不妊治療でボロボロになったマンガ家・古泉智浩さんが、里子を特別養子縁組するまで。

「うーちゃんをマンガで描いてみて、初めてマンガを描けることの喜びを感じたんです」

子どもを育てたい。たとえ、自分たちと血がつながっていなくても。

不妊治療でボロボロになった夫婦の前に浮かび上がったのは、「里親制度」という選択肢だった。

6年間で600万円を費やした不妊治療を経て、夫婦で里親研修を受けた後、生後数カ月の赤ちゃんを引き取ったマンガ家の古泉智浩さん。ハフポスト日本版は2015年冬、体験を綴ったエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』発売時にインタビューした。

あれから2年。新刊のタイトルは『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』。そう、古泉さん夫婦が里子として育てていた「うーちゃん」(仮名)が、特別養子縁組によって法律上でも「うちの子」になったのだ。

「まさかこんなに早くできるなんて」と驚く古泉さんに、特別養子縁組が成立するまでの道のりについて話を聞いた。

Satoko Yasuda

「特別養子縁組」6歳未満で縁組すると実子と同じ扱いになる

――0歳のときに里子として引き取った「うーちゃん」と戸籍上の親子になるにあたって、やはり手続きなどは大変だったのでしょうか。

それがもう本当に、驚くくらいトントン拍子で。なんかマンガにする意味もないぐらい、ドラマチックじゃなかったです(笑)。具体的には、家庭裁判所に手続きに行って、書類を書いて、あとは調査官が家庭訪問に来るくらいで。

本にも描きましたが、よその子を自分の家の籍に入れる養子縁組をすると、戸籍に「養子・養女」と記載されるんですよね。でも6歳未満で縁組すると、「長男」「長女」のように記載される。法律上では実子とほぼ同じ扱いになるんです。

これが「特別養子縁組」という制度なんですが、赤ちゃんのときからうーちゃんを里子として育ててきたわが家としては、6歳になる前に焦って申請をして、実親さんから同意を得られない可能性があるのが何より怖かった。実親さんから断られて、子どもを実親に返すことになったケースもあると聞いてましたから。

だから、6歳までには特別養子縁組を申請したいけど、早く動きすぎてうーちゃんを引き取られてしまうのも怖い、という状態だったんですね。

ところが、うーちゃんが2歳を過ぎて少し経った頃に児童相談所の職員さんが家にやってきて「特別養子縁組しませんか?」と。向こうからそう言ってくれるのなら、こちらとしては「ぜひお願いします!」という感じで実現できたんです。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』より

特別養子縁組に必要な「実親の同意」は?

――実親さんの同意もすんなりと得られたのでしょうか。

僕らは、直接会えないのですが、児童相談所から実母さんに連絡をして。実母さん、それからうーちゃんの祖父母にあたる彼女のご両親も、「今、いい環境にいるのなら、そのままぜひお願いします」という感じだったそうです。

――実父さんの同意は?

うーちゃんの実父さんは親権者じゃないので、同意は特にいらないそうなんです。ただ、児童相談所が連絡先を知っていたので確認してくれたそうなんですが、問題なかったようです。

――うーちゃんは現在3歳。特別養子縁組が成立してすでに1年以上が過ぎていますが、生活の中で変化などはありましたか。

普段の生活はあんまり何も変わってないですね。本当に今まで通り、普通に育てているだけで。

あ、名前は変わりましたね。それまで実親さんの姓だったのが、うちの戸籍に入ったので「古泉」になりました。下の名前も変えたんですよ。発音はそのままで、漢字だけ変えて。

――実親さんが命名した名前から改名した?

そうです。名前の漢字がすごく読みづらい組み合わせだったので。だから家庭裁判所に改名申請というものをして、発音はそのままで、読みやすい漢字に変えてもらいました。これも親権がないとできないことなので、特別養子縁組が実現できたからこそですね。

うーちゃんの名前は、血がつながっている実父・実母さんの名前の漢字から一字ずついただいたものなんです。でも決める前に、念のため新しい名前になる「古泉うー(仮)」で画数を調べてみたら、むちゃくちゃよかったんですよ! 家族運が大大吉だったんです。

いずれ、うーちゃんが大きくなったら「血がつながっているご両親の名前を受け継いでいるんだよ」というふうにも説明したいので、もうこれしかない、ってなりましたね。

――育てていく中で戸籍の姓と「通り名」の姓が違うことで不便はあったのでしょうか。

病院の呼び出しとかは、「戸籍のこの名前じゃなくて、古泉でお願いします」と受付で頼めば、ちゃんと「古泉」で呼んでくれるんですよ。

保育園も最初は戸籍の名前で通ってたんですが、事情を話したら「じゃあ古泉うーちゃんでいきましょう」と言ってくださって。すごく理解のある園で、助けられましたね。

今はもう戸籍が一緒になったので、そういうことに気を遣わなくてよくなりました。

Satoko Yasuda

このかわいさをどうやって伝えればいい?

――ところで『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』では、特別養子縁組の手続きと並行して、親子の日常も描かれていますね。うーちゃんのあどけない言動や、魔の二歳児ならではのわがままも、マンガで表現されるととてもかわいいです。

僕、正直これまでは「自分が描いたキャラクターを読者にも好きになってほしい」「マンガを描いて読者に好かれたい」みたいな、自分の表現を愛している人なら当たり前に持つ気持ちを一度も抱いたことがなかったんですよ。キャラクターはあくまで、ストーリーやドラマを伝えるためのものとしか見ていなかった。

でも、うーちゃんをマンガで描いてみて、初めてマンガを描けることの喜びを感じたんです。「このかわいさをマンガでどうやって伝えればいいんだ?」と取り組んでるから、本当に気持ちも入ってくるんですよ。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』より

いや、でも本物のかわいさはもうこんなもんじゃないんですよ。

夜、なかなか寝ないから「いつまでも起きてるとおばけが出るよ」と脅かしてたら怖がりすぎちゃって、最近は夜になって寝るときいつも「あさ、すぐくる?」って聞いてくるんですよ。かわいさは今がMAXかもしれない。

それにうちのうーちゃん、顔立ちもすごいかわいいんですよ。だから養子だとか里子だとかっていう出自がバレたら、きっと女の子にものすごいモテちゃうんじゃないかな。

――複雑な生い立ちはモテ要素になるかもしれない?

「うーくんってドラマを背負ってるんだね。かわいそう。守ってあげなきゃ!」って女の子に思われて、モテると思いますね。

Satoko Yasuda

(後編は近日中に掲載予定です)

.........

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』は漫画配信サイト「Vコミ」で連載中 『漫画うちの子になりなよ』

(取材・文 阿部花恵 編集:笹川かおり)

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