あの人のことば
2017年12月13日 15時39分 JST | 更新 2017年12月14日 20時38分 JST

羽生善治竜王「棋士の存在価値が問われている」 永世七冠が考える、人類とコンピュータの理想の関係(全文)

「人類最強」の天才棋士は、いま何を思うのか。

史上初の永世7冠達成を受け、日本記者クラブで会見する将棋の羽生善治2冠=13日、東京都千代田区 撮影日:2017年12月13日
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史上初の永世7冠達成を受け、日本記者クラブで会見する将棋の羽生善治2冠=13日、東京都千代田区 撮影日:2017年12月13日

史上初めて将棋の「永世七冠」を達成した羽生善治竜王(47、棋聖と合わせ二冠)が12月13日、日本記者クラブで記者会見した。

羽生竜王は「最後のチャンスかも知れないと言う気持ちで臨んだ」という今回の竜王戦を振り返りつつ、将棋をめぐるAI(人工知能)の進化についても言及した。

「棋士の存在価値というのが何なのかを、問われているということだと思っています」

「人類最強」の呼び声高き天才棋士は今、コンピュータと人間の関係性について何を思うのか。

記者会見の模様を全文紹介する。

<冒頭発言>

どうも皆さん、おはようございます。本日は日本記者クラブのほうにお招きをいただきまして誠にありがとうございます。

第30期の竜王戦が終わって、しばらく時間が経ちました。終わった直後はですね、あまり実感というかリアリティがなかったんですけれども、沢山のファンの方からお祝いや激励のメッセージを頂いて、獲得することができたんだなぁというところを、日々少しずつ実感しているというところです。

30年以上に渡って棋士の生活を続けていく中で、一つの大きな地点に辿り着くことができたのは自分自身にとっても非常に感慨深く思っております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

<質疑応答>

■国民栄誉賞は「検討をしていただけるだけでも、大変名誉なこと」

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記者会見に臨む羽生善治竜王

――政府が将棋で初めての国民栄誉賞を、羽生さんに授与する方針だと明らかになった。このニュースを聞いて。

そうですね。やはり、検討をしていただけるだけでも、大変名誉なことだと考えていますし、引き続き棋士としてきちんと邁進していきたいという気持ちで今はいます。

――政府から連絡は。

現時点では、特にそういった連絡はありません。

――囲碁の井山棋聖とともにというところはどう受け止めるか。

井山さんは全冠制覇を今年、2回もされて、まさに現在も新しい記録を塗り替え続けている。隣の世界ですけれども、非常に素晴らしい棋士であるというふうに思っています。

――国民栄誉賞の基準は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」。社会に希望を与える人が、囲碁の世界にもいて、ご自身も。どういう気持ちか。

将棋の世界も、囲碁の世界も、江戸時代は家元制度で。世襲で代々継いできたという歴史的な背景もあります。共通点として、小さいお子さんから年配の方まで幅広い人達が、盤と駒または石があれば楽しむことができる。

将棋を指す、打つ、あるいは観るとか、様々な形で日々の生活の中に少しでも浸透して存在していてほしいなという気持ちを、日々強く思っているところです。

■「あまり自信も見通しも持ってないままやっている」

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内閣総理大臣顕彰を受けた羽生善治名人(左)からサイン入りの将棋盤を贈られた橋本龍太郎首相(東京・首相官邸) 撮影日:1996年03月21日

――25歳で七冠を達成するなど、常に「史上初めて」という枕詞が付く立場だった。フロントランナーでいるのはどんな気持ちか。

やはり将棋の世界、一局の将棋の中においても、必ず未知な場面、今まで一経験したことがない場面に出会うわけなので。そういう状況・環境の中で、どれだけのことができるかどうかということを、問われ続けているというふうには考えています。

ただ一方、そのプロセスの中でミスをしてしまったり、あるいは負けてしまったりというケースも多々あるんですが、そのことも踏まえて、また反省をして前に進んできたというつもりです。

