どうすれば“家事の不公平感”をなくせるのか。共働き・共育て時代に、女性が大切にしたいこと

家事・育児に消極的な夫、どう説得する?

平日の家事・育児、保育園の父母会、子どもの予防接種、習い事の送迎、小学校のPTA......。

これらのほぼすべてを妻が担当し、夫はサポート役という家庭も多いのでは? 「共働きなのに、なぜ私ばかり?」と不公平感を抱いてモヤモヤしている女性もいるだろう。

働く母親は増えている。18歳未満の子どもがいる人のうち仕事をしている人の割合が68.1%(厚労省 2015年「国民生活調査」より)に達した。

しかし、料理の献立決めやトイレットペーパーの買い出しといった「名もなき家事」を担うのは女性が多いのが現状だ。

一体どうすれば夫婦間の不公平感をなくせるのだろう?

共働き・共育て時代のチームの作りかたとは? 組織マネジメントを専門とする経営学者で、育休中の会社員のスキルアップや復職支援をする「育休プチMBA」代表の国保祥子さんについて聞いた。

1児の母でもある経営学者の国保祥子さん
Kaori Sasagawa
1児の母でもある経営学者の国保祥子さん

育児に消極的な夫、どう説得する?

――共働きであるにも関わらず、家事・育児の負担は妻のほうが圧倒的に多い家庭は少なくありません。どうすればパートナーの意識を変えられると思いますか。

どんな家庭像が理想形なのかは、夫婦ごとに異なりますよね。夫が稼いで妻が家を守る、という形が理想であるのならば、そのモデル自体を否定はしません。

ただ、共働きの妻が、夫に「自分と同程度に家事・育児を担ってほしい」と望むのなら、「私も家計を背負う」という覚悟を夫に伝えることがまず大事だと思います。

――妻である自分も「一家を養う責任を分かち合う」と言葉にして宣言することが大事だと?

そうです。夫が家事・育児より仕事を優先する理由の1つは、「最後は、自分が家計を背負わなくちゃいけない」という気持ちですね。

夫が「稼ぐ主体」は男である自分だと思っていると、必然的に育児の優先度が下がってしまう。そうなると早く帰宅して育児をすることよりも、残業を断って会社との関係をこじらせるほうが"リスク"になりますよね。もちろん「面倒くさい」という理由もゼロではないと思いますが。

だから、育児や家事の負担を夫婦で平等にしたいのなら、「私も家計を一緒に担うから、あなたも家事・育児を担って欲しい」という覚悟を女性がきちんと伝えること。それが最初の一歩かなと思います。

扶養する側の重圧、扶養される側の居心地の悪さ

――国保さんご自身は、どんな風に夫婦間でコミュニケーションを取ってきましたか。

私も夫も、以前は外資系企業に勤めていたので、「いつクビになるかわからない」という感覚がキャリアの初期からあります。夫ひとりに家計を依存することの恐ろしさは、その頃から身に沁みていましたね。

その後、私は仕事を辞めて大学院に入ることになったのですが、その間は夫の扶養に入れてもらうことになりました。実は、その期間が一番、夫婦のバランスが悪かったですね。

Kaori Sasagawa

——-扶養に入ったことで険悪に?

私としては、収入を依存してしまったせいで、自分の好きなものを買うことに罪悪感を持つようになりました。夫も夫で、例えば「転職をしたい」と思っても妻を養っているとリスクを取れないという感覚がある。

お互いが自由じゃない、対等じゃないという感じがあってすごくアンバランスでしたが、これは私が再び収入を得るようになったことで解決しました。

その後、子どもを出産した後に「私だけが働いていて、夫は育休手当だけ」という状況も経験したんですよ。初日の夜は、眠れませんでした。

「私ひとりが家計を背負って、クビになったらどうしよう」「体を壊したら誰が家賃を払うんだろう」「どうやって子どもを食べさせていこう」っていろんな不安が湧き出してきて。あのときの怖さは今もよく覚えています。

――いわゆる"大黒柱"と呼ばれる役割が果たすプレッシャーですね。生活費、住宅ローン、教育費、すべてが自分の稼ぎにかかってしまう。

多くの男性はその重圧を背負っていると思います。扶養する側のプレッシャーと、扶養される側の居心地の悪さ。両方を経験したことで、私も残業を断れない男性の気持ちもわからなくはない、と思えるようになりましたね。

もちろん、それを言い訳に育児から逃げている人もいるとは思いますが、女性側も男性側のプレッシャーを理解して、かつ責任を分かち合っていかないと、男性に育児参加だけを促すのはフェアじゃないのではないかと思います。

――たとえ夫婦間で収入格差があっても、女性側は「覚悟」を伝えた方いい?

