「ロダンの創作と、完成する瞬間を見て」 ジャック・ドワイヨン監督に聞く

映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』公開、箱根も登場
映画『ロダン・カミーユと永遠のアトリエ』より
映画『ロダン・カミーユと永遠のアトリエ』より
Les Films du Lendemain / Shanna Besson

『考える人』『地獄の門』などの作品で知られるフランスの彫刻家オーギュスト・ロダン。この"近代彫刻の祖"の半生を描いたを描いた映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』が、11月11日から新宿ピカデリーなど全国で公開される。メガホンをとったフランスの名匠、ジャック・ドワイヨン監督がハフポスト日本版のインタビューに応じ、「映画では、彼の創作と、完成する瞬間の様子に興味を持ってもらいたい」と語った。

作品は、弟子入りを熱望するカミーユ・クローデルと出会い、愛と苦悩に満ちた日々を送ることになるロダンの姿を追う。ロダンをフランスの演技派、ヴァンサン・ランドンが演じた。

あらすじ 1880年、パリ。彫刻家オーギュスト・ロダンは40歳にしてようやく国から注文を受ける。そのとき制作したのが、後に『接吻』や『考える人』と並び彼の代表作となる『地獄の門』だった。そのころ、内妻ローズと暮らしていたオーギュストは、弟子入りを願う若いカミーユ・クローデルと出会う。才能あふれるカミーユに魅せられた彼は、すぐに彼女を自分の助手とし、そして愛人とした。

その後10年に渡って、2人は情熱的に愛し合い、お互いを尊敬しつつも複雑な関係が続く。2人の関係が破局を迎えると、ロダンは創作活動にのめり込んでいく。感覚的欲望を呼び起こす彼の作品には賛否両論が巻き起こり、バルザック像はロダンの存命中には酷評を受けたものの、今日"近代彫刻の父"という確固たる評価を得ている。

インタビューに答えるジャック・ドワイヨン監督
インタビューに答えるジャック・ドワイヨン監督
Wataru Nakano

ジャック・ドワイヨン 1944年、パリ生まれ。日本では『ポネット』(96)が大ヒットした名匠。初長編『頭の中に指』(74)でフランソワ・トリュフォー監督から賛辞を受け、『あばずれ女』(79)でカンヌ映画祭ヤング・シネマ賞を受賞。『放蕩娘』(81)で主演したジェーン・バーキンと結婚(後に離婚)、後に女優やモデルとして活躍するルー・ドワイヨンをもうけた。

ーーフランスでの作品の評判はどうでしたか。

観客動員数を20万人くらいと予想していたのですが、蓋を開けてみると30万人が来てくれました。なかなかいい結果だったと思っています。

ーー映画の最後の場面で、「箱根彫刻の森美術館」にある現在の「バルザック像」とそれを取り囲む子供たちが登場します。これを扱ったのは、どういった経緯だったんでしょうか。

ロダンのバルザック像は近代彫刻の始まりを象徴する作品だと思っていたので、映画ではこれに関する場面で終わろうと考えていました。世界最大規模のニューヨーク近代美術館(MoMA)のバルザック像を撮そうと思ったら、改修工事中でダメだったんです。そこでロダンの作品リストを見て箱根にあることに気づき、撮影のお願いをしたら撮影許可が出ました。

ロダンが亡くなった時、7年かけてつくったこの文豪バルザックの彫刻は周りから評価されていませんでした。私が表現したかったのは、ロダンが死んだ後に彼の作品は世界に広まり、世界を"制服"していったということです。

ロダンの作品は現在、アメリカや日本、韓国の美術館など世界各地にたくさんあります。彼が亡くなった1917年直後と、60年以降に拡散しました。パリ市内の美術館にも2点あるのですが、これを紹介しても世界に広まった感じが出ないので箱根にしました。

箱根での撮影は幸運でした。(2017年)2月の曇り空でした、雲が早く動き、時折、光が射しました。これがいい感じだったんです。

ーー日本人に見てもらいたいポイントはありますか。

日本人に対して特に、ということはありません。ただ、映画では、彼のクリエーション(創作)と、完成する瞬間の様子に興味を持ってもらいたいと意識して作りました。

ロダンは、プロの彫刻家になるはずではなかった人です。彫刻家になるためには普通、アカデミックな美術学校に進み、最終製作で大賞を取り、国から注文を受けるようにならないといけませんでした。しかし、ロダンは貧しい出身で、この美術学校の入学に3回も不合格になりました。その時点で、彫刻家になることを諦めてもおかしくなかったんです。

しかしロダンは伝統に根ざした保守的な規律に縛られることなく、革新的な道を突き進みました。長い下積みの時代を経て、40歳の時にアトリエを持って自立しました。かなりの頑固者でした。プロの彫刻家が、40歳の時にまだ無名だったということは、通常ではありませんでした。

ヨーロッパは当時、ジャポニズム(日本芸術の影響を強く受けた文化現象)が流行っていました。モネも日本の浮世絵からヒントを得ています。フランス人にとっては、自然とは都会の人なら散歩をする場所、村の人なら農業をする場所です。一方の日本人にとっては神々と会う場所だったんです。

ロダンは、日本人の自然観に興味を持っていました。建物の内と外との区別を明確にしない文化に魅了されていたんです。ロダンは自然と心を通わせ、池や滝をとても好みました。パリ郊外のムードンに土地を買って家とアトリエを建てるのですが、そこに庭園を設け、散歩するのが習慣でした。

ーー作品では、ロダン作品のモデルとなった日本人「花子」が登場します。

花子は一座を率いる女芸人で、ヨーロッパ各地で巡業をしました。花子に魅了されたロダンは、彼女のデッサンを描くために呼びました。彼女の顔が持つ、女優としてのドラマチックな力に惹かれたとのことです。

また、当時はフランス領インドシナだったカンボジアから初めて少女のダンサーが来ました。カンボジア国王がフランスを訪れる際に一緒に来たのです。カンボジアに帰国する際、少女たちは南部マルセイユで船に乗り込むことになり、ロダンは内縁の妻、ローズに何も言わないままパリからマルセイユまで少女たちを追っかけて行ったんです。自分の周りにあったものと違ったもの、その文化に魅了されたんです。

ーーロダンを名優ヴァンサン・ランドンが演じています。

彼はずっとロダンを演じたいと思っていて、役に決まった時に素直に喜んでいました。私は脚本を書いていた時から、彼をイメージしていまました。

ロダンが40歳の時に、愛弟子であり、愛人でもあった女流彫刻家のカミーユ・クローデルは20歳と若く、気まぐれで快活、幻想的でした。映画で彼女を演じたのはイジア・イジュラン。国民的歌手のジャック・イジュランの娘です。

ーー今作品は、ロダンの没後100年を記念して製作されました。

当初はロダンのドキュメンタリー映画の依頼があったのですが、長編のフィクションにしました。私に描きたいロダンがありましたので。

............

『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』(原題:RODIN)

監督・脚本:ジャック・ドワイヨン

出演:ヴァンサン・ランドン、イジア・イジュラン、セヴリーヌ・カネル

配給:松竹=コムストック・グループ © Les Films du Lendemain / Shanna Besson

11月11日から新宿ピカデリーBunkamuraル・シネマほか全国でロードショー。

▼画像集が開きます▼

映画『ロダン・カミーユと永遠のアトリエ』

注目記事