――プレッシャーが重くて嫌だなと感じることは。

そうですね。もちろん緊張感というか緊迫感、プレッシャーみたいなものは、やはり何年経っても何十年経っても感じることはあります。

ただ一方で、そういうプレッシャーがかかるような環境で対局ができるというのは、棋士にとっては非常に充実して幸せなことではないかなと思っていますし、そういうものがなくなってしまう方が問題があると思っていますので...(笑)。

ある程度までだったら、そういうものがあったほうが、むしろプラスに作用するのではないかなと考えています。

――羽生さんの謙虚で前向きなところに皆が憧れる。揺るがない自信、自分は大丈夫だというものが常にあるのか。

そうですね。うーん。ただ、なんというかイメージとして「棋士は何十手も、何百手も読めるので、常に先のことを見通して考えている」ようなイメージを持たれると思うんですけど、実際はそんなことは全くなくて。

10手を読むことはできるんですけど、現実に起こる10手先の局面を想定することはほとんどできないんです。だから、常に予想外とか想定外とか、考えている範疇の外側のことが実際に起こるというケースがほとんどなので。

やっていることは意外と暗中模索というか、五里霧中の中で...。ただ「目の前の一手は何がいいかな」ということを繰り返しているという感じなので。あまり自信も見通しも持ってないままやっているというのが実情です、はい(笑)。

――「羽生マジック」という言葉をよく耳にする。誰も思いつかないような手に魅力を感じる。自身が考える将棋の強さ、長所、あるいは短所は。

「マジック」という表現は「人が思いつかないような手を指している」というところかもしれないですが、自分の中では「普通の手」というか「平凡な手」を選んでいることが多いつもりではいるんです。

ただ一方で、棋士の世界でやっていく中で、いかに人と違う発想とかアイディアとかを持つことができるか、考えることができるかというところが、だんだん比重として高くなってくるという面もある。そういうところを大切にしていることはあります。

長所と短所でいうと、たとえば新しいアイディアのことを「新手」と言うのですが、新手を指すとかやっていく時に、ある程度失敗したり、負けたり、不利になることを承知の上でやっていかないと、なかなか今の移り変わりの早い戦術の中で対応するのが難しくなっているという面もあります。

そういう姿勢でやっていくことは忘れてはいけないということなのかもしれないですけれど、それが具体的な形になるとは限らないというデメリット、短所はあるのではないかなと思っています。

「人類最強」の呼び声高き天才棋士は今、コンピュータと人間の関係性について何を思うのか。■「羽生の手が震える時は、勝ちを読み切った時」の真相は?

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竜王位を奪取し、史上初の「永世7冠」となった羽生善治棋聖=5日、鹿児島県指宿市 撮影日:2017年12月05日

――羽生さんは「勝ちが見えると手が震える」と言われる。今回の竜王戦第5局の終盤も手が震えている場面があった。何が起きているのか。

手が震える時は2つのケースがあって。無我夢中でやっていて、結果が見えたと。勝ち筋がはっきり見えて、勝負がついたと感じた時に、我に返ってそこで手が震えるということがあります。

もう一つのときはですね、残り1分とかで時間に追われていて。何を指せば良いかわからないときに迷う時に震えるというケースもあります。

この間の竜王戦対局でいうと前者のほうです。ある程度、終局の15手ぐらい前のところで、なんとなく最後までの道筋が見えていたので、そこで我に返ったといういことです。

――我に返った時は、自身の中に電流が走るようなイメージか。

そうですね、おそらくスポーツとかアスリートの世界と気持ちの面で違う点というのは、終わる前とか、終わった直後とかに、あまり大きな感情の起伏って起こらないんです。

終わった瞬間にすごく嬉しいとか、悲しいとかっていうのは、長時間の対局で疲れているというところはあるんですが、その瞬間に、ものすごく気持ちが変わるかというとそうではなくて。少しずつ少しずつ、にじみ出てくるような感覚で、気持ちが変わっていくというケースが非常に多いです。

