うちも含めてぜんぜん多くないと思います。ほとんどない。個人的にももっと考えなければならないと、うちの会社に対しても思います。

■日本から人を育てる企業が減っている

これは経営者として言っていいと思いますが、会社を守る観点からすると、社員に重要なのは能力です。成果を出す力ですよ。でも、産休・育休に入った人がアウトプット量から減るからダメだということでは全くなくて、業務をしっかりこなし、価値観も持って、多様性もつくりながら、成果も出せるようにできるはずです。それがコミュニティの力だと思うんです。

これから先、絶対に多様なライフコースを歩む人を活用していかなければならないんですよ、社会として。

今の日本は、人を育てる組織が減ってきている。人を育てるのには時間がかかるのに、金融市場からのプレッシャーも大きいので、企業は早く結果を出さなければならない。そこでどうするかというと、安易にM&A(企業買収)をかけているように見えます。

有望な社員がいる会社を買収して、人材を買い取る。結果、人をお金に変える会社は増えているけど、お金をつくれる人を育てる会社がめちゃめちゃ減っているんだと思うんです。

会社が短期的な目標に追われて、どんどん人を育てる組織じゃなくなっていく。その結果、日本において人材が持つ能力の平均値はどんどん減っていると思いますよ。いますでに起こっている。

僕らは人を育てる組織になりたいなと思いますし、育てた社員が結果的に辞めてしまったとしても、人材輩出企業になれればいいと思っています。

日本の現状は、本当にまずいと思いますよ。

■「なんのために働くか」は、会社ごとに1つあるほうがいい

――コミュニティに所属するコストについてはどうお考えでしょうか。なぜこの国では労働者がコミュニティに期待することが少ないのか、という問いに対する仮説として、コミュニティへの参加コストが高いことがあると思いますが、どういう意見をお持ちですか。

山崎:採用は重要だと思います。僕は、この会社で働く意味を持っている人にしか、来てもらいたくないと思っています。

お金とか自分の成長のためだけに働いている場合は、コミュニティに属するのは面倒くさいじゃないですか。「なんでわざわざ飲みに行かなきゃいけないの」「仕事ができればお金がもらえる。別にそれでいいじゃん」みたいな話になりがちだと思います。

一方、構成員がお互いの価値観を認めあっている組織だったら、飲みに行っても楽しいし、人生に資する気づきもきっかけもあるんだと思うんですよね。だから、最後はやっぱりその会社で働く意義を持てているかだと思います。

いま起こっていることの本質は、働きかたというより、働く目的に多様性が増しているんだと思うんです。

昔は、生活を守るためにも「お金のために働きたい」という人が多かったのに対し、現代は「やりがいとは何か」とか「何のために働かなければいけないのか」ということを絶えず考えなければいけない時代になっています。会社に入る前からそうなっている。

そうすると、お金で人を取り合っても意味がなくなる。かつ、これからは人が足りなくなっていくから、人の取り合いになると賃金が高騰していくだけで、企業としてもゴールがない。

おまけに人間の心理上、年収1000万ぐらいを超えると幸福度が急激に下がっていくので、社員の幸せという観点からしても、そこで勝負することにあまり意味がない。価値観によってそれぞれが自分の働きかたをデザインしていかなければならない時代に、急激に変わっているんです。

そうなると、採用がほぼ全てなんですよね。何を目的に働くかに対する価値観は、人間そんなに変わらないので。

マザーハウスでいえば、「途上国」というキーワードや、「可能性がある人に、生まれた場所の違いだけでチャンスが与えられないのはおかしい」というような価値観を会社全体で共有しています。その価値観に合う人を採ることが、めちゃくちゃ重要です。

ところが、企業は価値観をみる面接をしているでしょうか。スキルをみる面接がほとんどだと思います。スキルをみる面接は、具体的業務とのマッチングを計る意味はあるかもしれませんが、コミュニティをつくる観点からすると、あまり意味がないんです。

採用は、変わっていく必要があります。これからの企業には、単に大きい会社を目指すのではなく、100人の同じ価値観を持つ人間が集まっている状態を目指す必要があると思います。別の会社には、別の価値観を持つ100人がいる、といったように。

――働く価値観は、多様でなくてもいいんですか?

働く目的の大上位にある「なんのために」は1つのほうがよいです。それに付随する、人間性とか、how(やり方)の違いは多様であるべきですが。

僕らが目指しているのは、世界のマイノリティが活躍できる社会をつくることですが、「マイノリティ」という言葉に対する感じ方とか、貢献の仕方はバラバラでいいと思うんです。でも、ゴールが違うとつらいですよね。

山口(絵理子、マザーハウス社長)と僕って、真逆の人間なんです。よくケンカもするし、衝突するんですが、なぜ一緒にやっていけるのかといったらゴールが一緒だからです。ゴールが一緒だったら、最後は一緒になれる。

価値観が同じ人が一緒に時間を過ごせると、ハッピーじゃないですか。年収1000万だけどみんな価値観バラバラで、稼ぐことで競争し、お互いを貶め合ってる会社と、年収600万だけどみんな価値観が合っていて、一緒にいて楽しくて、飲み会も積極的に行きたくなるみたいな会社、どっちのほうがいいですか、という話なんです。僕個人はぜったい後者のほうがいいと思うし、そういう会社が増えていかなきゃならないと思っている。それがまさに、コミュニティなんでしょうね。

山崎大祐(やまざき・だいすけ 株式会社マザーハウス副社長)

1980年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。

大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。2003年、ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本およびアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。大学時代の竹中平蔵ゼミの1年後輩だった山口絵理子が始めたマザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。マーケティング・生産の両サイドを管理する。

マザーハウスは途上国でバッグやジュエリーを生産。国内22店舗、香港および台湾7店舗で販売している(2017年6月現在)。

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