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2018年04月11日 15時57分 JST | 更新 2018年04月11日 18時35分 JST

海賊版サイトへのアクセス遮断要請に反対 大学教授ら緊急提言(全文)

「法治国家原理からの深刻な逸脱と理解せざるを得ない」

アクセス遮断のイメージ画像
Getty Images/iStockphoto
アクセス遮断のイメージ画像

政府が検討している「海賊版サイトへのアクセス遮断」について4月11日、大学教授や専門家による研究機関「情報法制研究所」が反対する緊急声明を発表した。

声明は、もし政府が緊急性があるからといって、法律を作らないまま、インターネット事業者(プロバイダー)にアクセス遮断を要請すれば、「法治国家原理からの深刻な逸脱」になると、厳しい表現で批判。

アクセス遮断の要請をしないよう、政府に求めている。 著作権を無視して漫画やアニメを掲載する「海賊版サイト」へのアクセス遮断について、政府は3サイトへのアクセス遮断をプロバイダーに要請する方向で調整に入ったと、毎日新聞などが報じている。

声明は、特定サイトへの接続遮断をすれば、電気通信事業法や日本国憲法が保障している「通信の秘密」の侵害になると指摘。政府は刑法37条の「緊急避難」を適用する構えだが、要件を充たすかどうか「疑問が多い」としている。

 

■サイトブロッキングとは?

著作権を無視して漫画やアニメを掲載する「海賊版サイト」に、ネットユーザーがアクセスできなくなる「サイトブロッキング」が実施することを政府が検討している。3つの海賊版サイトへのアクセス遮断を、政府がプロバイダーに要請する方向で調整に入ったと、毎日新聞などが報じた。

特定のサイトへの接続遮断は、電気通信事業法や日本国憲法が定める「通信の秘密」に抵触する。政府は刑法37条の「緊急避難」を適用する構えだが、法曹界からは「明らかに無理がある」と指摘する声も出ていた。

  

■情報法制研究所とは?

4月11日に緊急提言を発表したのは、法律学者らによる研究機関「情報法制研究所」(JILIS、鈴木正朝理事長)だ。情報法制に関する研究と政策提言を目的として、2016年に設立された。

今回のJILISの提言は、曽我部真裕・京都大教授をリーダーとする12人の研究チームによるもの。賛同者として弁護士や研究者ら35人が名前を連ねている。

提言では「著作権保護の重要性を否定するものではない」としつつも、海賊版サイトの遮断要請に「緊急避難」を適用することは「疑問が多い」と指摘されている。

また、国会での審議がなされず、省庁での検討も議事録が一部公開されていないとした上で、「緊急性を理由に法律という形式を潜脱することは、法治国家原理からの深刻な逸脱と理解せざるを得ない」と断じている。

  

■緊急提言の全文

著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言
平成30年4月11日一般財団法人情報法制研究所
情報通信法制研究タスクフォース
(研究主幹:曽我部真裕)

このたび政府において検討されているプロバイダに対する著作権侵害サイトのブロッキング要請(以下、「本件要請」という。)には、以下の通り、法的に見て大きな問題があり、このような要請を行うことは差し控え、立法前の要請の可否、ブロッキングという措置自体の是非も含めて改めて冷静な議論を行うよう緊急に提言する。

1.「緊急避難」(刑法37条)の要件充足性に関する疑問

日本国憲法21条2項後段は、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めている。

その趣旨を踏まえ、電気通信事業法は、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は侵してはならないと定めた上で(同法4条)、通信の秘密の侵害に対して罰則を課している(同法179条)。

そして、ブロッキングは、ユーザーのアクセス先のサイトをプロバイダが逐一確認してそれがブロッキング対象のサイトである場合にアクセスを遮断するものであるから、通信の秘密の「知得」「窃用」の構成要件に該当する。

このようなブロッキングは、問題のサイトへアクセスしようとした利用者だけでなく、利用者一般の通信の秘密を「知得」するという点で、典型的な通信の秘密の侵害に当たる。

例えば、現在自主的な取組として行われているマルウェア感染サイトへのアクセス遮断も、ブロッキング同様、機械的にアクセス先を確認するものであり、利用者本人の明確かつ事後的に撤回可能な同意の下ではじめて、その適法性が許容されてきた。

こうした厳格な要件が課されているのは、このような措置が通信の秘密の侵害に該当するからにほかならない。

この点、本件要請においては、緊急避難(刑法37条)として違法性が阻却されるため法的には問題がないと整理されているようである。しかし、緊急避難が認められるためには現在の危難、補充性、法益権衡といった要件が必要であるところ、本件要請の想定するブロッキングがこれらを充たすかどうかには疑問が多い。