――勝者と敗者が、終わった後に(感想戦で対局を)振り返りますよね。

そうですね。まあ反省と検証というところで、どこが良かった悪かったと考える場でもあるんですが、お互いに深く集中している中で少しずつそこから通常モードに戻っていくために、クールダウンをしているプロセスでもあると思います。

――羽生さんは連敗が少ないのが特徴と言われる。引きずることはないのか。

将棋は個人競技でやっているので、あまり突き詰めすぎて考えないようにはしてるんです。

例えばスポーツだったら「ちょっと風向きが悪かった」とか、そういう偶然性みたいなものが入ったりするんですけど、将棋の場合は「負けたら自分のせい」で。自分がミスをしてしまって、結果に繋がらなかったということになってしまう。

ドンドンそれを突き詰めてしまうと、精神的にかなり厳しくなってしまうところがある。いい意味でのいい加減さというか、ズボラさみたいなものも大事なんじゃないかなというふうには思っています。

最近は終わって一晩しっかり眠れれば、割合気持ちは切りかえられるというか。「今日は負けてしまったけれど、次また明日から頑張っていこう」という気持ちになれます。

■1つの対局をこなす上では「昔も今もほとんど変わりはない」

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――今回の竜王戦は「最後のチャンスかも知れないと言う気持ちで臨んだ」と。どういう気持ち。

竜王戦という棋戦は30期の中で、20代の若い棋士の人たちが活躍をしてきた棋戦なんです。私も年齢的には40代の後半。挑戦者になるためのトーナメントを勝ちあがれるかという保障は全くないというのが実情なんです。

今回、幸運にもそういうチャンスをつかむことができたので。これが10代の時だったら「また次の機会がある」と感じられるのかもしれないですけど。今回はこの一回といいますか、このチャンスをそういう気持ちで臨まなくてはいけないなというところでした。

――羽生さんは今、47歳。誰もが体力は落ちてきます。昔と比べて「うまくいかないなあ」と思うことはあるか。

対局をしていくということに関して言うと、1試合を行うという点では、昔も今もほとんど変わりはないです。

ただ1年間の中で60試合とか70試合とか、たくさん試合をして、そのパフォーマンスが常に高いという...。高い質で量を沢山こなせるかと言われると、ちょっとそこは難しくなってきているという感覚も持っています。

――棋士にとって年齢を重ねるメリット、デメリットは。

メリットは、感覚的なところの経験値があがるというところがあるので。無駄なことを考えなくて済むとか、大雑把に局面を捉えるというような、そういうところはあると思います。

デメリットでいうと、記憶力のところであるとか、反射的にパッと対応するとか、そういうところは年齢があがってくると難しくなってくるという面があるので、いかにそのあたりでバランスをとるかが課題になっています。

――大雑把というのは「俯瞰して見ることができる」と。

そうですね。方向性を見定めるとか、具体的なことではなく て、大雑把に考える、抽象的に考えるというところですとか。

あるいはたくさん読むのではなくて、効率よく急所だけ読んでいくというような、そういうスキルは経験によるところが大きいのではないかなと思います。

――若手の勢いを感じた時に、焦る気持ちはあるものか。

最近は20代で強い棋士の人達がたくさんいて、非常に研究熱心ですし、自分が知らなかったような作戦とか戦術をあみだしてきているので、そこに苦慮しているという面もあります。

そういうことが起こっていることに対して、新しい感性を持った棋士たちの発想とか一手を自分なりに勉強して、吸収して、取り入れて行かなくてはいけないなということは常に思っています。

■将棋ソフトの登場で「過去に人間が指した手が見直されている」

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報道陣の質問に、丁寧にゆっくりと答える羽生竜王。

――最近、将棋ソフトを参考にした戦術が取り入れられたりしている。将棋の質、世界観は変わった?

