待機児童問題の解消などを訴える保護者と有識者による集会「みんな #保育園に入りたい」が、10月4日、東京・衆院議員会館で開催された。保活中や小さな子を抱えた人々を中心に約150人が集まって保育園問題について話し合い、提言した。
2017年の待機児童数は2万6081人、3年連続で増え続けている。
パネルディスカッションで、ジャーナリストの治部れんげさんは「本来、税収を上げたい政府にとって働く母親が増えるのはいいことのはず。それでも問題が解決しないのは政府の努力が足りないと言わざるを得ない」と厳しく指摘した。
また、待機児童解消への積極的な取り組みで知られる東京都世田谷区の保坂展人区長は、保育園の新設などで「6年ぶりに今年、区の待機児童数を減らすことができた」と強調した。
その一方で、「それでもまだ800人以上の待機児童がいる。現在の自治体の負担率では限界がある。究極的には保育園を義務教育化するなどの大制度改革が必要」とも話した。
元々の政府目標は2017年末「待機児童ゼロ」だったが...
安倍晋三首相は衆議院解散を発表した9月25日の記者会見で、待機児童解消の計画について「2020年度末までに32万人分の受け皿整備を進める」と表明した。
しかし、政府の元々の目標であった2017年度末の「待機児童ゼロ」は達成できず、先送りにされている。
政局でかき消される待機児童問題
この集会は、衆院議員会館で行われ、政府に対して子ども・子育て予算の追加措置をアピールすることも目的の柱だったが、来場した国会議員は福島瑞穂参院議員(社民)のみ。
主催団体「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」によると、集会には少なくとも5人の衆院議員(解散前)らが来場を確約しており、他にも大勢の議員の参加が見込まれていたが、解散・総選挙実施の決定とともに福島氏以外はキャンセルとなったという。
多くの国会議員たちは選挙に向けた活動で地元に帰っている。しかし、衆院選の候補者たちは、果たして待機児童問題に本気で取り組む気があるのだろうか。会場のあちこちから疑問の声や、もう一度議論を盛り上げ衆院選の争点にしようというアピールの声が上がった。
「めざす会」の天野妙さんは、「衆院選ではどちらの政党が勝つか、負けるか、政局のことばかりが中心となって、子供・子育て政策が置き去りになってしまっているのが残念。待機児童問題をどうするのか、保育費や教育費の無償化はどうするのか。耳障りの良いセリフだけではなく、財源も含めてまともな政策論争を本当にしようとしているのは誰なのか、見極めたい」と話している。会では子供子育て予算の増額を求める署名活動も実施している。
主要政党の公約はまだ出揃っていない。
「希望の党」の小池百合子代表は、公約は現在まとめている最中で発表は5日以降になると表明。一方、「立憲民主党」の枝野幸男代表は「(公約は)基本的に民進党の政策を踏襲」としているが、こちらも具体的な発表はまだない。
「政治家は、本当に考えているのかな?」参加者の声
集会には多くの「保活」中の女性たちが参加していた。一部を紹介する。
東京都目黒区・会社員の女性(32)
生後4カ月の長女を2018年4月に保育園に預けられるように、保活を進めています。周囲からは確実に入れるように「秋には預けたほうがいいよ(※)」と言われたけれど、生まれて4カ月の子を預けるのもかわいそうかなと思って、4月入園を目指すことにしました。
でもつい先日、ある認可保育所の入所説明会に参加しようと思ったけれど、まったく電話がつながりません。1時間半、500回ぐらいかけ続けてやっと申し込みができました。ただの説明会に参加するだけなのに、こんなに大変とは...ぐったりしました。
理想は、広い園庭があったり、いい保育士さんがいると納得した保育園に入れることだけれど、とりあえず「そんなことは言ってられない。どこかに入れれば」という気分です。
選挙では保育の問題を取り上げてほしいけれど、口先だけで「待機児童をなくします」と言うだけの政治家も困る。本当に考えているのかな?と思います。各候補者には具体策をもっとアピールしてほしい。
(※)ゼロ歳児を早めに認可保育所以外の保育施設に預け、保護者は育休を短縮して職場復帰することによって、入所の選考で優先順位付けの「ポイント」を稼ぎ、認可保育所に入れる可能性を高めるための手段。自治体によっては有効なので、多くの保護者が不本意ながらもこの仕組みを利用している。
東京都武蔵野市・会社員の女性(36)
今、生後3カ月の次男(第3子)を4月から保育園に預けたいと思っています。上の子たちが既に保育園に通っていることや、3人目の子への優遇策から、本来であれば保育園に入れるはずなのですが...。
実は2人目の子の保育園が無事決まり、育休が明ける直前に、勤め先の会社から「育休切り」をされました。古い体質の会社で、「戻るポストはない」と言われて、復職できなかったんです。
1人目、2人目の子を保育園に預け続けるために、取り急ぎ、親族が経営する会社で事務の仕事をさせてもらうことになって、今もそこで働いています。でも親族の会社での就労は、同じフルタイム勤務の人よりも優先順位が低くなってしまう。何とかして働き続けたいと思って必死で、出産直後に保育士の資格を取りました。
みんなそれぞれ生活が苦しいのはわかりますが、国が、自分たちの次世代を担う子にどうして予算を振り分けないのか、不思議でしょうがないです。政治家には保育だけではない、教育全般に重点を置いてほしいと思っています。
保育所に入れなかった子、全国で34万6000人の推計も
厚生労働省は4月時点での待機児童数を2万6081人とカウントしている。
しかし、この数字さえも、実態を正確に反映しているかどうかは、疑問符がついている。
野村総研は9月28日、2017年4月から保育施設などの利用を希望したが入れなかった子供は全国で34万6000人いたとの推計を発表した。
安倍首相の掲げた「2020年末に32万人分の受け皿」計画に対し、同社は「必要なのは約88万人分」と試算。「女性就業数の目標を達成するために必要な待機児童の解消は、このままでは困難」とみている。
厚労省の算出した待機児童数に対して、同社の推計が13倍にもなっているのはなぜか。
原因の1つは、同社のアンケート調査で、保育施設の利用を希望した保護者が自治体で「入れる可能性が低い」と言われ、そもそも申し込まなかったとする回答が40%を占めたためだ。
厚労省の定義では申し込みをしなかった人などについては待機児童に含めていない。
しかし、隠れた「待機児童」の実態を調査せずに目標を設定しても、「保育園を作った分だけ入園希望者が増える」といういたちごっこの抜本的な解消には至らない可能性が高い。
世田谷区の保坂区長は「子育て政策だけでなく、働き方の改革も必要ではないか。国・自治体・保護者だけでなく、企業も社会的市民として努力するべきだ」と話した。