羽生結弦は「他の惑星から来たスーパーパワー」 ブライアン・オーサーが語った愛弟子

「フィギュア会場で最も忙しい男」にハフポストが聞いた

平昌オリンピックのフィギュアスケート会場。羽生結弦やハビエル・フェルナンデスらを指導するブライアン・オーサーは「江陵アイスアリーナで最も忙しい男」と呼ばれた。

平昌に導いた教え子は計5人。男子は羽生結弦(日本)、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)とチャ・ジュンファン(韓国)。女子はガブリエル・デールマン(カナダ)とエリザヴェート・トゥルシンバエワ(カザフスタン)。オーサーは、選手が代表する国に合わせた服に次々と着替えながら、あちこち飛び回っていた。

ブライアン・オーサー
ブライアン・オーサー
Huffpost Korea/Yoonsup Lee

羽生結弦は大会2連覇。フェルナンデスも銅メダルを獲り、羽生と表彰台に。ジュンファンは男子シングルで15位を記録し、デールマンとトゥルシンバエワは、女子シングルでそれぞれ12位と15位だった。

その中でも、ブライアン・オーサーにとって、羽生はどんな愛弟子なのだろう? ハフポスト韓国版は2月22日、現地の江陵でインタビューした。

――まず、選手たちの好成績、おめでとうございます。羽生結弦とハビエル・フェルナンデスが表彰台に立った時はどのように感じましたか?

とても誇らしかったです。男子シングルで羽生結弦が優勝し、ハビエル・フェルナンデスは3位でした。コーチの私にとって、本当に素晴らしい経験でした。2人とかなり長い時間一緒にいたからです。フェルナンデスとは7年、羽生とは6年を共にしました。表彰台に立った2人を見るのは本当に素晴らしいことでした。

左から宇野昌磨、羽生弓弦、ハビエル・フェルナンデス
左から宇野昌磨、羽生弓弦、ハビエル・フェルナンデス
AFP/Getty Images

■羽生結弦

――羽生結弦はケガをして、3カ月間のブランクがありました。その期間、どのように過ごしたのですか?

羽生はトロントにいました。序盤は本当に暗鬱たるものでした。彼が松葉杖をついて歩くのを見るのは悲しかった。羽生がどれほど練習したいのか知っていたからです。

羽生は、実際に身体を動かすかわりに、頭の中で想像しながら、床で練習をしました。そして、その練習に非常に真剣に取り組んだのです。

転換点は、オリンピックの開幕3週間前に訪れました。再び道が開かれたようでした。その時から練習を本格的に始め、計画されたすべての技をやり遂げなければなりませんでした。わたしは彼に自信を与え、戦略を立てました。そして彼はそれをやりとげました。

(写真撮影中、突然現れてオーサーにいたずらをする羽生結弦)

羽生が結果を出したのは、奇跡だと思います。羽生を過小評価したことは絶対にありませんが、羽生はまるで他の惑星から来た「スーパーパワー」でした。

素晴らしい成績を出したこと自体は、驚きではありません。そこに至るプロセスを見てきたので、ただうれしかったんです。

――羽生結弦のプログラムは、「2015/2016シーズンの焼き直しだ」という批判も韓国ではありました。これについてはどう思いますか?

このプログラムをいったん大事に棚の上にとっておいて、時間が経ってから取り出したのは、賢い判断だったと思います。本当に特別なプログラムだからです。オリンピックにふさわしかったでしょう? 2年前は、本来ならオリンピックで披露すべき演技を「早く見せすぎた」のだと思います。ショートプログラムも同じです。素晴らしく、美しく、何度見ても飽きません。

(羽生の演技を、NHKがTwitterで報じている)

――(プログラムは)羽生結弦が自分で決めたんですか?

100%、彼の選択です。私もそれを支持しましたが、彼が責任を持って下した決定でした。彼の考えることはいつも素晴らしい。メディアではいろいろと報じられましたが、このプログラムを見たいと思っている人は、本当に多かったのです。

中でも審判は、このプログラムを特に気に入ってくれました。羽生が(2015/2016シーズンに)世界最高得点を更新したとき、「この素晴らしく魔法のような演技を、自分の目で見て判定するなんて、私の人生最高の瞬間だ」と言ってくれた審判もいました。

その時の演技を直接見ていなかった審判も、今回のオリンピックで見ることができたんです。賢明な決定だったと思います。

■コーチとして挑むオリンピックとは

ROBERTO SCHMIDT via Getty Images

今回のオリンピックはとても大切でした。前回に続いて、結弦、ハビエルら、私が指導した選手たちが出場したため、彼らと一緒に過ごすことが重要でした。

結弦は金メダルを獲って、オリンピック2連覇という新しい歴史を刻もうとしていました。

結弦は、ハビエルと一緒に表彰台に立てたことを喜んでいました。前回、ハビエルはわずか数点差で4位にとどまりました。しかし、彼の姿をさらに3年間見ていられたのは、そのおかげです。4年前にメダルを獲得していたら、ハビエルはそのとき引退していたでしょう。

今回のオリンピックは、フェルナンデスと羽生の対決になるだろうと思っていました。2人とも私が指導した選手だから、どちらかに肩入れはできません。

小さい子が親に「きょうだいの中で誰がいちばん好き?」と尋ねたら、親は「みんな特別だから同じように愛している」と答えるでしょう? 私も同じですよ。私は自分の選手たちを同じように愛しています。それぞれ性格も特徴も違いますから。私は親みたいなものです。

――「江陵アイスアリーナで最も忙しい男」と呼ばれました。服を何度も着替え、5人の選手を指導しました。複数の選手を同時に指導する時、大事なことは何ですか?