今まで何回か分岐点みたいなものがあって、データベースができてデータを重視して戦うようになったとか、インターネットができて地方に住んでいても強くなれるような環境が整ったとか。

ソフトが出てきて何が変わったかというと、実は過去に人間が指した指し方が結構見直されてきているという傾向があって。温故知新ではないですけれども。コンピュータにとってはそんなものはないんですけど(笑)。

ただ、人間の目から見ると、非常にクラシックな形みたいなものが再び復活してきているというのが今年一年の一番大きなトレンドなんですね。そういう意味では、新たな可能性を見ているところです。

――竜王戦後の会見で「将棋そのものを本質的にはまだまだわかっていない」と述べた。羽生さんがわかっていないとなると、どんな世界なのか。

もともと将棋そのものの可能性って10の220乗ぐらいあると言われているので、途方もない数なんです。

子供の頃からずっとやってきていますけれど、自分がやってきたことって、ほんのひと欠片というか、ひと欠片の欠片にもなっているか、なっていないかということしかやってない。

それを考えると、根本的なことはわかってないという面はあるとは思っています。

――ここまで成し遂げられて、今考えている「将棋の本質」とは。

そうですね、誰が作ったかどうかはちょっと分からないんですが...。先人の人達の知恵というか、叡智みたいなものは、ずっとやっていく中で感じることが多いです。

つまり、(将棋の)ルールは400年前に現在のルールに定着するまで何十回も変わっているんですけれど、微妙な均衡がとれるように設計されているので、そこは非常に精巧に、緻密にできているというような印象を持ってます。

――それは、先人が意図してつくられたものなのか、それとも偶然そういうルールでつくったらここまで続いたのか。

娯楽であったとしても、歴史の淘汰というのは間違いなくあると思うんです。面白いものが残って、つまらないものが廃れてしまうというところはあると思う。

様々な人たちの創意工夫の結晶みたいなものではないかなと思っています。

■次の目標は「公式戦1400勝」

――次に目標とされることは。

具体的なことで言うと、公式戦での1400勝が近づいてきているので、近い目標としては底を目指して頑張っていきたいと思っています。

――大山康晴十五世名人が持つ歴代最多の1433勝まで、あと42勝。大変なことだと思う。ここを達成する自信は。

もちろん大山先生の記録については、大変な記録だと思っていますので。追いついて、追い抜いていけるように頑張っていきたいなと思っています。

――国民栄誉賞が検討されている。羽生さんの活躍で、将棋を身近に感じる人もいると思うが、メッセージを。

将棋の世界は古くからある世界ではありますし、幅広い人たちに楽しんでもらえるものであり続けられるようにこれからも頑張っていかなくてはいけないのかなと思っています。

最近は中継みたいなものがあったり、ニュースでもよく取り上げていただいて、大変ありがたいと思っているんですが、日々生活をしていく中の片隅に将棋というものがあるということが、一番良い形なのではないかなと思っています。

■最近、戦術の「流行の移り変わりが早い」

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第30期竜王戦7番勝負第5局の対局を振り返る渡辺明2冠(竜王、棋王・左)と「永世7冠」となった羽生善治棋聖=5日、鹿児島県指宿市 撮影日:2017年12月05日

――今回、竜王戦に特化した対策をしたのか。

ここ最近は特にそうなんですけれども、流行の移り変わりみたいなものが結構早いんですね。

新しいアイディアで、次の大きな対局の時にとっておこうと思っても、その間に戦術が変わってしまっているというケースが非常に多いです。

もう一つは情報化の時代で、どんどん情報が流れていくので、もし自分がある一つのアイディアとか発想を思いついたら、それはすでに他の誰か思いついてるというふうに考えるようにしているです。実際、そういうことも多いので。

