高良健吾「無条件に受け入れることは本当の優しさではない」30歳を目前に思うこと

俳優・高良健吾に、福島を舞台にした映画『彼女の人生は間違いじゃない』に対する思いや、30歳を目前にした自身の今後の目標などについてインタビューした。
Marie Minami/HuffPost Japan

映画『彼女の人生は間違いじゃない』が7月15日から公開される。福島出身の映画監督・廣木隆一が、自身の同名小説を映画化した。

主人公のみゆきは、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県で仮設住宅に父親と2人で暮らす。週末には高速バスで東京・渋谷に向かいデリヘルのアルバイトをしている。

高良健吾は同作で、みゆきが勤務するデリヘルのスタッフ「三浦」役を演じる。福島への思い、そして30歳を迎える今ふりかえる役者人生。ハフポスト日本版は独占インタビューで聞いた。

—今作の舞台となる、震災後の福島。映画の中で描かれている「不条理な状況」に対して、高良さん自身はどう思いますか。

相手は自然なんだ、というある種の諦めはあります。(自分の出身地の)熊本の地震もそうだけど、相手は自然で地球だから、自分たちにできることは備えることだけだし、起きてしまったあとはどう乗り越えていくかを考え続けるしかないと思う。相手が自然だから、どこか諦めたり、受け入れたりしなきゃいけないことがあるなと思う。

ただ、福島の場合はそこに加えて「原発」というものがある。それはまた全然状況を違うものにしていて。子どもたち、孫たちからずっとその下の世代まで、これから生まれてくる人たち皆が背負っていかなくてはならないものだから、抱えてるもの、抱えなくてはならないものが、全然違いますよね。今起きたことに対しての悲しさやつらさを超えた、十字架がある。

—その「十字架」を福島出身の廣木監督はどう考えていて、どう表現しようとしたと思いますか。

廣木さんは怒ってると思います。福島出身の廣木さんが、福島が置かれている状況に対して怒っている気持ちがあって、それで(本作の原作となる)小説を書いたんだと思います。この作品は「怒り」で書いて、でも「優しさ」を届けるっていう作品。

廣木さんは映画を「武器」にして、そこに住んでいてそこで傷ついている人たちを、優しい目線で描いた。

—「優しい目線」とは…?

劇的に何か事件が起こるとか何かを変えるとかではなく、一日一日と時間が過ぎていく中で、ちょっとずつみんなを前に進ませるというのが優しいですよね。それは、そこにいる人たちを誰よりも肯定しているということだと思います。『彼女の人生は間違いじゃない』は"どストレート"な題名ですが、僕は「間違いじゃない」というメッセージは正しいと思う。誰にも、彼らのことを「間違い」という資格はないんです。誰にも。

—デリヘルのバイト、というある種"自傷的"とも取れる行為で、自分の生きている心地を得ようとするみゆき(源氏名はYUKI)。みゆきの行動に対して高良さん演じるデリヘルのスタッフ「三浦」はどう感じていたのでしょうか。

三浦がそこに心を寄せすぎることはないと思います。三浦の仕事は、デリヘル嬢全員にそういう気持ちを持ってやりきれる仕事じゃないと思います。

一人一人違う人生を送ってて、一人一人違う人間じゃないですか。三浦も劇団で役者をやりながら、一方でデリヘル嬢のマネージャーをやっている。人にはその人にしかわからない人生や毎日があるってことを、三浦はよくわかっていると思うんです。

無条件に受け入れることは本当の優しさではない。いきなり受け入れられても信用できない。だからこそ、三浦の「自分が関わってる人たちを守る」という気持ちにうそはないと思います。

—高良さんが「三浦」をどんな風に役作りしたかについて教えてください。

僕がした役作りっていうのは本当にシンプルで、「そこにいる」ということだけです。目の前にいる人に伝える、カメラに向かって芝居しない、とかそういう基本的なことを、すごく大切にしながらやりました。

—「そこにいる」というのはどういうことでしょうか。

ほんと、そこに存在しているっていうことです。何が難しいかって、そもそも人間の存在をワンシーンで説明できるわけはないんです。でもワンシーンしか出番がなかったら、その中でその人を存在させないといけない。そのシーンや佇まいで、その人の過去が見えたり未来が見えたら、最高ですよね。

「そこにいる」というのは演じることの究極だと思うし、人としても「ちゃんとその場所にいる」のはすっごく究極だと思ってます。

—他に、お芝居する時に意識されていたことはありますか。

今回の現場でやってみようと思って意識していたのは、「準備しすぎずに動く」ということですね。これまで自分も色んな現場で色んな役を演じさせてもらったけど、自分の内面だけから何かを出すことに限界を感じたりもしていました。だから今回は、準備するより先に何か行動してみて、そこに感情をついていかせる、ということを意識しながらやってみました。

—今年30歳を迎える高良さん。これまでのお芝居を振り返ってみてどうですか?

これまで色々な役柄を演じてきて、「その時、その年齢、その状態のときにしかできないこと」をやってきました。例えば24歳で演じた(映画『横道世之介』の)世之介の無邪気さやピュアさは、今の僕にできるかと言ったらできない。これは24歳の時だからできたことだと思うんです。27歳で演じた(ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の)蓮も、27歳だからできた。その時、その年齢で、自分自身が漏れ出てしまったり投影されたりしていると思います。どこまで行っても演じるのは僕なので。

ただ、30歳になった時に、漏れ過ぎもあんまりよくないかなと感じています。もちろん、見た目も声も心も僕だから、結局映っているのは僕なんですけど、自覚していないと「生の俺」っぽくなりすぎてしまう。僕であることはもちろん必要だし、大切なんですが、そのこと自体に自覚的になろう、もう少し気をつけよう、と思ってます。

—これからの役者としての目標を教えてください。

短く説明できるようになる。(今は)10あるうち10を超えて説明しちゃうんです。でも2とか3で10以上のことを伝えられたらいいですよね。すぐにはできないけど。それは「削ぎ落としていく」ということでもあるし、「意識する」ということです。無意識にしてきたことをちゃんと意識する。意識している自分を意識する。そういう芝居ができたらいいよなと思います。

『彼女の人生は間違いじゃない』は、7月15日(土)より全国の映画館で順次公開。

■高良健吾プロフィール

1987年11月12日生まれ、熊本県出身。

『ハリヨの夏』(06/中村真夕監督)で映画初出演以来、数々の話題作に出演。『苦役列車』(12/山下敦弘監督)で第36回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、『横道世之介』(13/沖田修一監督)で第56回ブルーリボン賞主演男優賞受賞。

廣木監督作品には東京国際映画祭「日本映画・ある視点」特別賞を受賞した『M』(07)、『軽蔑』(11)、『きいろいゾウ』(13/声の出演)など数多く出演している。

▼画像集が開きます▼


【※】スライドショーが表示されない場合は→こちら

注目記事