「日本の女性はジレンマだらけ」 3人の女性起業家が語った人生の転機

ジェンダーギャップ指数114位の日本で生き抜く方法とは
(左)=鮫島 弘子さん、(中央)=田中 美和さん、(右)=白木 夏子さん
(左)=鮫島 弘子さん、(中央)=田中 美和さん、(右)=白木 夏子さん
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男女の格差を示す「ジェンダーギャップ指数」で日本は過去最低の144カ国中114位を記録した

そんな"ジェンダー意識後進国"の日本で起業家として働く、Warisの田中美和さん、andu ametの鮫島弘子さん、そしてHASUNAの白木夏子さん。3人の女性はビジネスの力で、日本の制度や世界の課題解決に取り組んでいる。

スイスを拠点とする金融機関のUBS銀行のウェルス・マネジメント本部が11月1日に開催した女性投資家向けイベント「UBS Unique フォーラム - 女性が動かす未来 」で、働くことの意味について議論を交わした。

「日本は先進国で制度も整っているのに、ジレンマだらけ」 元日経WOMANの田中美和さん

雑誌「日経WOMAN」の記者として10年間働いた後、「Waris(ワリス)」を2013年に立ち上げた。広報や人事、会計などのプロフェッショナルスキルを持つ女性専門の派遣サービスだ。

起業を決意したのは、記者生活10年という節目を迎えた時だという。日経WOMANの記者として、日本の働く女性たちを取材して続けていた。

「日本の女性の多くが、モヤモヤや葛藤、ジレンマを抱えながら働いている。先進国で制度は整っているから、本来ならやろうと思えばできるはずなのに」

「たとえば時短勤務をすれば、やりがいのある仕事は任せてもらえない。パートナーの海外転勤についていくために一度離職すれば、戻ってきても再就職先がない。そういった働く女性の葛藤を解決できないか、と考えるようになったんです」

株式会社Waris 代表取締役/共同創業者 田中 美和さん
株式会社Waris 代表取締役/共同創業者 田中 美和さん
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■3.11で変わった「人生観」「仕事観

誰もが知っている有名雑誌を辞めて、起業。周囲からは「なんで?」という声もあった。田中さんは「3.11の東日本大震災を経て、人生って当たり前のように続くと思っていたけどそうじゃないんだと気づいた」と振り返った。

「記者として10年。伝えるという仕事をしてきたけれど、次の10年、自分はどうやって生きていくべきかと向き合った時に、社会問題を解決することに携わりたいと思ったんですね」

「自分は綺麗なゴミを作っている?その疑問が起業を後押しした」 andu amet代表の鮫島弘子さん

エチオピアの羊の皮を使ったバッグなどを生産・販売しているブランド「andu amet(アンドゥアメット)」の鮫島弘子さんも「自分がどう生きるべきか」という問いと向き合った時に起業を決意した。

鮫島さんが日本のアパレル企業でデザイナーとしてキャリアをスタートさせたのは、ファストファッションの黎明期。洋服が外国で大量生産され、3ヶ月単位でアイテムの商品の入れ替えが行われるようになるビジネスが持てはやされた。

トレンドにあった商品を徹夜しながら作っても、次のシーズンにはゴミになる。天職だと感じていたデザイナーという職業に対して、「自分は綺麗なゴミを作っているだけなのではないか」という疑問が湧いてきた。

「本当に一生この仕事をやるのだろうか」「もっと人の役に立つことができないのか」。その気持ちが、行動を起こさせた。デザインの仕事で人の役に立てるならと青年海外協力隊に申い込み、エチオピアへ派遣された。

株式会社andu amet 代表取締役・デザイナー 鮫島弘子さん
株式会社andu amet 代表取締役・デザイナー 鮫島弘子さん
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■原産国にお金が落ちない

派遣先のエチオピアで鮫島さんが目の当たりにしたのは、世界中に輸出している質の高い羊の皮の原産国でありながら、お金も十分に落ちない、技術も根付かないというエチオピアの現実だった。

「生の皮(ローマテリアル)」の状態で輸出され、フランスで加工されればフランス製、イタリアで縫製されればイタリア製、といったようにブランド価値が後から付加されていく。この構造のままでは何も変わらない...。どうして原産国の人たちが幸せにならないのか。

「才能もやる気もあるけど活かす場所のないエチオピア人たちを見て、起業を決意しました」。ファッションを通して、買い手も、商品の作り手も、その素材の原産地も幸せになる世界を作ろうとしている。

「近道はない。でも不可能を可能にするのは楽しい」 HASUNA代表の白木夏子さん

ルワンダなどから宝石の原石をフェアトレードで輸入して作ったアクセサリーを販売している「HASUNA」の白木夏子さんは、2000年に起業。「夢だけは大きくて、先が見えなくて、本当に苦しかった。何度も転んだり起きたりしながらこうしてやってきた」と話す。

当時、日本で販売されているジュエリーは、原石がどこでどう採掘され、どのような経緯で店に入ってくるのかが、分かりにくかった。たとえば食べ物だと、消費者は、原産地や作り手の農家を気にするようになっている。ところが、ジュエリーについては、「ブラックボックスだから諦めろ」、「既得権益に踏み込むのはやめておけ」と業界関係者から言われた。

HASUNA Co.,Ltd. 代表取締役 白木 夏子さん
HASUNA Co.,Ltd. 代表取締役 白木 夏子さん
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■不利益にならないジュエリー

諦めず、かつて白木さんが働いたことのある国連にいる知人や、青年海外協力隊の参加者などのつてを通じて、ジュエリーが店に並ぶまでの「ルート」を探し求めた。

ルワンダで牛の角を研磨している人に出会った。中米の小国・ベリーズで貝殻を研磨している人にもたどり着いた。HASUNAでは、生産者の顔が見え、なおかつ彼らが不利益にならないジュエリーを世に広めようとしている。

「誰もしたことがないことをするのは本当に苦しいです。近道もない、でも、不可能を可能にしていくことは、やっぱり楽しいです」。

身を助けてくれるのは"つながり"

起業をしても、会社を経営し続けるのはむずかしい。経済産業省の調査によると、起業して5年で約2割が廃業に陥るという。

Warisの田中さんは「魔法なんてなくて、ひたすら地道に営業しました」と語る。

会社は、田中さんを含む女性3人が共同経営者として共に立ち上げた。家庭や個人の事情でフレキシブルに働きたいと望む高いスキルを持った女性たちと、プロフェッショナル人材をマッチングさせるサービスを成立するためには、ある程度の登録者と登録会社を獲得していく必要があった。しかし、ベンチャーなので大手の人材会社と違って大規模な広告を打てるわけでもない。

身を助けたのは、個人のネットワーク。創業メンバー3人の前職時代の知り合いや、個人的な友人のつてを当たった。最初は知り合いだけだったサービスも今は登録者4300人、登録会社1300社に上るという。この話に、鮫島さんも、白木さんもうなずいていた。

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ジレンマをモノともせず、自分や仲間の力で道を切り開いてきた3人の女性たち。世界が抱える課題に挑み、日本の存在感も高めている。まだまだ女性達に"冷たい"日本の政治家や企業経営者たちは、ずっとずっと後ろを走っている。

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