ずっと出し惜しみしていても、ただ機会を逃してしまうだけなので。一番近いそういう機会、タイミングがあった時に、その手を指すというケースが多かったです。

今期の竜王戦に関して言うと、それほど前から温めていた作戦というか新手みたいなものを指したというわけではないですけれども、一応自分なりに最近のトレンドみたいなものを取り入れて、アレンジして、一局一局迎えていったという背景はあります。

――流行の移り変わりをキャッチアップしていくのは厄介か。それとも面白いことか。

厄介と言えば、厄介なことです。かなりそれだけでも時間と労力を費やさないといけなくなってしまうので。ただ、なんというのでしょうかね...。

決まった形というか、過去にあった定跡系の中でやってしまうと、なかなか自分の発想とかアイディアとかを使いにくいという面があるので、そういう局面とかを目指す時には最先端の形を知っておくのは非常に大事なんじゃないかなと思っています。

――将棋ソフトの話で「温故知新」というは話があった。なぜ、将棋ソフトが「温故知新」(人間がかつて指した手を)見せたのか。

コンピュータは膨大な情報を生み出してくれます。それを受けいれるか、受けいれないかっていうのは、人間の美意識によるところが、非常に大きいと思うんです。

過去にあったものは、人間にとっては受けいれやすいもの。なので、「温故知新」のような状態がおこったのではないかなと思っています。

■家では結構「ぼんやり」していることが多い

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史上初の永世7冠達成から一夜明け、記者会見で晴れやかな表情を見せる羽生善治2冠(竜王、棋聖)=6日、鹿児島県指宿市 撮影日:2017年12月06日

――「国民栄誉賞へ」というニュース、聞いた時の率直な思い。また、奥様(羽生理恵さん)の反応は。

まず、その話を聞いた時というのは、まぁ驚きました。大変名誉なことだと思いました。いままで国民栄誉賞を受賞された方は、本当に各界で大変な活躍をされた方ばかりですので、そういう意味で非常に驚いたというところですね。家内の反応も同じだったと思います(笑)。

――奥様と、なにか言葉は交わされたか。

いや、特には。なんというか、「ニュースでこういうのが出てるよ」ということは言われましたが。

――「そうなるといいわね」というような。

あ、そういうことは特には言ってなかったですけど。そういうものが出ているということは言っていました。

――奥様も素敵なメッセージを出されていた。お家の中での羽生さんは。将棋界の神様が家にいたら気を使って大変なんじゃないかな...と。

あーそうですね。まぁ、結構「ぼんやり」していることが多いですが...。ただ、棋士の場合は「ぼんやり」していても、将棋のこと考えていても、傍目からはわからないので、考えているように見えているのかもしれません(笑)。

■人間同様に、コンピュータもミスをする

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第2期電王戦2番勝負第2局。将棋ソフト「PONANZA(ポナンザ)」と対局する佐藤天彦名人=20日、兵庫県姫路市の姫路城 撮影日:2017年05月20日

――コンピュータソフトと対抗するために、どういうことをやる必要があるか。

将棋のソフトは、まさに日進月歩の世界で、1年経つとかなりのスピードで上達しているというのが現状です。

人間が考えていくという所には、どうしても盲点というか、死角というか、考えない場所・箇所...先ほど、経験の中で「手を狭めて読む」という話が出ましたけれと、それは言葉を変えると「発想の幅が狭くなる」ということなので。

これから先、棋士があるいは人間が将棋を上達していく時、コンピュータが持っていて人間が持っていない発想とかアイディアを勉強して、吸収して、上達していくという時代に入っているのではないかなと、私は思っています。

それが、ずっと平衡して同じように進化するかどうかは未知数で。もう数年経ってみないとわからないんじゃないなと思っています。

――コンピュータソフトと戦いたいと思いますか。

これはですね、実はもうすでにフリーソフトといって、かなり強いものはすでに公開されているので、いつでもできるんです。それが将棋の世界の、ある種特殊ケースと私は思っています。

