これからの経済
2017年12月12日 11時51分 JST | 更新 2018年07月31日 16時37分 JST

「受験勉強・就活よりツイッター」お金がデジタル化する社会で、自分を高く売る方法

社会派ブロガーのちきりんさんが「キャッシュレス社会」を語った。

現金のない未来、「キャッシュレス社会」——。

お金が全てデジタル化され、ジャラジャラと小銭を持ち歩く煩わしさから解放されるのは爽快な気がする。

しかし、それだけではない。そう語るのは、手軽に送金や割り勘ができる無料スマホアプリを提供するKyashの鷹取真一社長と、『マーケット感覚を身につけよう』などの著書で知られる社会派ブロガーのちきりんさん。

2人は、キャッシュレスとは消費に関する社会の構造を変えてしまう「革命」だと語る。

Yuriko Izutani/HuffPost Japan
ちきりんさん(左)と鷹取真一社長(右)

「私は買い手であり、売り手でもある」

ハフポスト編集部(以下「編集部」):人々が物理的なお金を使わなくなると、どんな世界になるでしょうか。

ちきりんさん(以下「ちきりん」):お金が完全にデジタル化すると、「買い手」と「売り手」の関係が変わります。現状は、支払うためのカードを持つ「払う人」と、支払いを受けるための専用読み取り機を持つ「受け取る人」という役割が固定的で、消費者は常に支払い、店側は常に受け取っています。でもデジタル化で取引コストが下がれば、すべての人が「私は買い手であり、売り手でもある」という状況が生まれます。

鷹取真一CEO(以下「鷹取」):お金がデジタル化して、やりとりが楽になることによって価格の流動性が大きくなると、売り手と買い手の双方がもっと得できるようになると思います。売り手が決めた固定価格だと成立していなかったかもしれない売買が成立するようになる、という可能性があります。これって革命的ですよね。

Kyashでもイベントを開催した時に、あえて参加費を決めないで来場者に自由な金額を払ってもらうことがありますが、元々想定していた金額より多くの金額が集まったことがあります。

ちきりん:買い手が「自分にとっての妥当な値段」を明示すると、売買につながりやすくなりますよね。海外のお土産物屋さんがすぐ「いくらなら買う?」って聞くのもそれがわかっているから。

Arnd Wiegmann / Reuters

編集部:お金のデジタル化で、せっかく売買が楽になっても、買い手が値段を考えなきゃいけないとすると、別の面倒さを感じてしまう気もします...。

ちきりん:もちろんすべてのモノの値段をゼロから決めるなんて不可能です。スーパーにお買い物に行って、買う商品すべての妥当な値段をイチイチ考えていたら身がもたない(笑)。

ただ、不動産や教育のように高額のものについては、自分の生活と照らし合わせて「私にとってどれほどの価値があるの?」と考えるようにしないと、「20%引き」、「期間限定価格」などといった売り手主導の言葉に踊らされ、無駄なお金が出ていってしまいます。格安だと言われているけど自分には高すぎるとか、反対に、一般的には高すぎると言われてるけど自分には妥当な値段だとか。そういう自分独自のマーケット感覚を持つことが重要です。

「誰だって売り物を持っている」

編集部:お金のデジタル化が進むと「私は買い手であり売り手であるという状況になる」とおっしゃっていましたが、「私、特に売るモノなんてない」と思う人も多そうです...

ちきりん:そんなことないです。気づいてないだけで売れるモノはたくさんある。例えば先日、サッカーのイタリア代表がW杯への出場を逃したというニュースを見て、「イタリアがもしアジアにあったら出場できていたの?」ってツイートしたんです。

そしたら多くの人があれこれ教えてくれたんですが、中にはすごく有用なデータのURLを送ってくれた方がいました。私はその人のリプライを自分の23万人のフォロワーに向けてリツイートしたんですが、もしこの人に「ありがとう」の気持ちを込めて10円でも5円でも送れたとしたらそうしてたと思うんです。

鷹取:確かに、今は送金コストが高すぎて現実的じゃないですもんね。

ちきりん:そうなんです。手数料も高いし、そもそも私は相手がどこの誰かも知らない。普通そういう状況では送金なんてできません。でもお金がデジタル化してSNSとヒモ付いたら、気軽に10円を送れる。

今回そのリプライを送ってくれた人はただサッカーに詳しい人ですが、そういう知識だって立派な売り物になります。私がリツイートした先の23万人のフォロワーから「いいね」がつくたび、5円は私に、5円は情報提供者に送られる、みたいな仕組みさえあればいい。

