「本物の僕は死んでしまった」 死者がAIでよみがえる社会を描いたマンガが胸を打つ

園田ゆりさんが『49日のブラックボックス』をTwitterで公開する理由とは…

「僕はAIだ。本物の僕は若くして不慮の事故で死んでしまった」

こんな衝撃的なモノローグで始まる5Pの短編漫画『49日のブラックボックス』が、Twitter上で反響を呼んでいる。どのような思いから生まれた作品なのか。ハフポスト日本版は作者に聞いた。

■生前の姿をAIと立体映像で再現する社会

この漫画の舞台は、死後49日だけ死者をAI(人工知能)でよみがえらせることが可能な社会だ。

主人公の少年は不慮の事故で死んだが、遺族が心の整理をするために、巨万の富を使ってAIで再現した。小さな黒い箱が少年の立体映像を映しだし、生前と同じように行動できる。

母親や、友人たちはAIを本人として扱い「こんな形でも......最後に会えてよかった」と涙を流す。

しかし、「黒瀬さん」という女性だけは「おぞましい」「こんな偶像を人間だと思うなんてどうかしてる」と言い放った。そんな黒瀬さんに主人公は伝えたいことがあった......という内容だ。

あしあと探偵』などの著作がある漫画家、園田ゆりさんの作品だ。3月12日に投稿されてから、わずか3日で2万回以上もリツイートされている。

Twitter/sonoda_yuri
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■「AIは、あくまで人間を幸福にするものであってほしい」

ネット上では「人の悲しみのありようの描写が緻密で最高です」「心震える」といった声が出ている。

ハフポスト日本版では、園田さんにどうしてこの作品を描いたのか、メールでインタビューした。以下はそのやりとりだ。

----「死後、人格を複製したAIを作る」というアイデアは、どのように発案されたのでしょうか?

実はあまり覚えていません。 いつも漫画のアイデアは、ぼんやりと何年も前から思っていることがふと形になっているようなイメージです。

----「AIが死後49日間しか存在できない」と決められている設定にしたのはどうしてですか?

実在の人格のコピーは実際にさまざまな問題があり、もし作られても制限が設けられるだろうなと思いました。 仏教の法要の「死後49日目で人の魂は極楽に行くか地獄に行くか決まる」という考えと、かけあわせて死後49日しか存在できないという設定にしました。

---- 園田さんご自身は、もし本物そっくりのAIが実現したら、人間か否か、どちらと認識すると思いますか?

死者への冒涜だと思いますが、自分の心の整理のために慰めにすると思います。

---- 今後、AIの技術が発展していくことで、失業者が増えたり、人類の観念が揺るがされるのではないか?という声もあります。園田さんは、AIと人間はどう付き合っていくのがいいと思いますか?

ときどきフィクションの中で、人間より人間らしいロボットの存在が善とされ、人間らしくない人間は悪として描かれていると感じることがあります。

好感が持てる人間らしいロボットの存在が、人間より尊重されていると抵抗を覚えます。 ロボットやAIは、あくまで人間を幸福にするものであってほしいと思います。

---- 園田さんは漫画雑誌での連載経験もあり、単行本も出されていますが、新作漫画をTwitterなどで公開しているのはなぜですか?

商業誌で定期連載してみて、自分ではそう悪いものを作っているつもりではなかったのですが、すぐに2巻で打ち切られてしまいました。

連載中驚いたのは、60代や70代のご年配の方からも何通か手紙が来たことです。 毎月700円もする分厚い雑誌を買って、ファンレターを送ったり、アンケートはがきを出したりするのはとても手間だったと思います。

少ないながらもそういう手間を踏んでお金を出して応援してくれてる人がいたのに、すぐに打ち切られてしまって読者の方を裏切ったという気持ちが強くありました。

Twitterで自分から発信してやれば、商業的都合は関係なく読者の方に直接読んでいただけます。誰かをがっかりさせることなく自分の漫画を読んでもらえると思って始めました。

好きにやっているので、ただ自分の楽しみのために描いているという面も大きいです。 思ったより反響があり、読者の方の反応も勉強になり、大変ありがたいと思っています。

---- 漫画を雑誌に掲載するのと、Twitterに掲載するのでは、どんなところが違いますか?

Twitterの漫画はたった数ページですので、思いついたらすぐに描いて完成でき、すぐに読者の方に読んでいただけるので楽だなと思います。 お仕事でお金を頂いて責任を背負ってやっていることではないので、軽い気持ちで描けて助かっています。

■商業誌の厳しい現実とTwitter

園田さんが、Twitterに作品を投稿するのは、作者からダイレクトに読者に作品を届かせる手段だった。これだけの作品を描く人でも雑誌連載が続かず、商業誌で作品を発表する場を持てないという現実の厳しさには驚かされた。

園田さんは他にもTwitterPixivで、短編漫画を公開している。今回の漫画が気に入った方は見てみるといいだろう。

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