「私は死ねない」葛藤と覚悟をうつすテレビCM LGBT当事者も「勇気をもらった」の声

東海テレビが制作した5分番組「この性を生きる。」には、制作者のどんな意図があったのか。また当事者は動画を見てどう感じるのか。
「東海テレビチャンネル」YouTubeより

「みんなが普通に送っている日常ってすごい幸せ。それを手に入れるまで、私は死ねない」16歳で性別を男から女に変えた、トランスジェンダーの西原さつきさんは語る。

東海テレビが制作した5分間のテレビCM「この性を生きる。」。性的少数者の人たちが登場し、自身の「性」について思い思いのストーリーを伝えるという内容だ。

トランスジェンダー活動家の杉山文野さんは、学生時代の写真を指差しながら「身体は順調に女の子として成長していくけれども、気持ちとしては男性としての自我が強くなっていた」と振り返り、「どんなことがあれ、自分の人生は自分しか生きることができない」と語る。

杉山文野さん

杉山文野さんの学生時代の写真

「結婚?制度が整えばしますね。普通に、幸せに、一緒にいられればいいかなって思います」と笑って話すゲイのカップルの2人。

動画に登場するゲイのカップル

この動画は、優れた番組やCMを表彰する「日本民間放送連盟賞」に出品するために制作された。5月30日の午前4時30分ごろに1度だけオンエアされた。これまでも同じ枠組みで、戦争、自殺、環境問題などをテーマにドキュメンタリーCMをつくってきた東海テレビ。

なぜ今年、「この性を考える。」なのか。

ハフポスト日本版の取材に対し、本番組を制作した東海テレビ・プロデューサーの繁澤かおるさんは「きっかけは、男友達からのカミングアウトでした」と話した。

「家族には打ち明けられないんだ」という友人の言葉には、家族に言えない後ろめたさの正体は何だろう、同性愛と異性愛にどんな差があるというんだろう…そんなことを考えさせられたという。

また、個人の思いとは別に、ここ数年、新聞やテレビなどで「LGBT」が報じられるようになってきた背景があった。

繁澤さんは、LGBTという言葉自体の認知が広まってきていることは良いことだとしながらも、言葉だけで一括りにできるほど、人の"性"は一様ではないと指摘した。そして「当事者の個別の苦悩や葛藤を伝えたい」という思いが番組になったのだという。

撮影中、CMに登場するLGBTの人たちの人生の歴史を聞きながら「思わず涙してしまう瞬間もあった」と語った。

性的少数派に光を当てた本作。東海テレビが、伝えたかったメッセージは何だったのか。。繁澤さんは「覚悟」という言葉を使って以下のように話した。

「LGBTとは何か?と説明をするつもりもありません。見た人に何かを強要するつもりもありません。カメラの前に立って、覚悟をもって、自分の性や人生について語る人たちを見てほしい、それだけでした」

当事者は、このCMをどのように受け止めたのだろうか。ハフポスト日本版は、LGBT支援者を増やすキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催する松岡宗嗣さんに、感想を聞いた。

素敵な映像だと思いました。登場する人が語る短いひとつひとつの言葉が真っ直ぐ心に響いてきました。

LGBTを取り巻く環境はまだまだ厳しい部分もあるし、辛いこともあるけど、映像から私が受け取ったのは、CMのタイトル通り「この性を生きて」いるひとりひとりの前向きなイメージです。

いろんなセクシュアリティの、いろんな立場の人たちが、きっと葛藤もありながら「自分らしく、あたりまえに毎日を生きているんだ」というメッセージに勇気をもらったし、多くの人に伝わったらいいなと思いました。

「覚悟を持って“生きて”いる人を見て欲しい」という制作者の意図が淡々と確かに伝わってくる動画だ。

▼東海テレビ「この性を生きる。」