――どうしてもAIが出てくると「人間はコンピュータに負けるのか」というような形で捉えてしまいます。そういうことではなく、むしろ一緒に将棋の世界を究めていくという形で位置づけたほうが良いのか。

私はこういうふうに思っています。例えば、AIは強くなっています。でも、完璧な存在ではなくて、ミスをしているケースもあるんですね。もちろんも人間もミスすることもあります。

考えている内容とか中身は、全く違うので、それを照らし合わせて分析して前に進んでいくというのが、一番理想の形ではないかなと思っています。

――羽生竜王に憧れる子供達と、将棋に今ひとつ伸び悩んでいると感じる子供たちにメッセージを。

どんな物事でもそうだと思うんですけれど、基本とか基礎みたいなものがあるので、それはしっかり学んで、取り入れて、そこから先は自分自身のアイディアとか発想みたいなものを大切にして、指してほしいなって思っています。

それが結果に結びつかなくても、失敗したとしても、そういうことを伸ばしていくということがとても大事なんじゃないかなというふうに思っています。

将棋が上達するところって、右肩上がりで必ず上達するということではなくて、あるところまで急に伸びて、そこから平行線で、停滞する時期があって、また伸びていくという繰り返し。ちょっとそういう伸び悩んでしまったなと感じたのであれば、

今までとは違う練習方法をやってみるということをおすすめします。

例えば、実践ばかりやっていたとしてら、ちょっとやり方を変えてみて詰将棋を取り入れてみると。あるいは対局を終わった後に「感想戦」といって、分析とか検証みたいなもののする時間をちょっと増やしてみるとか、少しやり方を工夫することによって次のステップに進んでいってほしいなと思います。

――60代、70代になっても強くなるには。高齢者の将棋人口を広げるには。

一つは例えば、何か得意な形とか戦法とか作戦を決めてやるというのがいいのではないかなと。あと、難しいのは良くないのですが、簡単な3手詰めとか5手詰めとか、簡単なパズルみたいなものをやるというのは、頭の体操にもなりますし、実際に上達する面でも非常に有効だと思っていますので、そういうものをやることをおすすめします。

――今後のモチベーションと、後輩の育成について。

モチベーションに関して言うと、なかなか何十年やっても安定しないというのが実情です。天気みたいなところもあるので、その日になってみないとわからないというところはあります。

ただ、例えば今年残念ながら引退された加藤一二三先生のように60年以上にわたって現役生活を続けられた先生もいらっしゃいますので、そういう情熱を持って、可能な限り前に進んでいけたらいいなという気持ちは持っています。

育成に関しては、もうすでに育成しなくても非常に強い人達が、まあドンドン出てきているというのが実情なんじゃないかなと思っていますが(笑)。そういう機会というか、チャンスがあれば、そういうこともやってみたいなと思っています。

■「藤井四段はこれから成長期」

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan
藤井聡太四段

――今年は中学生棋士の藤井聡太四段が注目された。永世七冠を達成した羽生さんからメッセージをかけるとしたら。

これ、実はすごくよく聞かれる質問なんです。彼は将棋の内容とか中身も素晴らしいのですが、様々な対応力というか受け答えみたいなのを、私の知らないような表現をよく使われるぐらいなので(笑)。なにかアドバイスと言われても、本当になにもないというのが実情なんですね。

ただですね、中学生で棋士になって連勝記録を塗り替えたということだけでも大変なことなんですけど、棋士になる基準っていうのは時代によって少しずつ変わっていって。今は過去の中でも、一番厳しい時代、棋士になるのが難しい時代です。

その時に、最年少の記録を塗り変えたっていうのに大きな価値があるのではないかなと思っていますし、まさにこれから成長期というか、また伸びていく時期だと思うので、どういう風に成長していくのか、実際対戦することもあるかもしれませんので、非常に関心を持っています。

――藤井四段との対局は楽しみ?