Getty Images/iStockphoto

鷹取:「いいね」やリツイートで売買が発生すると、SNSが新しい市場になりますね。

ちきりん:でしょ! そこでは誰でも「売り手」になれるし「買い手」になれます。例えば「接待に向いたお店を渋谷で予約したいんだけどいいところ教えてくれませんか、紹介者には100円あげます」といった感じで情報を募集するとか。あるいは、「○○さんに会いたいんだけど、紹介してくれる人いませんか? 1500円払います」みたいなのとか。この場合、顔が広い人のコネクションが売り物になります。

鷹取:確かにそう考えると、誰にでも売れるものはありますね。そうなるとSNSは本当に大きな金融市場になるかもしれませんね。

ちきりん:知識や知恵を持っている人も、見返りをもらえるならより丁寧に答えようとするんじゃないかと。つまり価値取引が発生することによって、流通する情報の質もあがる。

Yuriko Izutani/HuffPost Japan

鷹取:「いいね」とか「ありがとう」の気持ちをお金で払うというのは、Kyash社内や一部のユーザーでは行われているんです。社内で社員が何か助けてもらった時に(Kyashアプリを使って)サンキューの39円を送り合うという現象が起きています。

休日なのに急ぎの対応をしてくれた、誰の担当でもない仕事を積極的に拾ってくれた、お弁当買ってきてくれた、そんな時に39円を送りあっています。

ちきりん:39円ってのがいいですね。100円以下だと本当に気楽に送りあえる。

鷹取:そうなんですね。何より「ありがとう」という想いの流通量が増えるのが大きいと思っています。欧米の人ってチップの概念があるじゃないですか。「ありがとう」の気持ちをお金で表現するという概念が浸透しているんですよね。

日本でも、お金がデジタル化されることによって、もっと自由に気軽に「ありがとう」の気持ちを送りあえるようになると思います。自分自身が「いい」と思ったものにちゃんと価値を届けられる仕組みを作れると思っているんですよね。

Marcelo del Pozo / Reuters

編集部:ちきりんさんの、サッカー・イタリア代表の話のようにSNS上で提供した情報が自分の売り物になっていくとすると、今後、ますますSNSでの影響力が大きい人の方が得をする社会になっていくのでしょうか。

ちきりん: 「SNSのフォロワーが多い人ばかりもてはやされるのは不公平だ」と感じる人がいるのはわかります。でも私は、ほぼすべての人について、今後はSNSでの発信を始めたほうがいいと思っています。というのも、SNSでの発信履歴は今後、これまでの学歴や職歴と同じような重みを持つようになるからです。

リアルな世界で「自分が何者か」を証明するために、今は学歴や職歴が使われています。だからみんな、受験勉強や就職活動を頑張る。今後は「ネット上での発言の軌跡」が「自分は何者か」を証明するものになる。

鷹取:だからSNSでの発信力を高める努力をすべきだ、ということですね。

ちきりん:今の世の中だって、学歴と職歴を使わず自分のことを周りにわかってもらうのはすごく難しいでしょ。同じように、ネットでつながる世界において、SNSアカウントなしに自分のことをわかってもらうのは不可能です。

これからはネット上での発信の蓄積こそが未来の自分の履歴書になり、将来なにかで出資や仲間を募るとき、もしくは転職する際などの「自分の信用力」そのものになります。だから今の時代、「自分はリアルの世界でしか活動しません」と世界を狭めてしまうのはすごくもったいない。

Yuriko Izutani/HuffPost Japan

鷹取:面白いですね。でもSNSのフォロワーってお金で買えたりする部分もあるので、努力して行きたい学校や企業に入るのと並べて語るのは少し意外な気もします。

ちきりん:リアルの世界にだって裏口入学もあれば、コネ就職もあるでしょ? でも、コネでズルをする人がいるからといって、自分が努力しなくてもいいということにはならないですよね。

鷹取:確かにお金や価値や受け取り方がもっとデジタル化すると、進学や就職を含め、色々なことにもっと多様な可能性が生まれてくると思っています。

ただ、変化を享受できるのが"声の大きい人"だけになってはいけないので、誰もが同じように簡単に価値の交換ができるインフラが必要です。これはKyashの目指すところでもあります。

編集部:お金のデジタル化によって、モノの値段や相場、学歴や職歴など、今まであまり疑わなかったモノの価値が大きく変動するかもしれないことがわかりました。お二方、今日はありがとうございました。

Yuriko Izutani/HuffPost Japan
鷹取真一社長(左)とちきりんさん(右)

対談の前編はこちら:まだ現金使ってるの?「キャッシュレス社会」で、人は幸せになれるのか