アート&カルチャー
2018年02月04日 17時00分 JST | 更新 2018年03月04日 20時08分 JST

「男は見た目が9割。だから30歳まで老いが怖かった…」 歌舞伎町ホストが語る、“外見の劣化”問題

【カリスマホストの裏読書術 #3】 川端康成『眠れる美女』(講談社文庫) 

男は見た目が9割。ルックスが良くて肉体が若々しいほうがモテる、お金も稼げる。特に夜の街で生きるホストの世界はそうなんだろう......。

「30歳まで老いが怖かった」。歌舞伎町のカリスマホスト、手塚マキさんは正直な感想を漏らす。

しかし、と手塚さん。

歳を重ねていくことに、本当は恐怖なんてないんじゃないか。川端康成の1961年の小説「眠れる美女」を片手に語ってもらった。

Kaori Nishida

僕は今、40歳です。年齢を重ねていくのは楽しいなと日々感じていますが、実は30歳ぐらいまでは、老いていくこと、衰えていくことがすごく怖かったんです。ホストはビジュアルが超重要。20代の後輩ホストたちの若々しい見た目や身体つきをうらやむ気持ちがありました。

外見や体力の衰えに対する焦りももちろんあったと思いますが、今になってみると、他の人との比べることでしか自分を認められていなかった未熟さがあったんだなと感じます。

そういう意味では、川端康成の小説『眠れる美女』に出てくる江口老人の気持ちが分かるような気がします。「俺はまだ男として終わっていない」「外見がいつまでもカッコ良く、若々しくありたい」という考えは、男の人生にとって、本当にややっこしい問題なんです。

Kaori Nishida

裸の少女と添い寝する謎の宿

『眠れる美女』は、川端康成自身も老いにさしかかっていた、60歳の頃に書いた小説。67歳の主人公・江口老人が通うのは、海辺にある、紹介制の怪しげな宿です。

眠らされた裸の少女と添い寝することができる謎の宿に、江口老人は段々とハマっていきます。

おさわりまではオーケー、それ以上はダメというルールを守りながら、愛らしい子、小柄な子、色気がある子、寝言が多い子...と、訪れるたびに違う子と添い寝を繰り返す。

横でぐっすり眠る少女の顔を見たり、身体を触ったりしながら、江口老人はむかし交際した色んな女性を思い起こします。ある時は、若いときに、京都まで一緒に駆け落ちした女性を。またある時には、出張先の神戸で出会った、外国人商社マンの妻との情事を。

女を見て別の女を思い出すのは、男のみっともない性分ですが、江口老人が、添い寝する自分と、宿に通う他の客のジジイたちを比べるのも、またかなしい。

この宿を訪れる客はみんな「世俗的には、成功者」。

でも、もう女性とセックスすることはできないと推察し「あわれな老人ども」と見下す。そして江口老人は自分が「まだ男としてふるまえる」という自負心を、小説の中でたびたびのぞかせます。

Amazon.co.jp
『眠れる美女』(新潮文庫)

肉体が衰え、モテなくなる恐怖

僕はこうした江口老人の言動から、彼が誰よりも「老い」を恐れていると感じるんですよね。自分に優越感を与えてくれた世間のモノサシが、年齢とともに通用しなくなってくる。それが最も強く自分に迫ってくるのが、見た目や身体の衰えであり、自分は「モテなくなっている」という恐怖。

『眠れる美女』が書かれた半世紀以上前は、社会が与えてくれたモノサシから卒業したら割とすぐに、寿命を迎えていたのかもしれません。モテなくなっても、すぐ世の中からいなくなる...。でも今は違う。医療の発展などで「人生100年時代」「長すぎる老後」を迎えることを覚悟しないといけない中、僕たちはもっとポジティブに「老い」と向き合わなくてはならなくなってきています。

時事通信社
ノーベル賞受賞の喜びに顔をほころばす川端康成氏(神奈川・鎌倉市の自宅=1968年10月17日撮影)

タバコとロン毛からの卒業

ところで先ほど、僕は30歳まで「歳を取るのが怖かった」と言いました。考え方が変わってきたのは、35歳を過ぎたあたりからでしょうか。

雷に打たれるような劇的な転機があったわけではないですが、社会に目を向けてみたら、今まで知らなかったことがたくさんあったんです。

現場のホストから、ホストクラブの経営者へと仕事が変わり、歌舞伎町の外の人たちとの出会いが多くなったことも影響しています。自分がアテにしてきた「ホスト業界内」のモノサシが絶対的ではないことが、分かっちゃったんですね。

「タバコとロン毛が死ぬまで俺のアイデンティティだ」とかたくなに信じてきた自分(むかし、僕はロン毛でした...)が、変わってきたのもその頃。代官山や原宿のセレクトショップで、誰かが選んでくれたオシャレを消費するより、神保町の古本街で自分だけの一冊を見つける方が楽しいじゃん。そう思った時、自然と、老いへの恐れは消えたんです。今日より明日の方が、知っていることが増える。だったら早く歳をとった方が楽しいじゃん、と。

Zhang Peng via Getty Images
2013年9月16日撮影

2つのモノサシを持とう

人生100年。他人から「一流」の称号をもらうことに執着する瞬間があるのは当然です。でも、心のどこかでいつも「俺流」を追求するマインドがあると、"生かされる人生"から"生きる人生"に近づけるのかなって気がしています。

だからと言って、「自分だけのモノサシ」のみを頼りに生きろ、ということを言っているわけではないんです。今、40歳時点の僕は、他人からの評価なんてバカバカしいと偉そうなことを言っていますが、これからの人生、またどこのタイミングで誰かが決めたモノサシの上での「勝ち」にこだわってしまうかわかりません。誰かよりも優れている感覚って、生きる活力になりますし。

「一流」と「俺流」の2つをモノサシを乗りこなすことができたらワクワクしながら「もっと長生きしたい」って笑って生きられるのではないでしょうか。

Kaori Nishida

ところで『眠れる美女』の江口老人は、良いホストになれると思いますよ。小説に寄せた「解説」の中で三島由紀夫は、女性の肉体の美しさを描写する江口の語り口を絶賛しています。毎回違うタイプの少女たちの魅力を瞬時に捉え、言葉巧みに表現する江口老人のスキルは、一流ホスト顔負けです。

そういう点では、今後は67歳のホストが歌舞伎町で、ナンバーワンになる時代が来るかもしれませんね。それこそ、歌舞伎町のモノサシが圧倒的に変わる時代でしょうが。

(聞き手/構成:南 麻理江/ハフポスト日本版)

手塚マキ

"本好き"のカリスマホストとして知られる手塚マキさん。新宿・歌舞伎町に書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンしました。

ハフポスト日本版で手塚さんの書評を連載します。Twitterのハッシュタグ「 #ホストと読みたい本 」で、愛をテーマにした、みなさんのオススメの本を募集します。集まったタイトルの一部は、手塚さんの店に並ぶ予定です。