「ハラール認証」ってなに? イスラム教徒へのおもてなし、どうする

「第一に優先する必要があるのは英語」とも
東京・大塚の「マスジド大塚」でお祈りをするイスラム教徒ら
東京・大塚の「マスジド大塚」でお祈りをするイスラム教徒ら
Wataru Nakano

2020年の東京オリンピックを控えて東南アジアを中心にイスラム教徒(ムスリム)の訪日が増えており、豚肉やアルコールを禁じる戒律に従った「ハラール」の食品の需要が高まっている。専門の機関が発行する「ハラール認証」マークを掲げる飲食店や食品メーカーなどは増えているが、認証は不可欠なのか、またムスリムをどう受け入れればいいのか、探った。

「ハラール認証は、できればあった方が安心です」 東京・大塚にあるモスク(イスラム教礼拝施設)「マスジド大塚」を運営する宗教法人「日本イスラーム文化センター」事務局長、クレイシ・ハールーンさん(51)はそう話す。このセンターは、「ハラール認証」の発行や普及活動をしている団体の一つだ。

ハールーンさんは1991年に留学のためパキスタンから来日。「当時の苦労を覚えているから、今はムスリムの観光客のために何か手助けしてあげたいと思っています」と力を込める。 最近、UAE(アラブ首長国連邦)からの来客を福岡に連れて行った。しかし、ホテルで朝食を摂る際、ハラールと明示した食べ物がなかったので、来客はサラダしか食べなかった。パンでさえ、成分を気にして手をつけなかったという。

ムスリムは1日5回、聖地メッカに向かってお祈りをするが、日本では礼拝のための場所も少ない。ハールーンさんは「最近は徐々に状況がよくなり、ムスリムの観光客も増えています。日本の様々ないいところを見てほしいですから、もっと改善するといいですね」と語った。

ハラールのカレーを食べるイスラム教徒ら=東京・大塚の「日本イスラーム文化センター」が運営するマスジド大塚
ハラールのカレーを食べるイスラム教徒ら=東京・大塚の「日本イスラーム文化センター」が運営するマスジド大塚
wataru nakano

■「ハラール認証」に疑問の声も

一方、「ハラール認証」に疑問を呈する人たちもいる。 「日本はここ数年、『ハラール・ブーム』というような状況でした。私はこのブームを『ハラール狂想曲』と呼んでいます」。

そう話すのは、中東ビジネス関連コンサルタントでハラール研究家の岩口昇龍さん(41)だ。スーダンやサウジアラビア、マレーシアに留学したり駐在したりした経験がある。

アラビア語の「ハラール」は「permissible」、つまり「許された」という意味だ。「ハラールは『イスラム教の食事のルール』ではありません」と岩口さん。「どの宗教でも、神さまは人間の言動をなんでも許します。イスラムでも、アラー(神)はなんでも許します。しかし、神は聖典コーランで、人間に『豚肉を食べるときは気をつけてね』とだけ伝えています」と説明した。

インタビューに答える岩口昇龍さん=東京都千代田区
インタビューに答える岩口昇龍さん=東京都千代田区
Wataru Nakano

「ハラール認証」では、食材には豚肉やアルコールを含まないものを使い、鶏肉や牛肉、羊肉なども定められた方法で処理する必要がある。 このハラール認証、実は世界的な統一基準がなく、国や宗派などによって異なり、またハラールへの厳しさも人それぞれだという。「豚肉を乗せたことのある皿を汚れていて使えないと思うのか、洗えば問題ないと思うのか。人によって違います」

日本のお菓子は、ムスリムの人たちの間でも「美味しい」と人気だ。豚の派生品であるショートニングやゼラチン、ラードなども加えられていることが少なくないが、気にせず普通に買って食べているムスリムも多いという。また、ある洋菓子メーカーは、ハラール認証は取っていないものの中東地域に複数店舗を展開、評判がいいという。

岩口さんによると、ハラールは『儲かるビジネス』として注目された。「ハラール認証」制度はマレーシアを中心に登場。国家レベルの機関からハラール認証を受けようとすると、費用が100万円近くかかる場合もあるという。「ハラール認証について様々な発行団体が乱立し、中には金儲け目的としか思えない団体もあります」と岩口さんは指摘する。発行団体は、日本にも少なくとも十数団体はあるとされている。

「日本イスラーム文化センター」のクレイシ・ハールーンさん
「日本イスラーム文化センター」のクレイシ・ハールーンさん
WATARU NAKANO

この点について、日本イスラーム文化センターのハールーンさんは「100万円はちょっと...。金儲けに使うのはいけないことです。それは反対。本当なら私たちは注意します」と話す。その上で、「ブーム」以前からハラール認証を出している団体は、日本イスラーム文化センターのように宗教法人が元になっており、お金儲けを目的としていないという。「認証は、モスクがやればいいんですよ。その収入は宗教活動のために使えます」と強調した。

岩口さんは、ハラール・ブームについて「日本人は、自分がよく分からないものに線引きをしたがります。イスラム教はとりわけ縁遠い世界の話なので、認証で線引きをして決めつけたがるんです。日本人の性格もあるんじゃないでしょうか」と話す。

ただ、日本人がイスラム教への理解をより一層深めた方がいいのは、間違いないだろう。イスラムフォビア(イスラム恐怖症)を問題視する岩口さんは、概して日本人はイスラム教への理解が浅いので、公教育の場で宗教を教えた方がいいと提案。さらに、オリンピックを控えてムスリムの訪日客が増える中、第一に優先する必要があるのは英語など多言語化だと訴える。

「日本人がすべきことは、ハラール認証の取得よりも、まずは食品の材料表示の英語化です。国土交通省は観光地などの道路案内標識の英語表示を進めていますが、もう少し贅沢を言えば、日本人が他の外国並みに英語が話せるようになることでしょう」と持論を展開した。

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館林・ロヒンギャの一家

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