「ギリギリ体罰ではない」保坂展人・世田谷区長、 日野皓正さんの“往復ビンタ”で見解

「ドリームジャズバンド」は今後も継続してく方針だという。
保坂展人・世田谷区長(左)と日野皓正氏
保坂展人・世田谷区長(左)と日野皓正氏
HuffPost Japan/時事通信社

世田谷区教育委員会が主催したジャズバンドの演奏会で、トランペット奏者の日野皓正さんが男子中学生に対して「往復ビンタ」をした問題について、世田谷区の保坂展人区長は9月11日、定例記者会見で「行き過ぎた指導であることは否めない」と述べた。

日野さんを校長とし、世田谷区の中学生で編成する「ドリームジャズバンド」は、今後も継続してく方針だという。保坂区長は、日野さんに対し「行き過ぎた指導だった。日野さんにも、この点改めてほしいと伝えた」と明かした。これに対し、日野さんからは「『(指導を)改める』というお返事をいただいた」という。

保坂区長は教育ジャーナリスト出身で、いじめや体罰に対して厳しい姿勢を取ってきた。ハフポスト日本版の取材に対して8月31日に出したコメントでも、日野さんの行為について「行き過ぎた指導」と表現。一方で、注意を受けた中学生の保護者が「日野さんには感謝している」ことを紹介していた。これについては、「体罰を容認するものでは」という意見も出ている。

こうした意見について、保坂区長は「今回の件で体罰を容認するとか、体罰容認の風潮を助長しようとは一切考えていない。体罰はあってはならない」「(体罰を容認しているのでは)という意見も寄せられているが、それは違うと明確に改めて申し上げたい」と釈明した。

その上で、「『行き過ぎた指導』と言ったが、その更にボーダーを超えていくと、暴行だとか怪我をするとか傷害事件になる。それは絶対に許されない」と述べた。

一方で保坂区長は「話を総合して考えると」と前置きした上で、以下のように語った。

「平手打ちの動作は確かにあったが、お子さんは避けた。かすったのか、どうかは分からないが、怪我には至らなかった。となれば行き過ぎた指導の、体罰に差し掛かるギリギリ。当たらなかったから良かったというのは結果論であって、行為自体はよくなかったし、やってほしくない」

「体罰イコール暴力事件という図式ではめられるものとは違う。その手前だと捉えている」

■日野皓正さん「往復ビンタ」問題、これまでの経緯は?

日野さんは8月20日に世田谷区教委の主催した『日野皓正 presents "Jazz for Kids"』で、男子中学生に「往復ビンタ」をしたという。週刊文春が8月31日発売号で報じた。

このイベントは2005年から毎年恒例で行われており、2017年で13回目。地元の中学生による「ドリームジャズバンド」が日野さんとともに、成果を発表する場だった。

同誌によると、曲の後半でドラムのソロを叩き続ける男子中学生に対して日野さんが近寄り、スティックを奪い取った。

男子中学生は、それでも素手でドラムを叩き続けたため、日野さんは「馬鹿野郎!」と叫びながら、多くの観客の前で往復ビンタをしたのだという。この様子は、週刊文春がネットにのせた動画(有料)でも確認できる。

また、当時の状況を撮影した動画を、週刊新潮が公開している。

日野氏は朝日新聞の取材に対し、「手を出したのは、他の人からすれば驚いたかもしれないが、俺と彼との間には親子関係に近いものがあり、問題はない。この件はすでに和解もしている」としている。

日野氏はこの生徒について「才能あるミュージシャンで、1年前から目をかけていた」としたが、演奏中に男子生徒のソロパートが長くなり「他の子に迷惑がかかると思い、とめた」と説明。公演終了後、生徒側からソロパートの件での謝罪があったとし「そこで握手をして、問題は解決した。何のわだかまりもない」と話した。

日野皓正氏、平手打ち「問題ない」 「親子に近い関係」:朝日新聞デジタルより 2017/9/2 20:42)

■世田谷区の対応は?

保坂区長はこれまで、いじめや体罰、生きづらい子供たちの支援にも取り組んできた教育ジャーナリスト出身。こうした問題には、これまで厳しい姿勢を取ってきた。

週刊文春などの報道を受けて、保坂区長はハフポスト日本版の取材に対し、8月31日に広聴広報課を通して以下のコメントを出している

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日野さんを校長とするドリームジャズバンドは、世田谷区の区立中学生で編成するもので、真剣で厳しい練習をくぐりながら、8月の発表会のステージで素晴らしい演奏と成長を遂げた姿を見せてくれる他に類のない事業です。

今回、発表会のアンコールの場面で、ソロ演奏を長い間、続けていた子どもに対して、日野さんが制止をするために行き過ぎた指導をしたという出来事がありました。今後は改めていただくように、教育委員会を通してお伝えをしています。

注意を受けたお子さんの保護者からも、「日野さんには感謝している。素晴らしい事業なので、やめてほしくない。」とも伺っています。

今後も、ドリームジャズバンドが継続して発展するように応援していきます。

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この保坂区長のコメントについて、『体罰はなぜなくならないのか』『僕たちはなぜ取材するのか』(編著) などを執筆してきたノンフィクション作家の藤井誠二さんは、ハフポスト日本版の取材に対し、以下のように指摘している。

「世田谷区長は体罰を厳しく批判してきた教育ジャーナリスト出身なのだから、あのような日野さんの行為には厳しい態度を表明してほしかった。日野さんの事後の態度も事の重大性を考えているようには見えなかった」

ハフポスト日本版は保坂展人世田谷区長にインタビュー取材を申し込んでいます。

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