里子と特別養子縁組。マンガ家の古泉智浩さんが、いまの家族を語りました。

家族に必要なのは思い出。血のつながりじゃない。
2017年、ハフポスト日本版のインタビューに答えるマンガ家の古泉智浩
Satoko Yasuda
2017年、ハフポスト日本版のインタビューに答えるマンガ家の古泉智浩

あなたが考える「家族」とはなんですか?

「養子縁組」にどんなイメージをもっていますか?

4月4日は「養子の日」。ハフポスト日本版では「家族のかたち」を特集している。「里親・里子」や「養子縁組」という家族のありかたについても、実際に里子と特別養子縁組したマンガ家の古泉智浩さんに、過去に2度インタビューしてきた。

その古泉さんと、児童福祉を専門とする文京学院大学の森和子教授の特別授業が2月、渋谷男女平等・ダイバーシティセンター〈アイリス〉で開催された。授業タイトルは「家族になるって、なんだろう。~養子縁組から考える家族のかたち~」。参加者の声や当日のディスカッションをレポートする。

「養子縁組についても最近考え始めた」参加者も

授業に先立ち、テーブルごとに参加者同士で自己紹介をした。

「自分でもよくわからないけど、なんとなく養子縁組というものに興味があって」と語る若い男性もいれば、「不妊治療をしているが養子縁組についても最近考え始めた」と打ち明ける既婚女性や、孫が2人いる女性もいた。性別や未婚・既婚に関わらず、幅広い年代の人が参加していた。

血がつながらない「うちの子」が増えました

「親になりたい」と強く願いながらもさまざまな事情でそれが叶わない大人もいる。この日の講師で、マンガ家の古泉智浩さんがそうだった。

Hanae Abe

古泉さんは2015年刊行の『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』では不妊治療を経て0歳児の里親になるまでの経緯を、続編『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』では、その里子と戸籍上の親子になるまでを描いて話題を呼んだ。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』より

実は最近、古泉家にもうひとり家族が増えたのだという。

「現在、2人目の赤ちゃんを里子として預かっています。だから今のわが家には、特別養子縁組をした3歳の長男うーちゃん(仮)と、生後数カ月の里子である女の子の2人の子どもがいます」

数カ月前、古泉さんのもとへ「もうすぐ生まれる予定の赤ちゃんを預かってもらえませんか」と児童相談所からの依頼が来た。

「性別も知らされず、病気や障害を持って生まれてくる可能性もある。すごく悩んだのですが、僕も49歳ですから。赤ちゃんを預けていただける機会なんてもう二度とないだろうと考えて、この子を絶対に預かりたいと思いました。

『もうすぐうちに赤ちゃんが来るけど、優しいお兄ちゃんになってくれる?』とうーちゃんには伝えたのですが、オモチャの部品をすり合わせながら『......こうすると、いい音が出るんだよ』と無視されましたね(笑)」

年末、無事に誕生した赤ちゃんはしばらく乳児院でケアされていたが、その間、古泉さん一家は1日おきに乳児院に通った。うーちゃんも赤ちゃんに徐々に親しみを抱くようになっていったそう。

「新生児って緑色のうんちをするじゃないですか。それを見たうーちゃんが『僕が緑色が好きだから、赤ちゃんは緑のうんちを出してくれたんだね!』って喜んでいました(笑)。2人目の赤ちゃんは驚くくらいいい子で、今のところはまだ育児もすごく楽です」

うーちゃんのときと同様に、2人目の赤ちゃんも古泉家で里子として養育される予定だ。その後、特別養子縁組が実現できるかは、実親の意思が関わってくるため、まだわからないという。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』より

里親のもとへ委託された子どもたちの変化

「家庭に引き取られて、いきいきと変わっていく子どもたち。そんな嬉しい姿をこの15年間で何度も目の当たりにしてきました。と同時に、施設養護の限界も痛感しました」

文京学院大学の森和子教授は、埼玉県所沢市の児童相談所が運営する「里親サロン」の立ち上げから関わってきたメンバーだ。

Hanae Abe

乳児院や児童養護施設から里親のもとへ委託された子どもたちは、家庭生活を体験してどのように変化していくのだろうか。15年以上に渡って現場で見てきた森さんは語る。

「大人だって初めて訪れる場は緊張しますよね。里子、養子になった子どもも同じ。最初は様子見の期間があります。

わがままを言わず、いい子にしている。しばらくすると試しの時期に入ります。今までできていたことをやらなくなり、抱っこ抱っこと激しく主張したり、偏食や過食に走ったりします。

一見、わがままにも思える行動ですが、その裏には『自分をもっと見て、構って!』という願望がべったりと張り付いている。里親・養親さんがここでしっかりと受け止めてあげることで、親子としての絆が生まれます。

職員の努力だけでは受け止めきれないジレンマ

森さんは、児相などの養護施設の存在を否定しているわけではない。職員たちの涙ぐましいまでの努力を間近で見たきた。

だからこそ、養護施設の構造的に子どもたち一人ひとりを十分にケアすることは難しいことを熟知している。

「施設の職員の方々は、本当に一生懸命やっていらっしゃいます。職員さんの努力は本当によくわかるんです。それでも、施設には大勢の子どもたちがいますから、全員を、一人ひとりを、十分に受け止めることは、どうしても無理なんです。

他人と絆を結ぼうとする愛着行動は、人間の本能です。24時間、1対1で愛情を注いでくれる大人に出会えなかった子どもは、成長して大人になってからも不安や苦しさが消えない。

だからこそ、子どもが健全に育つためには、血縁を越えて、特定の大人との安定した信頼関係が継続されることが必要になります。里親制度・養子縁組の意義はそこにあります。

実親に再会しても、交流が続かなかった理由

虐待や親の病気などの理由で実親と暮らせない子どもは、日本に約4万5000人いる。そのうち里親および養子縁組といった家庭養護の子どもの割合は15%。残りの約85%の子は施設で暮らしている。

厚労省が2017年に発表した「新しい社会的養育ビジョン」では、6歳以下の子どもの75%を7年以内に里親委託に、特別養子縁組の成立件数を5年間で現在の約2倍の1000件にする目標を掲げている。

ひとり親、ステップファミリー、同性カップルからなる家庭、代理出産などの生殖補助医療による親子関係など、家族のかたちは多様化している。

最後に、森さんは次のように話した。

「養子として育てられた子が、大人になって実の親きょうだいに会いに行った話を聞きました。その子は自分のルーツがわかったことに納得しながらも、その後、実の家族と交流を続けることはありませんでした。なぜだと思いますか?

それは"思い出"がないからなんです。皆さんが家族について考えるとき、そこにはいろんなエピソードがありますよね。でも一緒に過ごす時間がなかった実親との間には思い出がない。親子だからといって、交流が続いていくケースばかりではないんですね。

けれども血がつながっていなくても、思い出を積み重ねれば"親子になる"ことはできます。さまざまなハードルはありますが、家族というものは血縁だけでとらえてはいけない。それが数多くの里親・養親さん家庭を長年見てきた私が学んだことです」

(取材:阿部花恵

家族のかたち」という言葉を聞いて、あなたの頭に浮かぶのはどんな景色ですか?

お父さんとお母さん? きょうだい? シングルぺアレント? 同性のパートナー? それとも、ペット?

人生の数だけ家族のかたちがあります。ハフポスト日本版ライフスタイルの「家族のかたち」は、そんな現代のさまざまな家族について語る場所です。

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