世代が違うと、言葉を話しているのと同じように、意味は分かるんだけども、ニュアンスとか使い方が違うというようなことがあるのと同じように、将棋のルールは同じなんだけど、自分の目から見ると意外な手を指されることがあるので。そういう意味では、対戦するのを楽しみにしています。

――96年に七冠制覇されたときにも史上最年少での国民栄誉賞が取り沙汰された。いま47歳で検討という話があったことについて。

そういった話が出ていて、検討していただけるというのは、個人としても将棋界にとっても大変光栄で名誉なことだと考えています。現状は、そういう中で自分なりに変わらず一生懸命やって、前に進んでいくということなのかなと思っています。

――ご自身の中では、世の中の評価は「ようやく」か「通過点」といった感覚か。

今回、永世竜王の資格がとれるかどうかは、対局の直前ぐらいになるまでは半信半疑というか、まだまだわからないという気持ちで、なんというかそういう、いま突然状況が変わっているという中で、日々こう、いろいろなことが変わっているという感覚。戸惑っているとまではいわないですけど(笑)。...というところでしょうか。

■「棋士の存在価値というのが何なのかを、問われている」

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――囲碁と将棋を比べると、囲碁の国際化は大きく進んだ。これは白黒の石だけでルールも明確になっている。将棋はチェスには似ているが、文字(漢字)が国際化の障害ににはなっていないか。将棋とチェスの折り合いはどうつけるか。

元々、将棋の発祥って古代のインドからはじまって、特にアジアは一国に一つ、その国の将棋があるというのが実情です。

将棋を普及していくという時に、日本の将棋だけを広めていくということだけではなくて、その交流するツールの一つとして「将棋」というものがあるというのが非常に良いのではないかなというふうに思っています。

囲碁ほどなかなか国際化が進んでない現状ではあるんですが、実際かなりの国で将棋を指すヒトが出てきていますので、少しずつ国際化は始まっているのかなと思っています。

漢字をどうするかというテーマは、時に海外とかで普及をしている人とか、海外で将棋を楽しんでいる人の間で出る話でもあるんですが。

今のところは将棋を始めている外国人の人達は、将棋だけに興味を持っているというよりも、日本の文化ですとか歴史とか伝統みたいなものも合わせて関心を持っているという人が多いので、今のところは現状のまま行くようなところかなと考えています。

ただ、これがもしですね、本当に幅広く国際化という形になった時には、いま出たような話は、きっと必ず議論になるんじゃないかなと思っています

――AIが人間を上回る時代になってきた。それとは別に、人間と人間が勝負する魅力をより伝えることは意識していくのか。番外も含めて、将棋の伝え方の力点が変わってくるのか。

それは、本当にある種とても深刻な話だと思ってるんですけど。例えば棋士同士が対局をして棋譜をつくります。これがコンピュータ同士であれば24時間365日、大量の対局をして棋譜をつくることが、実際にできてしまう。

棋士の存在価値というのが何なのかを、問われているということだと思っています。

それはまさに対局をしている姿ですとか、背景ですとか、周りにある環境とか、そういうものを含めた全てのところで「沢山の人達に魅力を感じてもらえる世界にしなくてはならないんだなぁ」というようなことを、痛感しています。

そういう意味では、これから先、非常に工夫が必要というか、伝えていく面での工夫が求められている時に来ているんだなと実感しています。

――小学2年で将棋倶楽部に入って、ここまでの道のりを振り返って、どんな人生だったか。

非常に、めぐり合いに恵まれたと思っています。

うちはそんなに将棋を指すという家庭ではなかったですし、たまたま将棋を教えてくれる友達がいて、たまたま住んでる街に将棋のクラブがあってという、さまざまな幸運がつみかさなって、ここまでくることができたので。

そういう縁といいますかめぐり合わせみたいなものだ非常に大きかったと思っています。