残業173時間、30代医師の自殺を労災認定 「労働環境を整えないと不幸繰り返される」両親の悲痛な思い

東京都内にある病院に勤務する30代の男性医師が死亡したのは過労が原因だったとして、品川労働局中央基準監督署が労災を認定を出した。男性の弁護人の川人博弁護士が8月9日、記者会見を開いて明らかにし、「病院側は長時間労働を認識していたのに十分なサポートをしていなかった」と述べた。
Rio Hamada

東京都内の病院に勤務していた産婦人科の男性研修医(当時30代)が自殺したのは過労が原因だったとして、東京労働局の品川労働基準監督署が労災認定した。遺族代理人の川人博弁護士が8月9日、記者会見を開いて明らかにした。

川人弁護士は会見の中で「病院側は長時間労働を認識していたのに十分なサポートをしていなかった」と指摘した。

■「長時間労働で疲弊しきった中での自殺だった」

男性は2010年4月に医師免許を取得し、13年4月から都内の総合病院で勤務を始めた。分娩や手術などの通常業務に加え、緊急手術などの対応も。150時間を超える長時間労働が常態化していった。

男性は2015年4月ごろから睡眠不足と抑うつ状態の症状が見られるようになったという。男性は同年7月12日に自殺した。遺書は見つかっていないという。

男性の両親は2016年5月、品川労基署に労災を申請。7月31日、労災が認定された。

労基署の決定によると、男性は自殺する直前に精神疾患を発症していた。また電子カルテや関係者の証言などから、6月9日から7月8日の1カ月の残業時間が173時間だったと確認した。こうした理由から、男性の自殺は過労が原因だったと認定した。

遺族側によると、自殺する直前の6カ月で男性が取った休日は5日間。残業時間も月160時間前後で、多い時には月200時間を超えていた。

これは、男性と病院側の労使協定が定めていた、3カ月120時間という残業時間をはるかに超える数字だった。

「月200時間はひどい。医師に対する労働環境の整備をしようとする意識が、一般企業と比べて極めて希薄だ。本人に通知した記録は確認されていないが、何れにしても今回のケースは労基法違反にあたる」

病院側が男性と結んでいた労使協定は、長時間労働を助長するような内容だった。緊急手術などの特別な事情がある場合、病院から本人に通知すれば、残業時間を3カ月で600時間まで伸ばすことができると定められていた。

「産婦人科医療の現状がそうさせている。あまりにも仕事の量が多いのに、それに見合う人数が足りていない。あまりにも長時間労働で疲弊しきった。そういう中での自殺だった」。川人弁護士はこう訴えた。

■両親がコメント「労働環境を整えないと不幸繰り返される」

労災が認定されたことを受けて、男性の両親が弁護士を通じてコメントを発表。「医師も人間」「(労働環境が)整備されなければ不幸は繰り返される」と、悲痛な思いが込められていた。

「労災認定がされたことに感謝いたします。息子は研修医として、その激務にまさに懸命の思いで向かい、その業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとし、その過程で破綻をきたしたものと思われます。親としては、その仕事ぶりを今回認めていただいたと受け取り、救われる思いです」

「産婦人科を専攻した息子は、産婦人科特有の緊張感、いつ訪れるかわからない分娩への待機、正常に出産させることを当然とする一般常識など、精神的ストレスは大きく、その負担から解放されることはなかったことと思います」

「その中で、責任を委託されたものに過重な労働負担がかかり、その結果、逃げ場を失いこのような不幸な転帰を迎えたものと考えています」

「医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返されると思います」

■医師の過労死「国をあげて対応すべき」

医師の過労死を巡っては、今年5月、新潟県の新潟市民病院に勤務する女性研修医が自殺し、過労死と認定された

川人弁護士はこれについて、「前期研修医はいろんなとこにどんどん移っていくが、後期研修医は基本的に同じところにいる。病院経営者から見れば大変な戦力。経験があるし若いし、偶然ではない」と指摘。

政府の働き改革案で、医師が長期労働規制の対象外となっていることにも触れ、「医師の過労死を放置・促進するもので、極めて危険だ。医師の過労死、過重労働をなくすため、国をあげて早急に対応するべきだ」と訴えた。

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