例えば、補充性要件に関連して、警察による摘発や被害者による法的措置の努力が十分に行われているのかどうかが不明であるし、法益権衡要件に関しては、著作権という財産権が当然に利用者一般の通信の秘密に優位するといえるのか疑問である。

なお、ブロッキングによる通信の秘密の侵害は、通信の遮断すなわち通信の自由(通信を通じて情報を摂取する自由)そのものの侵害をも伴う重大なものであることに留意すべきである。

確かに、現在も児童ポルノに関し、通信事業者の自主的な取組として同様の法的構成でブロッキングが行われているが、そもそも児童ポルノの流通自体が児童の人格に対する重大かつ回復不可能な侵害であることに加え、次に述べるようにブロッキング基準を定めて一定以上の悪質な児童ポルノサイトのみ対象とするなど、緊急避難の要件の充足に疑義のないよう慎重な考慮がなされている点を看過すべきではない。

なお、児童ポルノのブロッキングは、通信事業者が自主的に設立した独立の民間団体(ICSA)がブロッキング基準にしたがい、実際のブロッキングの対象とされる個々のサイトを客観的、公正かつ慎重に判断している。

これに対して、本件要請は、政府が3つの著作権侵害サイトの具体名を挙げて削除を要請する予定といわれており、憲法の禁止する政府による検閲(憲法21条2項前段)に該当するおそれがあることにも、留意が必要である。

2.法治国家原理からの逸脱

個人の権利を制限し、あるいは義務を課すためには法律(又はその具体的な委任を受けた命令)に基づかなければならない。この法治国家(法治主義、法の支配)原理は、日本国憲法41条等で定められている重要な原理である。

法律という形式によることによって、国民代表である国会議員による公開の場での審議が行われ、また、その内容に問題があれば裁判所による違憲審査等のチェックを通じて国民の権利・自由が守られることになる。

しかし、本件要請は次の点において法治国家原理からの逸脱と言わざるを得ず、問題が大きい。

すなわち、本件要請は政府の高いレベルでの検討に基づく重みのあるものであり、プロバイダに対しては事実上の義務付けとして機能することが意図されており、実際、そのように機能するだろう(そうでなければ、要請する意味がない。)。

にもかかわらず、国民代表たる議員による審議がなされず、行政府での検討においてさえ、議事録の一部が公開されないなど、公開性にも欠けるところがある。

しかも裁判所による事後的なチェックも十分にはなされないと見られる(緊急避難が成立するかどうかという点は判断されうるが、ブロッキングのスキーム全体に対して裁判所の審査が及ぶ可能性は低い。)。

1でも触れたように、ブロッキングは通信の秘密や通信の自由を侵害し、さらには検閲にも該当しうる重大な措置であり、政府がそれを(事実上)義務付けることが仮に可能であるとしても、そのための要件や手続について法令による慎重な制度設計が必要なはずである。

以上の問題点は、本件要請を法律制定までの緊急措置だと位置づけたとしても解消されない。

むしろ、十分な検討期間がありながら緊急性を理由に法律という形式を潜脱することは、法治国家原理からの深刻な逸脱と理解せざるを得ない。

3.通信の自由を支えるプロバイダに対する不合理な負担

ブロッキングの実効性については、懐疑的な声が多い。

とりわけ、現在の児童ポルノブロッキングで主流となっているDNSブロッキング方式については、これまでもユーザーに知識があれば回避可能であるとされていたことに加え、最近では回避のための技術的な手段が開発されているため、仮にブロッキングを実施したとしても十分な効果は期待できない。

これに対して、そうだとしても一定の効果はあるのだから、本件要請の必要性を否定する必要はないという考え方もあるかもしれない。

しかし、こうした考え方はプロバイダに生じる運用面のコストのみならず、ブロッキングに対する訴訟提起や刑事告訴・刑事訴追のおそれ等の負担を考慮していない点で問題がある。

プロバイダはインターネットによる通信の自由を支える現代社会において不可欠なインフラであり、それに不合理な負担を課すことによってプロバイダの活動に悪影響を及ぼすことになれば、ユーザーに対する通信の自由にも負の影響が懸念される。

なお、URLブロッキング方式は現在のところ回避が困難であるとされるが、同方式の導入・維持には多大なコストを要し、本件要請によって求めうるものではないことは言うまでもない。

4.結論

著作権保護の重要性を否定するものではないが、本件要請には以上のような重大な法的問題点があることから、政府においては、このような要請を行うことは差し控え、ブロッキングという措置自体の是非も含めて改めて冷静な議論を行うよう提言する。

最後に、本件要請が容認されるということになれば、今後、様々な違法サイトに対するブロッキング要請を否定することが困難になり、本提言で指摘したような問題がますます深刻になり、通信の秘密・自由や検閲からの自由、法治国家原理が危機にさらされるおそれすらあることを指摘しておく。

以上