細やかな心遣いが重要です。ハビエルが練習に出る時は、スペインのジャケットを着用しなければなりません。結弦やジュンファン、ガブリエル、エリザベートの時にも、それぞれに合わせた服を着なければなりません。

上から日本、スペイン、韓国。
上から日本、スペイン、韓国。
(上からMaddie Meyer/Getty Images、Maddie Meyer/Getty Images、Harry How/Getty Images)

私は計5カ国の選手たちを教えていますので、選手が同じウォームアップセッションになったときは少し複雑な気分になります。そんなときは中立的なジャケットを着ますが、選手たちの出身国を代表するジャケットも用意しておきます。

事前に計画しておくことが重要です。選手村を出発する前に、必要なジャケットをすべて用意したか確認して、導線を頭の中に描きます。ジャケットを着替えるときはスムーズに、世間の注目を集めないようにしなければなりません。体系的に準備さえすれば、それほど難しくないことです。

――いま、何人を指導しているんですか?

今回のオリンピックに出場した選手たち以外に、定期的に指導する選手が4、5人います。結弦がどんな決断をするか分かりませんが、今回のオリンピックが終わった後、ハビエルが引退するのは知っています。

――若い選手を発掘する秘訣は?

幸運にも、向こうから私のところにやって来ます。選手を教えるよりも、重要なことがあります。それは選手を理解できるよう、共に時間を過ごすことです。

チャ・ジュンファンやハビエル、結弦、ガブリエルのようなトップクラスの選手たちと練習する時は、それぞれの選手と一緒に過ごすことにしています。もし12人を同時に指導していたら、そうはできなかったでしょう。だから私は、指導する選手をかなり厳選して、数を限っています。

「急な変化」を求める選手にとって、私は適切なコーチではありません。私の指導は、通常1年半ほどかかるからです。スケートの基礎を固め、変化が表れるまでは1年半程度かかります。

練習風景
練習風景
John Sibley / Reuters

今回のオリンピックが終わったら、新しい選手をもう1、2人引き受ける予定です。この選手たちも、私が今指導している選手がそうだったように、時間がかかるかもしれないという事実を受け入れる必要があります。

ピアノを学ぶのと同じですよ。ピアノの理論を習得し、一日中、指の練習だけをするのは本当に退屈でしょう。しかし、基礎を固めなければなりません。しっかりした基礎があれば、楽譜を読んで美しい音を出すことができます。スケートも同じです。

――若い選手を抜擢するとき、必ず見る資質はありますか?

フィギュアスケートを愛しているかどうかです。私は、彼らがアイスリンクの上で飛び回る姿を見たい。エッジの授業の時、他の選手たちと力を合わせて美しい技を披露するのが見たいのです。そのためには、彼らがスケートを本当に愛していなければなりません。

――今、注目している新人はいますか?

若いけれども有能な選手を指導しています。今年、ジュニア選手としてデビューする予定で、2022年北京冬季オリンピックに向けて準備させます。

カナダのスティーブン・ゴゴレフは、2カ月前に13歳になりましたが、すでに4回転ジャンプをすべて飛べます。10歳の時に3回転ルッツをやったほどです。私の指導もありますが、彼は神から能力を授かっています。美しいスケート選手で、回転とジャンプをするために生まれた子です。しかし、まだ成長していない状態なので、これから越えなければならない課題があると思います。

チャ・ジュンファンにも注目しています。3歳年下のゴゴレフの方がチャ・ジュンファンよりも4回転ジャンプをうまく飛べるかもしれません。しかし、流れと成熟という面ではチャ・ジュンファンの方が上です。北京オリンピックは2人の対決になるでしょう。ライバル関係になるかもしれませんが、本当に興味深いです。

――コーチとしての、次の目標は何ですか?

少し休まないと。過去数年間、私の人生のすべては、オリンピックのためにありました。オリンピックのために、たくさんのことを犠牲にしました。私のパートナーは我慢して待ってくれましたし、私の世界がオリンピックを中心に回っているということを理解してくれました。

韓国、日本との時差のため、時にはメールを確認するために、未明に起きることもありました。オリンピック直前の1年間、休んだのはたった1週間でした。その1週間の間にも、パートナーが見ない間にこっそりメールを確認しました。そして今年は健康問題もありました。パートナーがとても心配していましたよ。ストレスのせいでしょうね。ストレスは万病のもとと言いますから。だから休憩が必要です。世界選手権が近づいていますが、その後おそらく1週間ほど休むでしょう。

ハフポスト韓国版の記事を翻訳・編集しました。

(翻訳/TY生)

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