「男性と同じだけ女性も稼ぎましょう」と言っているわけではないのです。「全体の一部かもしれないけれど、私も家計を担っていく覚悟をしています」ということは、やっぱり伝えるべき。

「どうせなんかあったら辞めるんでしょ」「俺が稼ぎ続けなきゃダメなんでしょ」と思われていたら、男性の意識は変わりにくいのではないでしょうか。

「自分が万が一ダメなときは妻が一時的でも家計を支えてくれる」「プレッシャーを分かち合ってくれる相手がいるんだ」。そう思えるか思えないかで、だいぶ違ってくると思います。

女性が働き続けることは、キャリアのためだけじゃない

――実際には、「仕事にそこまでやりがいを見出だせない」という人もいます。そういう人はどんな風に思考転換すればいいでしょうか。

仕事を有意義なものにできるかどうかって、結局自分次第ですよね。

教会のレンガ積み職人が「自分はただレンガを積んでいる」と思うのではなく、「自分は皆が祈る場所をつくっている」というような長期的な視座、高い視点を持つことができれば、仕事への取り組む姿勢は変わってくるはずだと思います。

ただ、日々の中で視点ってどんどん下がっていくのですよね。下がるし、流される。

だからこそ、時々は意識して引き上げないといけない。手帳に自分の原点となる言葉を書き付けておいたり、友達と話したり......人によっていろんな方法があると思うのですけど、何かそういった自分の原点を思い出させてくれる仕組みを持っておくのは大事な気がします。

Kaori Sasagawa

――自分で視点を引き上げる工夫が必要。国保さんはどんなことを実践されていますか。

私の場合は、よく写真を使いますね。自分の感情が動いたときに見ていた風景を、撮っておくんです。そうすると後からそれを見たとき、そのときの感情を思い出せるので。

服が好きな人なら、四半期に一着は必ず高い服を買ってみるとか、とにかく仕組み化してしまうこと。もし夫が気分を上げてくれる人だったら、夫と話す時間を意識してつくってみるのもいいかもしれません。

働き続けるモチベーションを維持していくためには、視点を上げるための仕組みを自分でつくっておくといいと思います。

――女性も家計責任を担いながら働く上で、夫婦間で家庭内の役割分担を変えていくべきでしょうか。

はい。組織と同じように、家族も性別役割分業から能力役割分業に変わっていくべきだと思います。

「妻だから家事」「母親だから育児」のように、役割であり方を決めるのは、もう時代的に無理があります。それに、自己犠牲は連鎖するものだと思うのです。

――「家族のために」と、自分を犠牲にしてはいけないと。

「お母さんだから、こんなにしてあげた」「好きだった仕事を辞めて、子どものお受験のサポートに徹した」......そういう自己犠牲の先には、「こどもを産んだら自分を犠牲にしなくてはいけないのだ」と考える娘や、「妻はこどものために犠牲になるのが当たりまえ」と考える子どもが育つように思います。

それに自分が犠牲になったという想いがあると、自由に生きる人を認められないというか、自分の存在が否定されたように感じる場合もあります。その対象は自分のこどもかもしれません。

大学生たちを見ていると、親がちゃんと経済的・精神的に自立していることが、子どもにとってとても大事だなと感じます。

だから女性がずっと働き続けることは、自分のキャリアのためだけじゃないと思います。自分たちの子ども世代の生き方、キャリアを豊かにすることにも確実につながっていくはず。少なくとも私にとっては、それが一番の働く原動力ですね。

(取材・文:阿部花恵 / 編集・写真:笹川かおり)

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