『エロマンガ表現史』 北海道で有害図書指定。なぜ書いたのか? 著者に聞いた。

「漫画研究を行う上では決して避ける事ができないジャンル」

成年向け漫画の研究書「エロマンガ表現史」(太田出版)が3月30日、北海道で有害図書指定された。どこを問題視したのか道庁に取材するとともに、著者に現在の思いを聞いた。

「エロマンガ表現史」(太田出版)
「エロマンガ表現史」(太田出版)
Huffpost Japan

■「エロマンガ表現史」とは?

「エロマンガ表現史」は、美少女コミック研究家の稀見理都(きみ・りと)さんが、2017年11月に出版した単行本。

成年向けコミックによく見られる表現が、どのように発明され、「共通言語」となっていったのかを、豊富な図版を引用しつつ解説したものだ。

全392ページのボリュームがあり、税抜き2500円で発売されている。

北海道は青少年健全育成条例に基づき、有識者の審議会を経て「青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」と判断したという。18歳未満への販売が禁止され、書店などでの陳列も一般書籍と区別されることになる。

性的描写を引用しているとはいえ、研究書が有害図書指定されるのは珍しい。

前参院議員の山田太郎氏はTwitterで「解説書もダメなのかと規制が広範囲に拡大することを懸念(する)」とつづっている

■北海道庁「ネット上などで話題になっていることは知っていますが...」

この本のどこか問題になったのだろうか。ハフポスト日本版は4月17日、北海道庁・道民生活課の担当者に電話取材した。

審議会の議事録は非公開だという。ただし「有害図書」にあたるか、県庁が審議会で意見を求めた理由については、以下のように説明した。

「前書きにはエロ漫画表現の変遷について研究・解説したものと書かれているが、男女の裸体や性的行為の露骨な描写が多数掲載されていることから、著しく性的感情を刺激するものと判断しました」

その上で、次のように話した。

「ネット上などで、今回の指定が話題になっていることは知っています。ただ、この本の価値を否定するものではなく、18歳未満の青少年が読むのには、ふさわしくないという判断です」

■著者は語る「漫画研究を行う上では決して避ける事ができないジャンル」

著者の稀見理都さんにも18日、メールでインタビューした。北海道庁に有害図書指定されたことをどのように考えているかを聞いた。

---北海道で有害図書に指定されたことを知ったとき、どう感じましたか?

名古屋で友人と飲んだあと、新幹線のホームで、また別の友人からのDMで知りました。全然情報がなかったので「え、どういうこと?」という感じで、逆に友人に詳細を聞き返した感じです。

---発売時、国内のどこかの自治体で有害図書指定されることは想定していましたか?

全く想像していませんでした。

---現在、稀見さん自身は、今回の指定について現時点ではどのように考えていますか?

どういう経緯で、どういう理由で「有害」と見なされたのかがわからないと何とも言えない感じですね。

---北海道庁では「著しく性的感情を刺激するものと判断した」ようですが、この判断については、どう思いますか?

「春画研究」や「医学書」と同じ意味合いだと感じていたので、そのへんとどう違うのかが気になります。

---成年向けコミックは、漫画研究の中でも、あまり語られることのない分野ですが、あえて単行本というかたちで出版したのはなぜでしょう?

特に「あえて」と思ったことはないです。語られてこなかったから、語ろうと思っただけですね。

---成年向け漫画のどんなところに、研究テーマとして魅力を感じていますか?

本の中にも書いていますが、性的な表現は「成人向けコミック」だけのジャンルではなく、どのマンガのジャンルにも付随している重要な部分であり、漫画研究を行う上では決して避ける事ができないジャンルだと考えています。

---「エロマンガ表現史」の出版後、読者からはどんな反響がありましたか?

最初は「エロマンガ」という表題から、エロいくだらない本だと思われる人が多かったみたいですが、読んでみたら思った以上に真面目で面白かった、と言う感想の方が非常に多かったです。

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