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2018年03月11日 12時57分 JST | 更新 2018年03月13日 21時02分 JST

老兵は死なず…シロアリの世界では違った。高齢のシロアリほどリスクの高い仕事に(調査結果)

「昆虫の社会では、年を取ったらゆっくり隠居生活というわけにはいかないようです」

オオハリアリ(左)の侵入を身を張って阻むヤマトシロアリ(右)の兵隊=松浦健二教授提供
松浦健二教授提供
オオハリアリ(左)の侵入を身を張って阻むヤマトシロアリ(右)の兵隊=松浦健二教授提供

シロアリの「兵隊」は、老いるほどリスクの高い仕事を引き受ける――。そんな実態がシロアリ社会にはあることを、松浦健二・京大院教授らが突き止め、イギリスの科学誌に掲載された。余命が短いものが死ぬリスクの高い仕事に就くことで、もっと長生きできたはずの「兵隊」が早く死んでしまう「機会損失」を減らし、巣の防衛力を効率的に保っているのでは、とみられている。

アリ、ハチ、シロアリなどの仲間は、家族で作った大集団のなかで、おのおのが仕事を担う「社会性昆虫」と呼ばれている。この集団では、年齢で担当する仕事が変わることが知られている。これまでは年齢で仕事の能力が変わったり、機会損失を減らすことが理由として挙げられてきた。

それでは、年をとっても仕事の能力が変わらない場合はどうなるのか?そこで、ヤマトシロアリの集団を使って「兵隊」が守る場所に着目し、何歳のアリがどこを守っているかで年齢と仕事上のリスクを検証した。

シロアリは初夏になると、「働きアリ」の中から脱皮して「兵隊」になるものが出てくる。「兵隊」になってからの余命は約5年とされる。シロアリの巣は、入り口から部屋への通路が細長くなっているため、外敵が侵入しようとすると、「兵隊」が巣の出口を自分の頭で栓のようにふさいで阻止する。

外敵と直接接触するこの仕事が「最前線」にあたり、死亡するリスクが高い。逆に巣の奥で王や女王を守る「近衛兵」は、リスクが低い。

実験では、4月下旬にヤマトシロアリの巣を外から持ってきて、中にいた「兵隊」のシロアリを「老兵」とした。また、この巣にいた「働きアリ」を育て、その後新たに「兵隊」になったシロアリを「新兵」とした。その上で、シャーレの中に「実験巣」を作り、そこでどんな働きをするかを比べることにした。

松浦健二教授提供

実験巣に「老兵」「新兵」を1匹ずつ、また「働きアリ」5匹を入れた。その後、シロアリの天敵のオオハリアリを巣の外に置き、巣の中に侵入しようとしたとき、老兵と新兵のどちらが入り口で阻止するかを調べた。

すると、「老兵」が積極的に最前線に向かい、巣の出入り口に頭を突っ込んでふさぎ、外敵のアリの侵入を阻止したことが分かった。

また、「新兵」しかいない巣では、「新兵」も「老兵」並みの防衛力を示した。これで「老兵が最前線で戦うのは、新兵の防衛能力が低いという理由ではない」と結論づけている。

松浦健二教授提供

次に、王の部屋の近くで「近衛兵」として働くのは「老兵」か「新兵」かをみるため、ヤマトシロアリの巣の構造をまねた人工巣を用意。この中に、女王 2 匹、老兵2匹、新兵2匹、幼虫10 匹と働きアリ100 匹を入れた。

巣に入ったシロアリがおのおのの仕事をして巣の中を仕上げた30 日後、「老兵」と「新兵」がいる場所と、王室からの距離を調べた。すると「新兵」は女王の近くに多くいて、「老兵」は王室から離れた場所に多くいることが分かった。

松浦健二教授提供

一連の実験で、シロアリの『老兵』と『新兵』の能力は変わらないが、『老兵』が最前線で戦い、『新兵』は天敵と直接戦うことがめったにない王室で近衛兵を担っていることが分かった。

結果を受けて、研究者は同大のホームページで次のようにコメントを寄せている。

「誰かの犠牲がなければ社会全体が大きな損害を被るような場合、誰がその犠牲を引き受けるべきか。この難しい問題に直面するのは人間社会だけではありません。(中略)重要なポイントは、老兵も新兵と同じ高いレベルの防衛能力をもっていることです。老いてもしっかり戦える老兵が先頭に立ち、若手を退けてリスクの高い仕事を引き受けるシロアリの社会。まるで映画アルマゲドンのワンシーンのようですが、2億年という進化の歴史の中でコロニー全体の生産性に対して淘汰がかかり続けているシロアリ社会の話です。昆虫の社会では、年を取ったらゆっくり隠居生活というわけにはいかないようです」